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閑話 契約

「瀬くん… 帰ってきて…」


 あれから一週間か経った。瀬くんは階段から落ちたあと、高等病院へと送られて、治療を受けた。階段の踊り場で頭から血をだらりと流して、虚ろな目をしていた、あの光景は脳裏にこびりついて離れない。

 魔族のお医者さんまで来て回復魔法までかけてもらったかいがあったのだろうか、あのときみたいな顔の青さも、あのときみたいな速い呼吸も、今はすっかりいつも通り。いつも通り、なんだけれど…


「暁斗さんなら、まだ起きてないよ」

「そうですか…」


 やわらかな声で私に声をかけたのは、彼に回復魔法をかけたお医者さんの、リアさん。魔族のなかでも回復においては指折りの実力を持ち、完全回復の能力を持っていることで有名だ。


「どうして起きないんでしょう…? わかりますか…?」

「…悪いけれど、私にはわからないの。基本、私のこの能力は、死亡してからあまり時間が経っていなかったら完全回復できるもの。だけど、核が完全に壊れてしまったり、どこかに行ってしまったりしたときは、完全に回復することは出来ないの。核を修復するか、捕獲するかしないと、正常な状態には戻らない」

「捕獲って…」

「たまに核が逃げてしまう時があるの。現実に嫌気が差していた者や、大きな苦痛を感じながら死んだ者の核は、安らかに死んだ者よりも遥かに高い確率で核が逃げると、わかっているわ」


 現実に嫌気が差していた… 瀬くんは、そんな素振りを見せていなかった。なんなら、「新作が出るぞ!」とうきうきしてSNSに投稿していたほどなのに。


「落下死は… 大きな苦痛に入るのですか?」

「まあ、ものによるけれど… 今回の彼の死に方は、間違いなく大きな苦痛であったと考えられるわ」

「そうなんですか…」


「リア様! 新しい患者さんです!」

「今すぐ行きます! …ごめんね、起きたら教えて!」


 リアさんは病室を急いで出ていった。


 真っ白なベッドの上で静かに目を閉じている瀬くんを眺めていると、さっきリアさんが座っていた席の横の小机に一冊の本が置かれていた。


「これは… 医療の本?」


 表紙には、『死亡状況と回復状況についての記録① 著:ヴェルハ』と書かれている。私は静かに1ページ目を開いた。



――――――

1ページ目


 これはただ我、ヴェルハが出会ってきた死体の精神状態、死亡状況、回復状況についての記録である。


名:Al…

姓:

年齢:15

死亡状況:大型の刃物による刎首、大量出血、落下死

精神状態:いたって良好

回復状況:一度回復した、と述べられているが述べた者の精神は壊れており、幻覚を見ていただけの可能性があり、真偽は不明。


〜中略〜


?ページ目

名:Cr…

姓:…ral

年齢:27

死亡状況:魔力槍で自身を貫いた

精神状態:悪い

回復状況:核分離後、半核転移のため、回復した


名:L…t

姓:Wraithguilt

年齢:

死亡状況:魔力許容量を遥かに逸脱した魔法の行使

精神状態:良好

回復状況:不明。失踪した。

――――――

 このあともずっと同じ書き方で、ぎっしりと名前と死亡状況、精神状態、回復状況が書かれていた。見るのも疲れてきてぺらぺらとページをめくっていたとき、ふとある名前が目に入った。


名:なう

姓:…中

年齢:15

死亡状況:腕に大小様々な傷、縄を首に巻き付けて天井からぶら下がっていた

精神状態:限りなく悪く、いつ死んでもおかしくはなかった

回復状況:核転移につき、回復の見込みなし。


 初めて日本語の名前を見た。ほかは基本ローマ字か、見たこともない文字だったから、新鮮だ。

 とりあえずこのページは覚えておくとして、他にも日本語の名前がないか、探してみよう。



 ぺら、ぺらと1ページづつ見ていったが、他に日本語の名前があったのは、瀬くんだけだった。


名:暁斗

姓:瀬

年齢:17

死亡状況:階段で落下死。落ちた衝撃で頭から大量出血。

精神状況:いたって良好。

回復状況:核転移につき、回復の見込みなし。


 何度か見えた、核転移という文字。どこかへ行ってしまった、とリアさんは言っていたけれど…


「転移… どこか遠い所へと行ってしまったの?」

「リア、経過観察に来たぞ」


 狭い病室に、子供を背負った大きな女の人が現れた。布面積が少なすぎて目のやり場に困る。


「リアさんなら、新しい患者さんの手当てに行きました」

「貴女が持っているそれは、どこで手に入れたんだ?」


 貴女は誰だと聞こうとしたとき、彼女は私の手元を見て、尋ねてきた。


「リアさんが置き忘れていったんです。気になる題名だったので、ちょっと読んでしまいました…」

「そうか、リアがこれを持っているのか…」


 彼女は疲れたように子供を降ろすと、私に近づいてきた。


「彼に会いたいか?」

「…え?」


 瀬くんと、会えるの…? 本当に?

 わたしがそう思ったとき、彼女は黒煙を出して姿を変えた。身体の左半分からタイルが貼り変わるように、大きな男になった。さっきの布面積が少ない服からは一転、布の暴力とも言えるほど着込んだ姿になった。


「もちろん、会えるぞ」

「…貴方は、何者?」

「我は… 魔神、ヴェルハだ」


 魔神ヴェルハはそう言うとツカツカとわたしのもとへと歩くと、手を差し伸べた。


「汝、我と契約し、原初の魔族となるがよい」


 原初の…


 わたしは、魔神ヴェルハの手を取った。

なんで閑話のほうが文字数、多いんだろう…

作者は元気だよ、たぶん。


核転移、すなわち異世界転移…?

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