第八話 ここが魔界なんだ!
ここが、魔界なんだ!
俺は、魔界に足を踏み入れた。居住区と違って、上を見上げれば赤黒い空、下を見れば舗装されていない時折草が生えている土の地面。木も真っ直ぐな居住区とは対照的に曲がりくねって変な方向を向いている。居住区では見たことないような鮮度の自然を見て、俺は思わず立ち尽くしてしまった。
魔界に踏み入れたはいいが、何をするのかを特に考えていなかったため、金も道具もなにもない。とりあえず散策して、またここに戻ってこよう。そうしよう。
「…本当に見たことないものしかないな」
誰も聞いていないだろうに俺はひとりごとを呟いた。そこらじゅうから変に甘い匂いや、生臭い空気が漂ってくる。分かれ道はだいたい片方に靄がかかっていた。野生の勘で俺は靄がかかっていないほうを選んで進んでいった。
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「あれは、人間… と魔族のハーフか」
「お兄ちゃん、どうするの?」
「まあ観察して、危ないようならばこちらで保護する。いいな?」
「もちろん」
「勿論だ」
暁斗を探して魔界中を探索していたとき、聞きなれた声が聞こえた。前の主の子? 話しかけてみよう。
「アルト君」
「…俺をそう呼ぶってことは、お前か。ラスト」
「プライドは一緒じゃないのか?」
「ちょっと聞いて欲しいことがあるんだ」
彼らに今起きていることを話すと、快く保護に賛成してくれた。まあ、僕が言わなくても助けてくれてたんだろうけど。
アルトとアルマは僕の言ったことの意味をわかったらしい。流石、自分で魔法を創った子とその理想人格からできた子は違うね。エターナルはちょっとぽかんとしたが、アルトが説明すると理解したようだ。
「暁斗… ってやつをさりげなく居住区に追い返せって、難しくないか?」
「力ずくなら一瞬なんだけどねえ」
「なんでアルトに頼んだんだ?」
「エターナルはでかいから怖いだろうし、アルマに任せるにはちょっと弱い」
「はっきり言ったね! そんな私弱くないよ」
「なんだかんだクオリアが使えるアルト君は強いんだ。暴力沙汰にすることなく場を鎮められるのはこの中でアルト君だけだ」
とりあえずそれっぽい理由だけつけた。僕の主で元人間だし、ちょうどいい気がしたんだ。
「僕が直接行くことはできないから、さりげなく頼んだよ!」
実体化を解いてふわりと空中に浮き上がった。アルトがブツブツと文句を言っていたような気がするけど、まあ所詮気のせいだ。
「暁斗、無事に帰ってきてね」
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「あははは… ってあら、つい恋バナに夢中になっちゃったわね」
気づいたら夜になっていた。ここが安全な場所だとわかっているからこその恋バナだったが、いくら安全な場所と言っても、いつ危険が迫り来るかはわからない。
「まだ大道芸男とラストは帰ってきていないな」
「もう、名前くらい覚えなさい」
「ハヤセ、アキト… だったか」
「そうよ!」
「この男が帰ってくるまで、この男のことも教えてくれ」
「勿論! …といっても私はこの子のことをあんまり知らないんだけどね」
「この男を深く知る者は、いるのだろうか…」
私は急いで食料を調達しようとその場を立ったが、兵士のお姉さん… シェロは鞄から食料を取り出した。
「これでも食べて眠ろう」
「ありがとう、シェロ」




