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帝国記(72) 六ヶ月戦線3

挿絵(By みてみん)


 グリードルとランビューレの国境線において、激戦が見込まれる場所は3つ。


 その中で最も東部にある重要拠点が、海岸線に造られたカーサの砦である。


 本来中規模の砦であったこの場所には、元にあった塁壁を取り囲むように、新たな塁壁が造られ、来たるべき戦いに備えられていた。


 カーサの砦に籠るのは、砦を任されたネッツを大将にした、総勢7000の兵だ。


 軍議の場でネッツと共に中心を担うのは、副将のフォルクとトレノ。


 フォルクはドラク陣営において、初期の頃から参謀の一翼を担ってきた若き俊英。


 もう一人のトレノは、旧ウルテアでは王直属であった親衛隊の出身。エリート集団の中で部隊の副官を務めた実力者である。


 トレノの堅実な対応は、ドラクからも高く評価されており、グリードル軍がナステルへ侵攻した際は、本領の守備を任されていたほどだ。


 いずれもネッツにとって、力強い補佐官である。


 彼らとともに戦略を練り上げている最中も、次々と伝令が飛び込んでくる。


「進軍中の相手は、大半がルガーの軍のようです」


 偵察兵の言葉に、フォルクが念を押す。


「大半、というのはどういう意味だ? もう少し詳細に」


「はっ。敵の一部、数は1000程度と思われますが、ランビューレ軍と思しき旗印が混ざっておりました」


「なるほど、ランビューレ兵は監視役と言ったところか。ネッツ殿、エンダランド様の予想が当たりましたね」


 フォルクが言うように、これは想定していた展開のうちの1つである。


 エンダランドやオリヴィアは『急造の連合軍など、満足に機能しない。確実性をとるなら、各国で分かれて動く方が現実的だ』と言っていた。


 とりわけ、ルガーとランビューレは友好とは言えない関係性からの、唐突な連合成立である。


 仮に他が混合部隊となろうとも、ルガーだけは独立独歩を貫くのは確定事項に近かった。


「我々の相手はルガーですか」


 軍議の場に参加している将に周知するように、トレノが呟く。そうして諸将を見渡し、「ルガーの軍について詳しい者はおられますか?」と問うた。


 トレノの質問に、一人の将が手を挙げる。


「詳しい、とまで言えるか分かりませんが。何名かの指揮官ならば存じております」


「聞かせていただきましょう」


「まず、警戒すべきはジャスト=ロックという将です。ルガー王の信頼厚い知勇兼備の将。ルガーを率いるならば、ジャストが総司令官であると考えて間違いないでしょう」


「ああ。ジャストは有名ですからね。ネッツ殿はご存じで?」


 トレノに話を振られたネッツは、軽く頷く。


「名前くらいはな。だが、詳しくは知らん。悪いが説明してもらえるか?」


 各国の要人に関しては、目下オリヴィアの指導のもとで勉強している最中だ。流石にこの慌ただしい中で、一人一人の詳細な情報を把握するには至っていない。


 素直に知らないと口にしたネッツに対して、将は蔑むこともなく答え始めた。


「ジャスト=ロックの名を一躍有名にしたのは、ファインテの戦いでしょう。近年のランビューレとルガーの戦いで、最も大規模な激突でした。その戦闘において、倍するランビューレ軍を撃退せしめた指揮官というのが、ジャストです」


「へえ。ウチで言うとフォルクみたいな感じだな」


 ネッツにそう言われたフォルクはゆっくりと首を振る。


「残念ですが、私はまだジャストと肩を並べるような将ではありません」


 “まだ”か。フォルクは謙遜するが、その言葉にいずれは、という強い意志を感じる。


 フォルクとは、旗揚げの頃からともに戦場を駆けた仲だ。


 エンダランドやリヴォーテのような派手さはないが、手堅く任務をこなすことのできるフォルクは、グリードル軍において指折りの将だと断言できる。


 が、今はそんな話をしている場合ではない。ネッツは本題に戻る。


「話を遮って悪かった。他の将に関しても頼む」


「はい。ジャスト以外では武勇に知られるミルコ、狡猾で油断ならぬヴェヴェル。あとはそうですな、ジャストの腹心のテインも侮ってはいけない存在かと」


 それぞれの将の特徴や戦い方をひとしきり聞いたあと、ネッツは改めて問うた。


「今聞いた将全員が出てくると思うか?」


「断言はできませんが、ルガーが大軍を起こして、これらの将がいないと言うのは考えにくいかと」


「分かった、そいつら全て相手にするつもりで対峙する。で、兵数は?」


 ネッツに問われた偵察兵は、短く返事をして、


「……おそらく、少なく見ても2万以上と思われます」


「……まあ、そのくらいは来るか」


 分かってはいた事だが、改めて聞くと兵数差をしみじ痛感する。しかもこちらは援軍なし。手持ちの7千で相手が退くまで守り切らなければならない。


 もちろん、そのための準備はしてある。


 ここを抜かれれば、帝都でネッツの帰りを待つオリヴィアの身にも危険が及ぶのだ。そう考えれば、何があろうと負けるわけにはいかない。


「守り切るぞ」


 ネッツの小さくも決意のこもった言葉に、その場にいた諸将は皆黙って頷いた。



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