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緊急事態が発生しました。

「戻られたばかりで申し訳ないのですが、緊急事態が発生しました。」

 副ギルド長のザルツは、落ち着いた表情で静かに言った。


 ザルツはアレンより少し上の年齢だが、実務能力の有能さは群を抜いている。

 王都からまだ帰還していないブルーノの代わりに、今はシスの冒険者ギルドを統括しているのだが、その手腕には目を見張るものがあった。事実、ブルーノがアレン達と王都に行っている間、何の齟齬(そご)も発生させずにギルドを運営している。

  (かつては王都の冒険者だったという噂もあるが、それは定かではない。)


「いったい、何があったんです。」

「順を追って話をしましょう。」

 ソファーの背もたれから全員の背中が離れた。

「10日ほど前、スパカブ村からゴブリン退治の依頼があり、討伐に(おもむ)いたC級パーティーからの連絡が途絶えたんです。そこで<紫の雨>(モラードジュビア)にD級パーティーを二組つけて応援に向かわせました・・。」

 そこでザルツは少し口淀(くちよど)んだ。

「残念ながら2名のD級魔術師を除き、スパカブ村ごと壊滅しました。」

 アレン達は思わず息を吞んだ。

 <紫の雨>(モラードジュビア)<紅の翼>(エールルージュ)と同じA級のパーティーである。7つあったシスの街のA級パーティーのひとつで、特に調査探索には定評のあるパーティーだった。

 シーフ2名、魔術師3名、戦士1名と攻撃力には今一つの感があったものの、巧みなチームワークでミッションをこなしてきた巧者である。それが壊滅するなど信じられなかった。

「生き残った魔術師の話によると、ゴブリン、ハウンドウルフの混成部隊にひとたまりもなかったそうです。」

「魔物がチームを組んで人を襲うなんて事があるんですか?」

 ザルツは無言で首を振った。

「今までにそういった例は報告されていません。それと、もう一つ気になる報告があります。」

「それは?」

「襲ってきた魔物の中に、ひときわ大きい牛頭の魔物がいた・・・と。」

「まさか、ミノタウロスですか!?」

「牛頭の巨人と言えばミノタウロスを連想しますけど、それが地上にいるとは思えないわ。」


 魔物はダンジョンだけでなく、確かに地上にもいる。

多くは小物の魔物で、普段は深い森の中にいる。時々は人間を襲うのだけれども、大抵はDクラス以下のパーティーに撃退させられている。

 ミノタウロスと言えば、A級またはS級に分類される魔物であるが、それが地上に居て、下位の魔物を統率しているというのは、誰も聞いたことがなかった。


「僕は魔風穴(まぶうけつ)を疑っています。」

 一同に緊張が走った。


 魔風穴(まぶうけつ)というのはダンジョンから地上への直通の通路である。

ダンジョンに変革が起こると、時として魔風穴(まぶうけつ)が出来る事がある。確かにスパカブ村は暗黒の迷宮(オプスキュリア)に近い。新たに14階層が出来たばかりで、今はそれを封印しているものの、十分に可能性はあった。

 そして魔風穴(まぶうけつ)は時として魔物大暴走(スタンピート)を起こす。それにもし14階層と繋がっていれば、メラーアベイユが地上に出現する可能性もある。

 確かに放っておける事案ではなかった。


「それで僕らに調査に行けと?」

「そうです。」

 アレンは少考して、こう言った。

「オッサ・・メギド・ダイムラーを助っ人として付けてもらいたい。」

「それは出来ません。」

 即答だった。

「なぜです? 僕らの今の状態では戦力不足です。せめてA級の魔術師がいなければ、敵と遭遇した時に満足に戦えません。」

「でしょうね。」

 ザルツは当然のことのように返事をした。

「では・・」

()()()()を表に出すことは出来ないと、ギルド長からきつく釘を刺されています。」

「話にならない。」

「お怒りはごもっともです。ですが、今の現状ではお望みのA級魔術師は手配できない状態です。代わりと言ってはなんですが、生き残ったD級魔術師二人と、B級パーティーを二つサポートにつけましょう。」

 ザルツはすでに手配済みのようである。

 それに専属になった以上、理由もなく断ることも出来ない。


 アレン達は別室で待っている生き残りのD級魔術師と面会した。

「初めまして、あなた方が<紅の翼>の皆さんですね。お噂はかねがね・・・私はアーモン。そして彼がヘイゼルです。」

 アーモンと名乗る魔術師は、物腰の柔らかな男だった。シスの街では2年になるという事だったが、アレン達は彼らの事をよく知らなかった。

 アーモンは痩せぎすで神経質な印象を受ける。魔術師にはよくあるタイプの性格のようだった。一方、ヘイゼルは小男で顎に髭を生やしていた。アーモンとは対照的に、身なりにあまり気を使うタイプではないらしく、何年も着古したローブを纏っていた。ただ眼光は鋭く、常に獲物を追っているような目つきをしている。お互い30代の半ばと言ったところであろうか、とにかくベテランであることは間違いなさそうだった。


 アーモンの語るところによれば、スパカブ村に到着後、<紫の雨>(モラードジュビア)はすぐに手分けして聞き取り調査を始めたらしい。40人程度の村なので、聞き取りはさほど時間がかからなかった。大した情報も得られなかった彼らは、翌朝から行方不明のC級パーティーが向かったであろう方角に向かって捜索がなされることに決まった。


 その時は、すぐに見つかるだろうと誰もが思っていた。

作戦前ではあるが、村人の勧めもあって、夜は酒宴となった。


「ところが、その夜のうちに夜襲を受けたのです。」


 見張りに立つ者もいなかったせいで、村はあっという間に蹂躙された。アーモンとヘイゼルの二人も命からがら逃げるのが精一杯だったのだと言う。逃げるさなか、星明りの中で巨大な牛の角を持った巨人が住居を破壊していたのを見ている。

<紫の雨>(モラードジュビア)が壊滅したのは見てないんですね?」

「あの有様じゃあ、誰も生きちゃいねえよ。みんな酔いつぶれてたしな。」

 ヘイゼルが横から割って入った。

「私どもでは力不足でしょうが、同行させていただき、精一杯働かさせていただきます。」

「なんなら<紅の翼>に入れてもらっても構わねえよ。聞きゃあ、魔術師、それも赤と黒がいねえんじゃ、ダンジョンにも潜れねえだろう。」

「ヘイゼルさん。口が過ぎますよ。」

「へいへい・・。」

 アレンは静かに二人を見つめた。

「それは願ったり叶ったりです。ただ・・今は人選をしている段階なので、候補として考えておきましょう。」

 にっこりと笑って二人と握手した。


 シスの街の冒険者はけっこう層が厚い。それは近くに2つの迷宮があるからだ。他の土地から一獲千金を夢見てこの街に来る者も相当数いる。とはいえ、王都のようにS級の冒険者がゴロゴロしている訳では無い。

 シスの冒険者ギルドの中では、現在のところA級パーティーが最上位である。

A級パーティーと呼ばれるパーティーは7つあって、それぞれに色の名前を冠していることから<虹の冒険者たち>(アルクァンシェール)とも呼ばれていた。虹になぞらえてあるのは、ウクリナ王国の創生神話の影響もあるのだろう。

 パーティとしては個人的にはS級もいるしB級もいるものの、シスの冒険者たちの総合的な評価は国内でも高かった。

 特に<紅の翼>は仲間の魔術師を失い、A級での実力が疑問視されている状態で”専属”になったのだ。早急に補充が必要なのは誰の目にも明らかである。

 今までの例から言えば、D級魔術師がA級パーティーに入ることはまずないが、システムとしてはなんの問題も無かった。確かに二人の赤と黒の魔術師がいれば、ギタンの役割をサポートできるだろう。今後の活動の危険度が下がるのは間違いがなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・


「なあ、ホントにあの二人を仲間に入れるのか?」

 帰り道、街を歩きながらシャールが怪訝そうアレンに問う。

「あたしは嫌だな。オッサンはオッサンでもメギトとは違うよ。なんか気持ち悪い。」

「確かに私一人では心許ないでしょう。それでもあまり気乗りは致しませんわ。」

 アレンが不意に立ち止まると、振り返って3人の方を向いた。

「あいつらに絶対気を許すな!」

 アレンの顔は明らかに不機嫌そうだった。

「命からがら逃げかえってきた直後だというのに、ケガもしていなければ、服装に汚れも無い。<紫の雨>(モラードジュビア)がどうなったかすら報告できない。だいたい仕事の最中にあいつらが酔いつぶれるハズなどある訳ないじゃないか。」


 沈み始めた夕日を背にしたアレンは、怒りに震えているように見えた。

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