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第六話 あざとさMAX

 過去の、過ち。

 ゆっくりと暗闇の中に意識が吸い込まれていくのを感じながら、俺は目を閉じた。



過去。


「ラート、ラート」

「どうしたんだ、千晶(ちあき)


 ここは… 実家? なんだか今と少し違うような気がする。昔の実家、と言ったほうが近いだろうか。

 ラートと呼ばれた青年、ガルヴァラート=アレクレッドは俺の方へと近づいて抱き上げると、「暁斗、父さんだぞー」と不器用に笑って言う。俺を下ろすと「あっちで遊んでおいで」と魔力瓶(半界でのおもちゃのようなもの)を俺に手渡してきた。

 何やら父さんと母さんは話をするらしい。少し耳を澄まして聞いてみることにした。


「ラート、暁斗をどうしましょう」

「どうするって、何をだ」

「半界の学校がいいのかしら、人間界の学校のほうがいいのかしら、魔界の学校のほうがいいのかしら… どの学校に行ったら、暁斗は幸せに学生生活を送ってくれるのかしら…」

「ここ半界の学校がいい。半魔が魔法学校に行っても苦労するだけで成果はない。人間界の学校は今から行くには遅いだろう」

「そうよね…」


 学校の話をしてるってことは… 今の俺は10歳ほどだろうか。人間界では確かにちょっと遅い。だからといって魔法を使えない俺が魔法学校に行くのもあれだしな。懸命な判断だと思う。

 というか結構重要な単語が出てきたんだけど。なに半魔って、そんなの初めて聞いたんですけど。


「すまない千晶、俺のせいで…」

「いえ、わたしが貴方を選んだのですから。半界に移住するって決めたのも、わたしの意思なのですから。ラートが気を追うことではないんですよ」


 ニコニコとして千晶はラートの頬に短くキスをした。あざとさMAXじゃねえか。これにはちょっとカタブツなラートも真っ赤だ。


「!? ち、千晶…!」

「いい? ラート。半界で生きるうえで、暁斗を人間として育てるの。魔法も使わない。人間として、育ってもらうの」

「ああ、もちろんわかっている」

「…暁斗!?」


 じっと見つめていたのが母さんにバレた。その直後父さんが俺の額に手を当ててなにか呟いた。


【アンネシア】


 それと同時に俺の中に記憶がなだれ込んできた。


 …戻ってきた。追憶の部屋に。そして数分も経たないうちにまた視界は揺らいでいった。



~~~


そのころ、ラストたちは。


「暁斗、いつに起きてくれるんだろう」

「さあな。あそこで話した者は誰一人としてそれ以降目を覚ますことはなかった。今回もその確率は限りなく高いだろう」


 突然倒れた暁斗の身体をラストが背負って進んでいく。話してはいけないと言われた区間を過ぎてからはそのように雑談しながら進んでいた。


「うーん、ラスト」

「どうしたのプライド。魔物でもいた?」

「アキト君、このまま何もしなかったら死んじゃうんじゃない?」

「…え?」


 空気が急に重々しくなった。プライドは兵士と僕に止まるように言うと障壁をはって、再び話しだした。


「プライド、一体どういうことなの?」

「プライド…さん。教えてくれ。一体この男に何が起こっているのか」


 プライドは話し出した。今暁斗に何が起こっているのか。


「今、アキト君は夢を見させられているの」

「夢?」

「ある条件を満たすまで覚めない夢。目覚めるまでの間、少しずつ核が壊れていってしまうの」


 魔族だろうが人間だろうが天使だろうが神だろうが、核を持つ生物は核が壊れたら本当の『死』を迎えてしまう。欠片が残っていれば秘術でもとに戻せるらしいが、その欠片すらも壊れてなくなってしまった場合、どんな手を尽くしてもその者が生き返ることはできなくなる。


「ということは、今まで帰ってこなかった者たちは…」

「核が全壊してしまったの」

「だからこのまま何もしなかったら、暁斗は死んでしまうってことなんだね」

「改善策はあるのか? 私としても、この男を王に引き渡さなければ立場が危ういのでな。できれば死んでほしくない」

「ないわ」


 兵士は目を見開いた。プライドはさらに続けた。


「今の私たちは、核に干渉する力は持っていない。持っているのは、せいぜい核の周りに干渉する力だけ」

「どうすれば…」

「兵士さん、ここから起こることは、他言無用でお願いね」


 兵士は、目に映る光景を、疑った。ロン毛の男が地面に手を付けると目に見えるほどどす黒い魔力となって男に吸い込まれていった。一言呟くと、男の身体が変化していく。髪は暗い茶髪から白髪混ざりの黒髪になって伸び、それにあわせて半袖が長袖に、短パンが長ズボンに。


【死霊捧契】


「アキトくん。痛かったらごめんね」

「えっ、ちょっ」


 大道芸のような光景に驚きすぎた兵士は、兵士としての体裁を維持できなくなったようだ。


「ごめんなさい兵士さん。目を閉じていていいから」

「えっと、なにを…」

【ラスト、目覚めて】


 まるでおとぎ話のワンシーン。少女は大道芸を繰り出した男の口に口づけした。その途端、男は目を覚まし、起き上がった。


「お、起きた!?」

「ラスト、わたしの言う事、わかる? 【そして私を抱きしめて、私に手をあげて】」


 少女が行った通りに、大道芸男は動いた。少女を抱きしめて、破廉恥に少女の服を脱がそうとした。


「ええ。わかってるようね。【ラスト、『暁斗』くんに干渉して】」


 兵士はもう考えるのをやめた。

アンネシアは忘却魔法。一度かければ物を忘れさせ、二度かければ忘れた物を思い出させる。


くっ…! タイトルに使えそうな台詞がこれくらいしかなかった…!

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