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帝国記(81) 六ヶ月戦線12


 ズイストの別働隊10000の兵を預かった将、ホーゲルは、部隊を要塞都市ロスターへと急がせていた。


 兵数の多さも考えれば、どれだけ無理を押しても5日はかかる。現実的な到着日数は10日前後か。


 機動力のある部隊だけで先行することも考えたが、敵の情報が少なく、兵をさらに分割するのは躊躇われた。


 とはいえ、のんびりしている暇はない。可能な限り早急に敵を討ち破り、即座に本隊へ合流するまでが、ホーゲルに命じられた任務だ。


 本隊にはなおも14000の兵がある。しかも率いているのはズイスト随一の将、スクイーズ。仮にグリードル側が野戦に打って出たとしても、負ける事はあり得ない。


 が、ズイストの総力と言って過言ではない大軍。1日経過するだけで、膨大な量の兵糧が消費されてゆく。


 早々にグリードル領に雪崩れ込み、彼の地から搾取して損失を補填したい。ゆえにこそ、速度は何物にも代え難いのだ。


 はやる気を抑えながら、ロスターまであと半分となった頃、ロスターへと放っていた偵察兵が想定外の情報を持って帰還した。


「ロスターに敵はおりません!」


「なんだと? 馬鹿な事を言うな。ロスター襲撃が虚報であったとでも言うのか!?」


 ホーゲルが怒鳴りつけるも、伝令兵の返答は予期せぬもの。


「陥落はしておりましたが、ロスターを占拠した者達は、ロスターを捨ててどこかへ向かったと!」


「ロスターを捨てた? 火でも放ったか?」


 ロスターを落とすのに火を放ち、防衛が難しくなったのであれば理解できる。だが、伝令兵はそれを否定する。


「ロスターの街は無事です。どころか、降伏した守備兵は拘束されただけ。敵兵が去ったのち、次々と解放されております!」


「どう言うことだ? こちらの動きを察知して逃げたのか?」


「分かりません。しかし、兵数は相当数いたとのこと。それに……」


「なんだ? 続けろ」


「ロスターの市民から、敵軍に参加するものが多数出ている模様! また、占領した部隊は自らを“解放軍”と名乗ったとのことです!」


「何ぃ!!」


 では、ズイストの民が蜂起したのか? スクイーズが恐れていたことが起こったと?


 現時点では全く状況が見えてこない。ホーゲルは一瞬悩み、それから決断。


「いずれにせよ、まずはロスターへ向かい、情報を精査する。戦闘の心配がないのであれば、体力を温存する必要はない。全軍に最大速度で進軍するように伝えよ!」


 こうして10000の軍が一気に加速を始める。


 報告を受けた2日後、ホーゲル達別働隊はロスターに到着。確かにそこには、平和な街の日常が流れていたのである。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 時は少し遡る。


「降伏した兵士の拘束が終わったぞ」


 リヴォーテが見張り台から北の方向を眺めていると、ガフォルが報告にやってきた。


「そうか」


 この状況下において、自分たちが攻め込まれるとは全く想像していなかったのだろう。ロスターは要塞都市の名が泣くほど簡単に陥落した。


「しかしわざわざ拘束せず、斬り捨てれば良かったのではないか?」


 ガフォルの提案は正しい。今、多数の捕虜を抱えたところで、リヴォーテ達には大した得がない。ただし、これがただの制圧戦であればの話だ。


「ああ。ここで敵を待ち受けるのなら、な」


 リヴォーテの言葉の意味を図りかねたのだろう。ガフォルが「んん?」と妙な声を上げ、改めて聞いてくる。


「その言い方では、ロスターでは戦わないのか? それなら、野戦か?」


 その言葉に端に、楽しげな気配が隠しきれていない。


 ガフォルは大剣を振るう場所があってこそ、真価を発揮する。野戦に持ち込みたくて仕方がないのだ。


「半分正解で、半分間違っている。ガフォル、なぜ俺がこのロスターで、グリードルの名前を出すのを禁じているのか分かっているか」


 ズイスト領内では、グリードルと口にする事を一切禁ずる。破ったものは厳罰に処す。リヴォーテが出陣前からきつく言含めていたことだ。


「……分からん。というか、考えるつもりもない」


「少しは考えろ」


「適材適所だ。とっとと説明しろ」


 いっそ清々しい返答に、リヴォーテも苦笑。


「それでは、理由を説明してやる。広場に可能な限り、街の人間を集めろ。それと、俺の姿がよく見えるように、演説台も用意しろ」


「……お前まさか、また“あれ”をやるつもりか?」


「そうだ。お前も、俺の素晴らしい演説に聞き入ってついてきたのだろう?」


「いや。俺はお前があまりにもしつこかったから、根負けしただけだ」


「ぬかせ。とにかく住民を集めろ。急げよ」


「分かった分かった。では、久しぶりにお手なみ拝見と行こう」


 こうして集められたロスターの住民達。皆不安そうな顔を浮かべ、なぜ集められたのか分からないと言った様子だ。


 それらを前にして、壇上にたったリヴォーテは、こほんと一つ咳払い。


「俺はこの“解放軍”を率いる者だ! ロスターの民よ! よく聞け! 今、ズイストは腐っている。このままズイスト王の好き勝手にさせては、国が滅ぶぞ! 俺たちはズイストの民が安心して暮らせる国を作るために、こうしてやってきた!」


 リヴォーテによる、強制参加大演説会はおよそ二刻にも及んだ。


 その口車に乗せられたのは、800名ほどの市民だ。それらを志願兵として吸収した、自称“解放軍”は、次なる獲物を求めズイストの内部へと軍を進めていったのである。




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