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透はキッチンに行ってワイン2杯を持ってくる。
「ほら、一杯やれ。こんな夜には酒でも飲まなきゃな。」
ワイングラスを軽く合わせる。チンッという軽やかなグラスの音が木霊する。
「新人、お前は酒強いか?そうか?ならよかった」
二人は並んで座って映画を見始める。透はソファの端に座っていたが、気づけば春香のそばへと自然に寄っていた。
映画を見ていると、なんだか眠くなってきたのか、春香の肩に頭を寄せはじめた。
「先生……?」
目を半開きで
「 うーん…あ、ごめん。少し疲れてたみたいだ」
「お疲れでしたらお休みになります?私が帰ってもいいですし」
首を振りながら
「いや、大丈夫だ。お前が来たんだから、ちゃんと送り返さないとな」
「じゃあ、映画見終わるまで寝てて下さい。終わったら声かけますから」
「そうか、悪いな」
再び目を閉じる。規則正しい息遣いが聞こえてくる。
(いや……まさか肩を貸すことになるなんて思ってなかったけど…仕方ないか)
左肩の重みをそのままに動く事も出来ずに映画を見る。
映画が終わりかけ、クライマックスに達すると、肩にかかっていた重みが消える。
「春香……」
「あ…起きました?」
軽くなったので透をみる。
「うん……」
目の前にいた春香を見て慌てて体を起こそうとするが、足がもつれて床に転がり落ちる。
「あ、くそ…...」
春香はくすくすと笑いながら手を差し出す。
「大丈夫ですか?手貸しましょうか?」
その手を掴んで立ち上がろうとしたが、春香を自分の方に思いっきり引っ張ってしまう。
「あっ……」
バランスを崩した春香が透に抱きつくような形になった。
「すっ……すみません!」
春香は焦りながら透から離れる。
透もまた急いで立ち上がり、髪をかき上げながら
「 俺の方こそ、ごめん」
気まずくなりそうだったので、春香の方から言い出す。
「流石に女の私が引き上げるのは、力が足りなかったですね」
春香は照れ笑いを浮かべる。
「まあ、俺がデスクワークばかりで運動不足なだけだ」
(沈黙が気まずい)
「えっと……映画…見終わったので、今日はこれで失礼しますね。ありがとうございました。また明日」
「おう、気をつけて帰れよ」
ドアの前まで徹が見送りに行く。
ドアが閉まると、透はソファに座り込んでため息をつく。
「はぁ……くそ……」
しばらくぼーっとしていたが、ふと春香にメッセージを送る。
『新人、明日の当直頑張れよ』
透はベッドに横たわり瞳を閉じた。
次の日、透はいつものように出勤し、当直のため少し遅い時間に来た春香と顔を合わせる。
片手を上げて挨拶する。
「おう、新人。当直大変だろうけど、頑張れよ」
病棟を回りながら患者のカルテをチェックする。夕食時間を過ぎ、夜11時頃、救急室に電話がかかってきた。
「はい、こちら救急室ですが」
受付嬢が緊迫した声で言う。『今、10代の少女が急性ショックを起こして運ばれてきているんですが、血液型がないので輸血ができず…現在意識不明の状態です』
先程のオペを終えて手術室を出てくると、廊下の長椅子で春香がうずくまって眠っている姿が徹の目に入る。当直で疲れているだろうに、患者のことを心配して待っていたのだろう。
透は静かに歩み寄り、その隣に立った。薄暗い廊下に、彼女のかすかな寝息だけが響く。よく見ると、白衣のポケットにはチョコレートの空袋が何個か入っている。おそらく手術がうまくいくようにと願掛けして食べたものだろう。
クスッと笑いながら、そっと春香の肩を叩く。
「 新人、もう朝だぞ」
もぞっと肩に触れられた感触に身体を揺らす。
「あ……、はい……。すみません」
透は少し微笑みながら
「お前がこんなにしなくても、うちの新人たちはみんな優秀だぞ。もう家に帰って休め」
「はい、じゃあお先に」
ふらっと立ち上がり、透がふらつく春香を素早く支える。
「気をつけろよ」
「あ、すみません」
春香は笑顔を浮かべ、しっかりと立つ。透は春香の白衣を整えながら、さりげなく支える。
「 謝ることないよ。当直明けだし、俺が送っていくよ」
寄りかかってしまった事に少し照れながら”宜しく”と答えた。
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