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次の日の朝、春香は勤務のため早く病院に出勤する。エレベーターを待っていたところ、ちょうど病棟に来た透と鉢合わせた。

「あ、おはようございます」

挨拶をすると、透は軽く頷きながら答えた。

「ああ、おはよう。今日当直だって言ってなかったっけ?俺も当直だよ。一緒だな。」

(当直……一緒か。ふふっ。)

心では小躍りしそうなくらい嬉しいのに、顔には出さないように努めるが、ほんのり口元は人には分からない程度に緩む。

「そうですか、よろしくお願いします」

彼も知らないうちに口角が少し上がる。

「ああ、よろしく。じゃあ後でな」


彼の後姿を眺めふうっと息を吐く。

(ちゃんと普段通り出来たかな?)

そう思いながら自分の仕事に戻る。

春香は会うたびに徹を目で追っていた。だが目が会うとどうしていいか分からず逸らす。

(しっかり仕事に集中しないと)




(今日はあまり話せなかったな……)

雅はメッセージでも来ないかと思うが、いやいやと頭を振り、シャワーで頭を冷やしてからひと眠りしようと立ち上がる。立ち上がった瞬間にスマホの通知音にドキッとする。開くと徹からのメッセージ。緊張しながら、思わず唾を飲み込む。


[徹] 寝てる?

[春香]まだ起きてます


[徹] ちょっと話せる?

[春香] どこでですか?


[徹] 俺、お前のマンションの前なんだけど、出てこれる?

[春香] あ、ちょっと待ってください


春香は慌てて身支度を整え、鏡で自分の姿をチェックする。靴を履き、マンション前に待ってるであろう徹に会いに行く。

タバコを吸いながらぼんやりと空を見上げていた徹を見つけ春香が駆け寄る頃には、彼は慌ててタバコを消した。


「ごめんなさい。待ちましたよね」

透の姿を見て、ちょっと心がキュッとなる。

首を振りながら

「そんなに待ってないさ」


恋人同士みたいな会話に照れるが、違う違うと冷静に努める。

「えっと……話ってなんですか?」

透は少し躊躇してから口を開く。

「あー……それが……」

(流石に告白とかじゃないよね……。そうなら嬉しいけど……)

思わずあらぬ方向で質問する。

「悩み事ですか?私で良ければ相談乗りますよ」


「いや…悩み事じゃないんだ。ただ……」

彼は深く息を吸い込んで、透は言葉を選ぶように、一瞬口を閉じる。そして、躊躇いがちに視線を春香に向けた。

「俺……お前のことを……」

胸が高鳴る。

(続きは?聞きたい!聞きたい!)

心臓がうるさい。


顔を上げて春香を見つめる瞳は揺れ、声は少し震えている。

「お前のことを……」

唾を飲み込みながら

「好き……かもしれない」


心臓が跳ねる。

(でも…『かも』って何?確信じゃなくて、可能性?期待と不安が入り混じる。)

少し不安な気持ちを抱えながらも色々思い悩んだ末、とりあえず自分の気持ちを伝える事にした。

「私は……」


その瞬間、徹は眉間に皺を寄せた。

透の表情の変化に気づき、春香は自分の気持ちよりも先に心配そうな瞳で彼を見つめた。

「先生?」

「あ……いや……なんでもない」

そう言いながら、春香に向かって笑顔を作るがその笑顔はどこかぎこちなく見えた。

それを見て自分の気持ちを伝える事を少し後回しにする事にした。先程感じた違和感を……自分を信じてみる事にした。

「先生が、本当に私を『好きだ』と言える日が来たら……その時に私も答えます。その時にちゃんと私の気持ちを伝えますから」

(その時はちゃんと私も好きだと言おう。『好きかも』なんて曖昧な告白は嫌だ)


春香は部屋に戻りため息をつく。あれで良かったのか…それとも自分の気持ちを伝えるべきだったのか……。グラスにワインを注ぎ、一気に飲み干す。ワインの渋みと酸味が喉を焼くように染み渡る。

なぜ、彼ははっきりと『好きだ』と言えなかったのか。その曖昧な言葉が、胸の奥で何度も反響する。

静かにグラスを傾ける。ワインの苦味が、今の気持ちと妙に馴染んだ。

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