第二話 お前、そんな見た目だったのか!?
気づいた頃には、目の前にいたドラゴンは片付けられていた。
なぜかさっきまでの記憶がない。
なんでだ!?
――だって、貴方よりも僕のほうが、強いから
?
困惑する俺に彼は言う。
――あれが言っていなかったかい? 貴方より強い者と契約したら、身体を乗っ取られる、って
「ああ!!」
「大丈夫? ドラゴンなんかに突っ込んでいって、どこか痛む?」
「大丈夫だよ、マーヤ」
――別にやろうと思えばこのまま貴方の身体を好き勝手出来たけどね。どんなことだって、できたよ
その言葉を聞いて、相手が格上だからなのだろうか、それとも、彼が痴れ者だから、なのだろうか。どこかがぞわりとした。
契約したからだろうか、彼のことが手に取るようにわかる。彼は、間違いなくマトモなものではない。原初の魔族だかなんだか知らないけど、なんか厨二臭いことを口走ってるし、俺に話しかけるときの声色からして、どこか異常者の片鱗を感じるし、なんか色欲の悪魔だとか言ってたし!! 実際これが異常じゃなくて何なのか、そんなの俺が知りてえよ!!
――まあ、身体はたまには借りるけれど、そのかわり、貴方の命令に従おう。もちろん身体は使った後に返すから
たまに借りるって何だよ!! 嫌な予感しかしない!!
「あ、あの、さっきはすまない…!」
可憐な女の子の声。さっき叫んでたあの子か。
「こんなに強いなんて知らなくて…! 本当に、すまない!!」
「えっと…」
おい、どうすればいいんだこういうときは! 俺がやったわけじゃないんだけど!!
――じゃあ僕が、貴方の身体を借りればいいんじゃない?
なんかヤダ!! どうやって言えばいいのか教えてくれ!
――それなら貴方の意識を残したまま、僕が話そう。貴方は中で、じっくり見ていればいい
「…謝られるほどのことじゃない。僕が幼いのは事実だ。ただ僕の安全を考えて言った言葉だったのでしょう?」
「…、ああ。許してくれて、有難う」
やるじゃん、お前。
――貴方より、僕は長く生きているから、当然だね
原初の魔族だとか悪魔だとか言ってたけど、なんなんだ?
――人のいるところではあまり、話さないほうがいいよ、暁斗
それってどういう…
「あ、あの… 大丈夫、ですか…?」
「え?」
「さっきまでひとりで…」
「え?」
「だからマーヤ、むやみに人を拾ってこないで!」
「こんなに小さい子を、放って置くなんて、あなた達にはできるの?」
「こんな痴れ者、この村にはいらないわ。たとえどんな小さな子供でも」
「マーヤ…?」
「悪魔の子供よ! 災いをもたらす、悪魔よ!」
なんか悪魔とか言われてるんだけど! どうしよう!
少し黙ってみたけれど、俺を悪魔呼ばわりする声は変わらない。そんなに未練もないし、この村を出ていくことにしよう。
「マーヤ。僕、この村を出ていくよ」
「…」
マーヤは俺が自分の元を離れていくのが、嫌そうだ。
「僕がここにいて、マーヤが困るのなら、僕はこの村を去る」
「そうね! それがいいわ」
「い、嫌! 行かないで… わたしは、困ってなんか…」
「ばいばい、マーヤ。またどこかで会おう」
「アキト…」
俺は小さな村、ドラゴフォースを去った。
いつのまにか、あの冒険者の少女は姿を消していた。大きな街へと向かったのだろうか。
「悪魔だ、とか言われたんだが、どういうことなんだ?」
――多分だけど、僕の気配を感じ取ったんじゃないかい?
「は? 俺の中にある奴の気配を感じ取れるほど、あいつらは強かったってことか!?」
――アキト、君はまだまだ弱い。か弱いものが強い者を隠すことができるわけが、ないだろう?
「ラスト」
――うん、どうしたの?
「俺の中で話すのはやめてくれないか。またあんなふうに言われたら、困る」
――それなら、僕より強くなれ。僕より強くなれば、僕の姿かたち、貴方の好きにすることができるから
「今の俺では出来ないのか?」
――出来ないことはないけれど、今の貴方が僕を実体化させたら、悪魔の子と呼ばれていたのが、悪魔を横に連れた変態、に変わると思うね
「…まあ、それでもいい。実体化してくれ」
――わかったよ
彼がそう言うと、俺の手に何かが集まっていき、魔法陣が現れる。魔法陣からはひとつの人影が見える。ぼんやりとしていた人影はやがてはっきりくっきりとし、俺の目の前に姿を現した。
「お前、そんな見た目だったのか!?」
正直、俺が想像していた彼の姿は、もっとジジ臭い、オジサン構文を使いこなす「セクハラ上司」のような、ちょっと禿げた中年だったのだが、実際出てきたのは、長髪で下まつ毛の主張が激しい、割と綺麗な顔をした、美青年だった。綺麗な、とは言ったが、前言撤回したいと俺は思った。
「ええ。僕はこんな見た目だよ。貴方の思念体はクールだったけど、随分と『アキト君』はかわいいんだね」
思念体… 多分それは俺の前世の姿のこと、だろう。
だが俺はそんなことよりも、その後ろの言葉が気になった。
「どういう意味だそれは」
「さあ。貴方の好きなように解釈すればいい。貴方は、僕をどんな奴だって思ってたんだ?」
「ハゲた中年のオッサンだと思ってたよ」
「あはは、面白いことを言うね、貴方は」
「だけど、お前がオッサンみたいな見た目じゃなくて、よかったよ」
「どうして?」
「オッサンみたいな見た目だったらお前、誘拐犯だと思われてたかもしれないぞ」
「そんな奴、わからせればいい」
怖い怖い。こいつがひとつ話すだけでぞっとする。
俺はひとつ、これだけはするということを心に決めた。
—―ケツだけは死守せねば!!
キャラ紹介・用語説明、あとがき
【瀬暁斗】
ハヤセ アキト
階段で足を踏み外して死んだ一般的な高校生。
骸骨からスキルを授かり、異世界へと転生した。
ラストの熱視線に怯えながら、過ごしている。
【ラスト】
原初の魔族であり、色欲の悪魔。つおい。
ひそかに(?)暁斗を狙い続けている。
【理神ミレイ】
本名 ミレイ=レジスト
女神。めちゃくちゃロリ(スラっとした感じが)で、かわいい。
【マーヤ】
オバちゃん。優しい。
【冒険者? の女の子】
うん、かわいい。ちょっとキリっとした目つき、ポニーテールを後ろで結ったらショートカットに見えるような髪の毛が特徴。
—―あとがき
暁斗君はラストからケツを護りきれるのか…!?
作者でもその答えは知らないですな
次回 第三話
近日公開。