プロローグ
「では皆さん、さようなら。また月曜日に会いましょう。」
やっと一日が終わった。今日はいつになく長かったような気がする。明日は待ちに待った新作の発売日! 今日は早く寝て明日のために英気を養おう。
俺はわくわくしながら教室から飛び出て階段を降りた。そのときだった。
「…!」
急に謎のめまいがしてふらりとする。体幹からくらくらとし、足元もおぼつかない。これが普通の床だったらなんともなかっただろう。だが、俺がいたところは、何十段もある階段だった。
「先生! 瀬くんが!」
「暁斗、大丈夫か、暁斗!」
先生たちの声がする。次第にその声は遠のいていき、温かいものに触れながら俺は、学校の階段で、その一生を終えた。
なにか聞こえる。アニメ声みたいな…
「――様、暁斗様」
俺を呼んでいる? なんかこの感じ見たことあるような…
「暁斗様!」
目を開けると、そこには一人の可憐な少女がいた。人間と似てはいるが、頭の上では輪っかがふわふわ飛んでるし、なんか耳はアニメで見たエルフみたいだし、なんか羽みたいなのも生えてるし神々しいし!!
「貴方は?」
どうにか紳士っぽさを出して俺は彼女に問う。答えてくれないかと思っていたが、意外にも彼女は答えてくれた。
「私は理神ミレイ=レジスト。貴方をとある世界へと転生させるため、引き留めさせていただきました」
さらっと重要なことを言ったなこの子。神とか言ってなかったか? 転生? ラノベでこんな展開、何度でも読んだわ! もしかしてそんな感じ?
「とある世界って、なんだよ?」
「その世界とは、クラミスティア。今、クラミスティアは、世界の危機を迎えているのです! そこで、貴方達人間に、勇者として! 世界の危機を救ってもらうのです!」
「はあ!?」
…嘘だろ!? なんでこんなに聞いたことある言葉ばかり話すんだこの神!! 人間の空想がこんなにも現実に起こっている、その事実が恐ろしい!
「お願いします! クラミスティアをお救い下さい!」
「うーん… ひとつ訊いてもいいか?」
「はい! もちろん!」
「このままただの人間である俺がそんなところに行っても、瞬殺されて終わりなんじゃねえか?」
「あ! 忘れてました! これから一枚カードを選んで下さい! 引いたカードが、貴方の固有スキルとなるでしょう」
「カード?」
少女が取り出したのは三枚のカード。
左から、頭蓋骨、剣、天秤。
なんかひとつだけ場違いなやついない? 頭蓋骨ってなんだよ! 剣と天秤はまだわからなくもないけどさあ、頭蓋骨って!
俺はゆっくりと、ひとつのカードを取った。
「ええ!? これでいいんですか!?」
「ああ。なんとなくだけど」
「じゃあわかりました。そのカードは転生が済むまで、手に持っていて下さいね」
「なんで転生、なんだ? 転移ではだめなのか?」
「このまま貴方を転移させたら、ただ死体を転移させるだけになるでしょう? 違う肉体に貴方の魂を移し替える作業をして、違う人間として、クラミスティアで生きていくということにするから転生、なんです」
「へえ…」
「お喋りはおしまい。次の人生も、楽しんでね」
【転生魔法陣 起動】
おお、すごい。なんて書いてるかは全然わかんないけど!
俺の足元に現れた厨二臭い魔法陣からはまばゆい光が発せられ、なんかかっこいい文字が書かれた帯は俺と外界を区切るように、俺の周囲で回転し続けている。
「いってらっしゃい、暁斗様」
気づいたころには何やら変なところにいた。
目の前におっさん座りした骸骨がいて、俺をぽっかり空いた目で見てくる。
「誰?」
「お前が、瀬暁斗で合っているな?」
「ああ。そうだけど」
「理神ミレイから話は聞いている。お前、転生するらしいな。こっちへ来い」
「はい…」
骸骨が立ち上がり、俺を導いていく。
少し歩いた後、たくさんの人間? らしきものが沢山いる部屋にたどり着いた。
なにかの儀式でもするのだろうか、部屋の中央には魔法陣がある。
「えっと… これは?」
「転生の儀を済ませる。わかりやすく言えば、お前を新しい肉体へと移し替える作業だ」
そういえばあの少女が言ってたな! それを今からするのか。
「俺の合図があるまで、目を開けるなよ」
「何故?」
「目が潰れてしまうんだ」
とりあえず骸骨の指示に従い、目を閉じた。
どれくらい経っただろうか。
やっと骸骨が合図をした。
「もう目を開けても良い」
そう言われて目を開けると、骸骨が俺の目の前にいた。
「うお! びっくりした。なんでお前そんな近くに居るんだよ」
「気分だ。転生の儀は済んだ。お前、ミレイからもらったカードを出せ」
自分の手を見ると、ミレイからもらったカードはまだ握られていた。
なんかちょっと幼くなった? 俺。
さっきまでは少し角ばっていた俺の手が、少し柔らかさを帯びた小さな手になっているではないか。
まあ後で考えよう。
「これでいいか?」
俺は頭蓋骨が描かれたカードを骸骨へと手渡す。
「そう、それだ。では、お前にスキルを付与する」
骸骨が俺の頭に手をかざすと、どす黒い黒煙のようなものが俺の周りを包みこむ。
うわ! なんだこれ、身体に害のあるものじゃねえよな!
俺はそう言おうとしたが、やめておいた。
変なことは言うもんじゃない。
黒煙が止むと、骸骨が話す。
「お前に付与されたのは【死霊捧契】。死霊に自身の身体を捧げて契約し、その死霊の力を借りて戦うことができる、固有スキルだ」
「…その死霊の強さは?」
「お前の強さと同程度だ。お前が強くなればなるほど、強い死霊と契約することができる」
「…もし、俺より強い死霊と契約したら?」
「身体を乗っ取られるだろう」
なにそれ!? 絶対そんな死霊と契約したくないんだけど!!
俺がそう思っていると骸骨は魔法陣を起動する。
「まあ、どうにかなるものだ。頑張ってこい」
骸骨がそう言うと、またまばゆい光に包まれた。
光が止むと、のどかな村だろうか。
見たことないところにいた。
これが、異世界クラミスティア… なのか?
まあ、とりあえず頑張ってみるか。
キャラ紹介・用語説明、あとがき
【瀬暁斗】
ハヤセ アキト
階段で足を踏み外して死んだ一般的な高校生。
骸骨からスキルを授かり、異世界へと転生した。
【理神ミレイ】
本名 ミレイ=レジスト
女神。めちゃくちゃロリ(スラっとした感じが)で、かわいい。
【骸骨】
マジで骸骨。それ以外に言うことない。
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ここまで読んでくれてありがとうございます!!
暁斗君の冒険人生が、幕を開ける。ですね!!
第一話 近日公開。