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いつの間にか朝になり、透は疲れた体を引きずって春香の部屋を訪ねていた。透が来たことに驚きはあったが、とりあえず迎え入れた。

「疲れてませんか?そのままご帰宅されても良かったのに……」

口ではそう言いながらも、足を運んでくれた事に嬉しさが随所に出る。

「ただ……お前が心配で」

素っ気なく答えながらも、ソファに腰掛ける。


「昨日は……ごめん。俺、酔ってて……。お前も酔ってたんだろ?だから……その……昨日のことは……俺も酔ってたし、お前も酔ってたよな。だから、あれは……まあ、その、間違いだったんだろう」

少し切なくなり、自分が喜んで迎え入れた事を後悔するが、顔や態度には出さないように心がける。

(もしかして…本当に忘れたいの?それとも……ただ戸惑ってるだけ?)

「……そうですね。お互い酔ってましたし、忘れましょう」

努めて明るく昨日の事は酔った勢いだった事にしようと提案する。透の表情は、納得したようにも見えたし、どこか後ろめたさを抱えているようにも見えた。

「そうだな、お互い忘れよう」


しばらくして透は良いアイデアが浮かんだようにニヤッと笑うとテーブルに座りながら

「俺たち、お互い忘れるって言ったけど、本当に忘れるには酒の力を借りるしかないんじゃないか?どうだ、付き合えよ」

春香も気持ちを吹っ切ろうとその提案に乗った。


またその日の夕方、店で待ち合わせをし二人グラスを合わせた。

「乾杯」

お互いに一口。

「どうだ、気分は」

「悪くないですよ。さぁ、悪酔いしない程度に飲みましょう!」

調子よく微笑みながら言う。

「そうだな、悪酔いはよくない。」

透はワイングラスの縁を指先でなぞりながら、ぼんやりと春香を見つめる。『それで……この前、俺が言ったことだけど』躊躇いがちに口を開く。

少し躊躇してから

「あの時俺が好きかもって言ったのは本当だよ。ただ……それは一時的な感情だったのか、それとも違うのか……自分でもよく分からない。」

春香はグラスを傾けながら、透の言葉を飲み込む。『一時的な感情』——その言葉が胸の奥にひっそりと落ちていく。

グラスを持ち上げて春香に向かって軽く傾ける。


(一時の感情か...)

胸の奥がきゅっと締めつけられる。でも、泣くわけにはいかない。楽しい雰囲気を壊さないように、笑顔を保つ。

「そう言う時もありますよね」

春香の微妙な表情の変化に気づくことなく、透はいつも通りの余裕を漂わせている。

「そうそう、そう言う時もあるさ」

しばらくそうしてワインを飲みながら他愛ない話をしていた二人。いつの間にか、徹は少し酔った状態で舌がもつれ始める。

「でもな……俺が、お前を好きだって言ったのは……あれは本当だ」

ツッコミたくなる気持ちを抑えて、そうですかとだけ答える。透は舌がもつれているのを感じながらも、言葉を止めない。

「それで…つまり、春香はどうなんだ?」

(何てひどい人だろう)

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