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帝国記(83) 六ヶ月戦線14


 ズイスト国内を、北へ北へと突き進むリヴォーテ達。


 道中の町村でも演説を繰り広げ、ついにリヴォーテ達に従うズイストの民は2500名を超えた。


 そろそろ頃合いだな。


 リヴォーテは吸収した民間兵の中から、目をつけていた人物を呼び出す。


 なぜ呼び出されたのか分からない男は、少し落ち着かない様子でリヴォーテの前にやってきた。


「カロン、お前にひとつ、部隊を任せたい」


 カロンは目を白黒させながら、慌てて首を降る。


「は? 俺にですか? 無理ですよ! 軍を率いた経験なんてないです!」


 そのような反応は織り込み済みだ。リヴォーテはカロンの両肩を掴んで続ける。


「俺は、お前ならできると信じている。道中、お前はよくよく周囲に気を配っていた。人望もある。そして何より、俺の演説を毎回人一倍真剣に聞いている。話した内容を(そら)んじられるだろう?」


 そのように指摘されると、恥ずかしそうに鼻の頭を掻くカロン。


「解放軍の人数も増えてきた。このまま、まとまって動いていても効率が悪い。俺達は町村を襲うために集まったわけじゃない。そうだろう?」


「ま、まあ」


「そこでだ、ここから北の町村の説得をお前に担当して欲しいのだ。俺がやったように、王の圧政を糾弾するのだ。これは、俺の演説を記憶しているお前にしかできない」


「……でも、そしたらリーダー達はどこへ?」


「俺達は南へ戻る。おそらくそろそろ討伐軍がやってくるはずだ。ズイストの兵士がグリードルに向かっているのは知っているな?」


 カロンが頷くのを確認して、リヴォーテは言葉を重ねる。


「討伐軍はこちらの殲滅を考えるはずだ。そうなる前に、こちらから仕掛ける」


「なら、俺たちも!」


「いや、戦いは俺たちに任せておけ。そしてもしも俺たちが敗れたと耳にしたら、速やかに解散しろ。それぞれの故郷へ帰れば、討伐軍もそこまでは追ってはこれん」


「けど……」


 なおも食い下がろうとするカロン。その両肩に置いた手に力を込めた。


「もしも俺たちが死のうと、王への不満ははっきりと伝わるはず。それでも王が民を顧みないのならば……その時はカロン、今度はお前が中心となって立ち上がれ!」


 リヴォーテの喝に、カロンは口元を引き締める。そうして、ゆっくりと言葉を吐き出した。


「……分かりました。必ずや」


 こうしてカロンの説得を終えると、吸収していた市民兵を全てカロンに引き渡して別れる。


 カロン達を見送った後、一連の流れを眺めていたガフォルが、肩をすくめながらリヴォーテに声をかけてきた。


「本当によくもまあ、そんなペラペラと嘘を並べ立てられるものだ。一介の将より詐欺師の方が向いているのではないか?」


「いや? 俺は嘘などひとつも吐いてはおらん。この国は腐っている。今こそ立ち上がれと言っているだけだ」


「だが俺たちがグリードルの兵とは伝えておらん」


「沈黙は嘘とは言わんぞ?」


 リヴォーテとしては完璧な論理であったが、ガフォルは苦笑して話題を転じた。


「しかし本当にあやつらを離脱させて良いのか? 市民兵を盾にする事もできたと思うが」


「構わん。元より“解放軍”はおまけみたいなものだ。本来の目的は、ズイスト軍をなるべく引きつける事。それに火種は十分に与えてやった。これで俺たちがズイスト軍を削ってやれば、ズイストの各地で火の手が上がる。そうなればやつら、グリードルへ攻め込むどころではあるまい」


「……とんでもないことを考えるものだ。だが、そこまでうまくいくか?」


「いく。あれほどの市民が俺に付き従ったのがその証拠だ。この国もまた、王への不満は充満しているのだ。俺はきっかけを作ってやったに過ぎん。それよりも、本番はここからだぞ」


 俺の言葉に、ガフォルは背負った大剣に手を伸ばす。


「俺の出番か?」


「ああ。全てはお前次第だ」


 ガフォルは獣のような笑顔で太い首をゴキリと鳴らすのだった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「ホーゲル殿! 前方に敵兵らしき姿が!」


「ようやく追いついたか!」


 散々翻弄しおって! おかげで想定以上に時間がかかってしまった。ホーゲルは怒りを滲ませる。


「で、兵数は?」


 ロスターの兵士からの情報によれば、少なくとも5000ほどはいるはず。全て市民とは考えられんが、それは対峙してみれば分かる。


 そのように考えるホーゲルへ、返ってきたのは意外な返答。


「500程度です。服装もまちまちな集団が命乞いをしております」


「何?」


 それは随分と少ない。しかも装備がまちまちという事は、行軍についていけなかった市民兵か?


 ホーゲルが考えている間に、新たな伝令がやってくる。


「西方に敵大軍あり!」


「いたか! よし、すぐに兵を向けよ!」


「500の兵はいかがなさいますか?」


「適当にあしらっておけ、そのまま降伏すれば放置だ。抵抗するならば殺せ!」


「はっ!」


 ホーゲルは軍の向きを北から西へと変える。


「一気に蹴散らすぞ!!」


 今までの鬱憤を晴らすように、突撃を始めるズイスト軍。すぐに激突が始まった。勢いはこちらにあり、敵軍は押され気味に見える。


「行けや! 叩き潰せ!!」


 ホーゲルは敵軍を眺めながら兵達を叱咤。加速するズイスト兵達。


 戦いが進むほど、ホーゲルの頭から最初に発見した500の兵士の事は忘れ去られる。



 それが、致命傷。



 ホーゲルが異変を感じた時には、すでに遅きに失していた。


 気がつけば、巨大な剣を振り回す大男が、ホーゲルの目の前に迫っていたのである。


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