収納魔法は絶対必要デェス!!
話の舞台設定を記しておきます。御覧の通りDQやFFシリーズなどにありがちな中世ヨーロッパをモデルにした架空の異世界が舞台となっておりますが、転生モノではございません。
当然ながら剣と魔法の冒険活劇風の話にしたいと思っとります。ここでの魔法設定は一応詠唱型ですけども、長い詠唱はまず出ないでしょう。魔法使い=魔術師と言うのは白魔法とか黒魔法とか職性による明確な区別は無く、単純に回復系の魔法を得意とするものは白、攻撃系を得意とするもは黒。補助系を得意とするものは赤と言う具合に便宜上の区別だけにとどまります。
さらに、魔物も出るしギルドもあるし冒険者もいる訳です。
ただ、魔物についての設定は肉体を持ってはいるものの、生物としての定義は難しい所です。ここでは魔物に死骸は残りません。食べる事も不可です。
なぜなら、魔物は魔石と言う魔力を集積した鉱物に纏わりついた魔素の集積体という設定です。よって、生物としての意思と本能的な物、あるいは個体特性はあるけれど、その生命活動が終えると単に魔石として残るという設定です。ただし、その理由については明言しません。
あらかた世界観の説明は終わりです。
「ランクC以上で、収納魔法が使える魔術師が絶対条件なんだ!」
アレンの荒い鼻息に、ちょっと顔を顰めた受付嬢のセリーヌであったが、落ちついた表情で彼女は静かに答えた。
「Cランク以上で、収納魔法が使える魔術師で、今空いている人物をお探しになられている。・・・そういうことですね。」
「そうだ! しかも急ぐ! 大至急だ!」
シスの街の冒険者で人格者として知られるアレンの慌てふためきは異常であった。
「どうしてそのような人物をお探しで? <紅の翼>はギタン様と言う立派な魔術師がいらっしゃるじゃありませんか。」
「それが!・・・」と言いかけて、アレンは口ごもった。
事の顛末を説明しよう。
アレン<紅の翼>は昨日冒険者ギルドから一つの依頼を請け負った。
その依頼とは、シスの街で<紅の翼>と肩を並べるA級冒険者パーティー<蒼い牙>の救助要請である。
数日前から<蒼い牙>は、<暗黒の迷宮>に潜っていた。任務は新たに見つかった14階層の探索なのだが、一昨日に魔道具による救難信号をギルドが受け取ったのだ。
そして、その救出に選ばれたのが<紅の翼>だったという訳である。
「死んだんだ。」
アレンが悔しそうに俯いた。
「まさか・・・どうしてそんなに急に?」
セリーヌにとっても寝耳に水の出来事だった。昨日もギルドのカウンターに現れて、軽口をかわしたばかりである。
「ギタンの事は後で話す。それよりも救出要請だ。事は一刻を争う。」
セリーヌはそれで納得した。
迷宮の最下層に救出に行くとなれば、迅速な行動が必要だ。それには物資を異空間に収納できる収納魔法は必要だろう。ましてや未知の階層に挑むとなれば、物資は多い程良い筈。
しかし、だ。
「残念ですが、今ここに居る冒険者はE級以下の方たちばかりです。それに収納魔法を使える上級魔法使いは限られています。」
確かにそうだった。それはアレンも承知はしていた。テーブル席には数人の冒険者が屯してはいたものの、彼らでは足手まといになるのは目に見えていた。そう都合よくフリーのベテラン魔法使いが転がっている訳がない。C級でも相当な譲歩なのだ。
「それは・・・・分かっている。分かっているが、それでも何とかならないか? この通りだ!」
アレンは深々と頭を下げた。
<蒼い牙>のリーダーは彼の幼馴染である。二人で街に出て、切磋琢磨してきた二人なのだ。だからどうしても助けたいという切実な気持ちは、セリーヌにも分かっていた。
「もしかすると・・D級冒険者なら、なんとかなるかもしれません。」
「本当か! そいつはどこにいるんです!」
「それが・・・」
セリーヌの顔が困惑の表情を見せた。
そのとき
ギイィとギルドの入り口の扉が開いた。
入って来たのは鉄の鎧に身を包んだ大柄な中年の冒険者だった。ゴツイ体躯にスキンヘッド、ぎょろりとした目玉に団子鼻。それでいて人懐っこそうな笑みを浮かべている。だが、どう見ても戦士のタイプだ。魔術師にありがちな陰気なオーラが感じられない。
(彼が彼女のお勧めの人物だとしたら、都合が良すぎるよな。)
アレンは自分で自分の妄想を打ち消す。
「メギドさん!!」
セリーヌは嬉しそうな声を上げ、大きく手を振った。
男はセリーヌに気づくと、笑顔で小さく手を振る。
そして大股でカウンターへと近寄って来るではないか。
「あの・・もしかしてあの人が・・・?」
「ええ、そうです。D級ですが、彼は有能ですよ。」
セリーヌの顔は自信に満ちていた。
しかし、アレンにはその男に見覚えが無かった。冒険者ギルドに所属して数年経つがこんな目立つ男に気が付かない筈は無かった。それにしても都合が良すぎる。ギタンの死も突然だったし、ひょっとして、これは夢?
「どうしたんだ、セリーヌ?」
「お願い、メギド。この人を助けて!」
セリーヌの言葉に、ぎょろりとした目でアレンをマジマジと見つめた。
「兄ちゃん。何をシケタ顔してるんだい?」
ごつい顔が笑った。
それでも圧は感じない。にたりと笑った顔に悪意は無さそうだが、こういうのが実は一番危ないんだ。
と、そう思いながらもアレンはいきさつをかいつまんで話し始めた。
「・・ところで、あんたは収納魔法を本当に使える魔術師なのか?」
「ああ、使えるな。」
メギドは事も無げに答えた。
「じゃあ、今すぐ来てくれ、仲間たちに会わせる。」
「お仲間はどこへ行ってるんだ?」
「昨日集めた物資の再調達に走り回ってる。2時間後には潜る予定だから、急いでるんだ。」
メギドは顎に手を当て、少し考え込むようなそぶりを見せた。
「急がば、回れ。」
「え?」
「行く前に一つ聞きたい。お前さんのパーティーの分け前はどうしてるんだ?」
「どうしてそんな事を聞く。」
「こういうのは、初めに約束しとかんと後でゴタゴタしちまうからな。」
アレンは少しムッとしたが、言われて見ればもっともである。
「俺たちは得た物は当分に分配する。アイテムは特性に合わせて配るけど、魔石は公平に分配している。」
「では、俺にも均等に配分してくれるのか?」
「足りないなら、ボーナスも出す。」
「いや、それはトラブルの元だろう。俺はそれでいい。」
意外な答えだった。アレンはちょっと驚いた。
「俺はメギド・ダイムラーだ。よろしくな、兄ちゃん。」
ごつい右手をアレンに差し出した。
アレンはその手をがっちりと握る。
「アレン・シトロエン。剣士だ。」
掌が固い。毎日剣を握って鍛錬している手だ。
(こいつ本当に魔術師なのか!?)
「兄ちゃん。お仲間への紹介は置くとして・・・だ。まずはギタンと会わせてくれねえか?」
メギドは突拍子もない事を言い出した。
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脳筋と銘打ちましたけど、そんな感じにならないような出だしとなってしまいました。一応お笑いは控えてリアルにまじめに描こうと思います。では。




