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帝国記(62) ネッツ勇躍(上)


 平地の多いこの辺りでは珍しく、岩山がどんと鎮座している。


 この地こそが、ナステルの王都、フレデリアである。


 町並みは岩山を中心に造られており、王宮も小高い場所に据えられていた。


 もとより岩山を利用するために、ここを王都と定めたのだろう。ナステルの王都が北寄りにある理由が、この立地のためであった。


 岩山は標高があるわけではないが、裏側は切り立っており、登るのは難しい。攻め入るのであれば正面から切り込むしかない。


 麓にある街の中は、道が細かく入り組んでおり、それらを縫うようにして王宮に攻め入るだけでも一苦労である。


 ドラクより7000の兵を預けられたネッツは、フレデリアの目と鼻の先に陣を敷き、斜面にある王宮を睨んでいた。


「ネッツ様、どうされますか?」


 副官がネッツの横に並び、同じように王宮を見据える。街を囲うように造られた城壁には、びっしりと弓兵が待ち構えているのが見えた。


「いっそ、出張ってくれれば楽なんだがな……」


 突出しすぎて度々危険な目に遭っているネッツの部隊だが、同時に、その突破力がネッツ隊の最大の武器だ。


 今回はネッツ直属以外にも、多くの兵を任されているので、突撃に拘る必要はない。それでも相手が城から出て来てくれれば、そのほうがやりやすい。


「どれ程の兵士が籠っているでしょうか……。或いは、砦の方に兵を割いて、王都は手薄ということはありませんかね」


 再び副官が呟く。


「いや、それは考えにくいだろ」


「ですね」


 副官も単に希望を口にしただけのようだ。すぐに自論を引っ込めた。


 ネッツはもう一度王宮を睨むと、ドラクの言葉を思い返す。


―――無理はすんな。落とせそうもなかったら、俺たちが砦を攻略するのを待て。それだって十分な功績だ―――


 今回の戦いでより多い功績を望み、ドラクに直談判したのはネッツ自身だ。


 そんなネッツの意を汲んで、ドラクは別動隊を任せてくれた。


 7000もの兵を任され、王都を封鎖。その指揮官となれば、相応の実績とみなされるに違いない。


 だが本音を言えば、華々しく目にみえる結果を出したい。同時に、ネッツを信じて預けてくれた7000の兵士をいたずらに浪費することは許されない。


 実は、ドラクに直談判をした直後に、オリヴィアに怒られたのだ。『気負いすぎておる。自分の功績よりグリードルの戦果を見よ』と。


 言われてみれば、ネッツはこれまでグリードル全体を見て戦場に立つことはなかった。そういった事は、自分以外のやつがやれば良い、自分は先頭で敵を叩くのが仕事だと思い込んでいた。


 オリヴィアの言葉は、ネッツの考えに少なからぬ影響を与えた。ゆえにこそ、今、王都という大きな功績を前にして、睨むだけで済んでいる。


 とはいえ、


「……動いてくんねえかな……」


 人間そうすぐには変わらない。ついつい希望が口から溢れ、副官が苦笑する。


 ネッツの副官は元ウルテア親衛隊の騎士だ。ネッツの経験不足を補うために付けられたが、ほどほどにフランクで、出しゃばることもない性格でとても助かっている。


「少し、挑発してみましょうか? そのくらいなれば問題ないでしょう。うまく掛かってくれれば重畳」


 副官の提案にネッツは頷く。ナステルの兵とグリードル兵では、地力に大きな差がある。野戦となれば負ける気がしない。


「よし、試しにやってみるか。任せる」


「承った」


 こうして何度か挑発行為を繰り返したが、フレデリアからの動きはない。そうして睨み合いが続く中、緩やかに陽が沈み始めた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 フレデリアの城内では、厳しい議論が続けられていた。


「着陣しているグリードルの軍は7000ほど。こちらは1万の兵がいるのです。向こうの戦力が分散されているうちに打って出て、これらを撃破し、反転攻勢に出るべき!」


「いや、数だけでグリードル軍を侮るのは危険だ! それは貴殿もわかっていよう! 王都は簡単には落ちん、ここは耐えて、時を稼ぐのだ!」


「時を稼ぐといっても、一体いつまでだ? ランビューレが動くまであと半年もあるぞ? それまで耐えられると思っているのか?」


「再度エニオスに援軍を頼めばよかろう!」


「あのような弱腰どもが、なんの役に立つというのだ!」


 先の戦いで指揮官を担った将、グランディアは、堂々巡りの話し合いを黙って見つめていた。


 そんなグランディアの様子に、宰相ルマンドが声をかけてくる。


「グランディア殿はどのようにお考えか」


 グランディアは暫し天井を睨み、答える。


「どうあれ、ずっとこのまま籠っているというのは難しいでしょうな。そして、敵が強いのも認めねばなりません。であれば、なんらかの策を以て、相手を打ち負かすしかありますまい」


「貴殿にはその策があるのか」


「一つだけ、敵軍を率いているのはネッツという将。かの者は過去に2度ほど、前がかりに進軍して味方を危機に晒したことがあるとか」


「その性格を利用すると?」


「……例えばですが、囮を出してはいかがか? ネッツが釣られることがあれば、背後から叩くことも可能かと。例え敵が強兵であっても、背後から切り裂かれれば、ひとたまりもありますまい。が、囮兵は相応の覚悟をする必要はある」


「……一考の余地はあるな。このまま同じような話をしていても埒があかない以上、グランディア殿の策を検討する」


 こうしてナステルの首脳陣は、にわかにネッツを陥れる策を弄し始めた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 そろそろ野営の準備をしないとな。ネッツがそう考えた頃、意外な人物が陣にやってきた。


「リヴォーテ!? ガフォルも!?」


 3人の妃を連れて帝都へ戻ったはずの2人が、さも当たり前のようにネッツの前に姿を現したのである。




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