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帝国記(91) 六ヶ月戦線22


「2陣、突破されました!!」


 エンダランド達が籠るヘインズ砦の戦いは、2ヶ月ほどの時間を経て、新たな局面へと突入していた。


 決戦を見据え、砦に予め施されていた防衛壁の迷路は、砦の中心地から円状に、5つの陣に分けられている。その2番目の防衛ラインが、たった今突破されたのだ。


 敵兵は慎重に、そして確実に、こちらの仕掛けを撤去してゆく。すでに迷路に付き合っている敵兵はいない。ただ真っ直ぐに、立ちはだかる建造物を破壊して突き進んでくる。


 実のところ今回の罠に対して、この方法が最も確実な攻略法である。同時に最も時間のかかる選択のため、採用するには相応の覚悟が必要だ。


 数を笠に着て早期決着を狙っている間は、選ばれにくい方法であった。にもかかわらず、敵はこれほどまでに短い期間で、鮮やかに方針転換を決めた。


 決断の背景に、急戦派を抑え切るだけの能力を有した将がいる、という証明だろう。


―――もうしばらくは、迷路につきあうと思っていたが―――


 エンダランドからすれば、少々当てが外れた展開である。


 ランビューレの将か、或いは、レグナの将か。特にレグナにはサランという名将がいる。


 もしもサランがランビューレの将官を差し置いて、連合軍の方針を決める発言力を確保しているのならば厄介だ。


 だか、分からないものを今考えるのは無駄。エンダランドは頭を切り替える。


 最も嫌な攻め方をされてはいるが、こちらとて、ただ指を咥えて見ているわけではない。ルアープの率いる弓兵部隊を中心に、必死の抵抗を試みている。


 それでも敵兵の足は止まらない。5万という大軍の利点を、最大限に生かして黙々と進軍してくる。


 残る守りは3陣。1陣が打ち破られるのに1ヶ月かかっていない。状況は加速度的に悪化してゆく。このままでは、うまく戦ってもあと3ヶ月持たせるのは厳しい。


 エンダランドの読みでは、3〜4ヶ月もあれば、連合にどこかから綻びが生じると思っていた。


 綻びが各戦線に影響を与え始めるのは、さらに1月程度か。つまり、5ヶ月ほど耐え忍べば、どうにかなる。それが唯一にて最大の勝ち筋だと。


 だが、このヘインズの砦が突破されれば話は変わる。5万の敵が帝都へと押し寄せるような事になれば、各国の間に生じた綻びなど、大した問題ではなくなるだろう。


 細かな問題は捨て置いて、連合軍はここぞとばかりに、帝国領の切り取りに注力し始める。エンダランドなら当然そうする。


 この砦の勝敗は、やはり今回の戦いの命運を分ける。


 厳しい顔でエンダランドが見守る先では、今も激しい攻防戦が繰り広げられていた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 怒声が飛び交う戦場を、少し離れた場所から見ていたサラン。腕を組み、最前線の攻防に目を細め、一人呟く。


「あの弓兵部隊が厄介だな」


 ここまでの戦いを見る限り、自軍(レグナ)および、ランビューレ軍に最も大きな被害を与えているのは、やたらと正確な射撃を行う一部の弓兵部隊と断じて間違いなかった。


 数はそこまで多くないが、個々の技量には目を見張るものがある。


 こちらが一点突破で砦に近づいているので、完全に狙い撃ちされている状況だ。かといって被害を厭い、多方向からからこの厄介な仕掛けを壊していくのは、時間的な側面から歓迎できない。


 時間がかかればそれに準じて被害も増える。金もかかる。現状では、兵力を分散する事に大きな利点を得られる気がしなかった。


 ならばどうするか。


 簡単な話だ。敵の弓部隊の戦力と気勢を削げば良い。


「タイズを呼べ」


 近くにいた部下に命じると、タイズはすぐにやってきた。


「サラン、呼んだか?」


 戦場にあってもむき出しにしたままの、丸太のような二の腕。それを腰に当ててサランを見るその様は、相手が相手なら「不遜だ」と立腹されても仕方がない態度だ。だが、サランは気にすることなくタイズへ声をかける。


「お前のその強き弓で、遥か向こうの、敵の弓部隊の将官を射抜けるか?」


 言いながらサランが指差した先を、タイズは獰猛な笑顔で睨みつける。


「当然だ、報酬は?」


 こう言う男である。


 ゆえにこそ、レグナで頭抜けた弓の腕を持ちながら、大して出世もせずにいる。そして当人も金にしか関心がない。とにかく非常に扱い難い人物で、サラン以外は従軍させるのも嫌がるほどだ。


「成功したら金30枚」


「50枚は欲しい」


「よかろう。ならば、失敗した場合は罰金を取るぞ。金貨20枚をもらう」


 サランの提案にタイズは面白そうに手を叩く。


「決まりだ。では、金貨50枚、早めに用意を頼む」


 もはや金貨は手にしたと決まったかのように、最後だけ敬語を使い、堂々とサランの元を去ってゆくタイズ。


 そんな後ろ姿を見ながら、サランはさらに先の戦略について頭を巡らせ始めた。





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