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帝国記(85) 六ヶ月戦線16


 エニオス王ガトゥーゾは、ただただ困惑していた。


 ランビューレが連合軍を画策している事は、かなり早い段階で耳にしていたのだ。ガトゥーゾも当然参加するつもりで、その使者を待った。


 何せエニオスは今、存亡の危機に陥っている。喉から手が出るほど後ろ盾が欲しい。


 グリードルとの防波堤の役割を期待していた隣国、ナステルはあまりにも簡単に滅びを迎えた。全く不甲斐ない話だ。


 確かに、グリードルとの決戦直前に、我々がナステルから撤退したのは、敗北の一因かもしれない。


 しかし、背後から自領が脅かされている中、のうのうと他国を気にしているのは間抜けのやる事である。


 そもそも、我らはあくまで援軍であって、本来なれば、ナステルが自らの軍で解決しければならなかったはず。


 今更ナステルに悪態をついても仕方がない、いや、本音を言えば、ナステルに対する罵詈雑言は、口にしようと思えばいくらでも溢れてくる。


 ナステルが滅んだ後の、グリードルの支配が早すぎるのだ。ナステル王がもう少しちゃんと配下を掌握していれば、ナステル国内はそう簡単にグリードルへ(なびき)はしなかっただろう。


 だが現実はどうだ。


 南部貴族を中心に、こぞってグリードルへ尻尾を振る始末。おかげでエニオスの貴族どもにも動揺が見られ、いい迷惑だ。


 そしてルデク。こちらが兵を戻すと、あっという間に逃げていったが、一体何がしたかったのか。ただの嫌がらせにしか思えない。


 こちらの手薄な時を狙ってくるとは、ルデクも卑怯極まりない奴らである。


 いや、今はそれどころではない。我が国は西にルデク、東にグリードルという脅威を抱えることになった。現状を打破するには、ランビューレの提唱する連合への参加が理想的といえよう。


 だが、待てど暮らせど知らせは届かない。


 一体何が起きているというのだ。


 だが、こちらから話を持ち込むという選択肢はない。それではまるで、自らランビューレの軍門に降るようなもの。


 まして、他国にはランビューレから頭を下げて加盟を望んだというではないか。ならばなぜエニオスだけが、媚を売るような真似をしなければならないのか。


 このままランビューレからの使者がなければどうするか、いっそ、グリードルとランビューレの奴らが戦っている間に、ナステル領に攻め入ってやろうか?


 いやしかし、グリードルがこちらに何の手当てもしていないとは思えん。失敗は許されんのだ。万が一にも敗走した暁には、我らを誘わなかったランビューレが助けてくれる保証はどこにもない。


 隣国ズイストもそうだ。今まで友好的に付き合ってきたにも関わらず、なんと薄情なものか。ズイストからも口添えしてくれても良いものを。こうなればあやつらも信用などできぬ。


 だがなぜ、我が国だけ蚊帳の外に置かれたのだ。


 特段思い当たることはない。いや、待てよ、もしかしてランビューレは、我が国とグリードルの同盟を懸念しているのか?


 あり得なくは、ないな。


 グリードルの立場になって考えてみれば、これからランビューレとの戦いは避けて通れぬ。なれば、横腹に噛みつかれる心配のある我が国に擦り寄ってきて、当面の危機を回避するというのはなかなかに妙手と考えられる。


 うむ。もしかすると、そのような噂をランビューレ側に流し、我が国を孤立させた上で同盟を持ちかけてくるか。


 グリードルにも、なかなかに優秀な者がいるようだ。


 グリードルとの同盟か。


 悪くない。


 ガトゥーゾは唇を歪ませる。


 ここでランビューレがグリードルに敗れれば、平野はいよいよグリードルを中心に回り始める。その時、グリードルの味方である事が、どれほどの利益をもたらすか。


 ああ、であれば、ここはグリードルに恩を売っておくと言うのは良い。グリードルの使者を待つと言うのも一興だ。


 さんざん思いを巡らせたものの、結局何も進展などしていない。だが、カトゥーゾは満足げに頷くと、今日向かうべき妃の部屋を、先ほどの懸念よりもいっそう真剣に検討し始めた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 ガトゥーゾが妃の肌を思い浮かべていたその頃。


 帝都ではドラク、エンダランド、オリヴィアの3名が膝を突き合わせていた。議題はエニオスへの対応である。


 ランビューレの連合に、エニオスは参加していない事がはっきりした。では、エニオスにどのように対応したら良いか。軍議で話し合う前に、3人で方向性だけでも決めておこうとなったのだ。


 そうして話し合いが始まると、オリヴィアが即、断言。


「放置一択であろう」


「放置? それは流石に乱暴じゃねえか?」


 ドラクが首を傾げるも、オリヴィアの表情には自信が浮かんでいる。


「無論、ウルテア南部貴族に最低限の守備をさせるが、彼の国の王に、単独でこちらに攻め込むような度胸はないの」


「それは流石に楽観的に思えるが……」


 エンダランドも流石に乱暴と異論を唱えた。


「ふむ。ドラク、エンダランド、お主らはエニオス王、ガトゥーゾに会った事があるか?」


 ドラク達が首を振るのを確認し、オリヴィアは続ける。


「あれは物事を自分の都合のよいようにしか考えぬ男よ。短絡的で、享楽的。厳しい現実など、すぐに目をそらす。或いは今頃、グリードルが同盟の打診をしてくるのではなどと、夢想しておる頃かもしれん」


「それはあり得ねえだろ……」


 レツウィーを強引に娶ろうとし、あまつさえ軍を差し向けるような信用のおけぬ相手だ。


 レツウィーが第三王妃となった今、レツウィーの実家シティバーグ家の事を考えても、こちらからすり寄ることは考えていない。


「我らからすれば、そうであろうな。じゃが、ガトゥーゾというのはそういう人物ぞ。でなければ、嫁を取るだけに軍を差し向けたり、敵を目の前にして自国へ兵を戻したりせん」


「……分かった。なら、ひとまずエニオスは放置する。それでいいな?」


 ドラクが言うと、オリヴィアは少し驚いた顔をした。


「もう少し悩むと思ったが、思い切りが良いの?」


「俺はお前の事を信用しているからな」


 ドラクの言葉に、今度は苦い顔をするオリヴィア。


「全くお前は……もう少し慎重に物事を考えよ」


 オリヴィアの苦言を、ドラクはぬははと笑い飛ばすのだった。




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