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帝国記(53) 闖入者


「で、スキットはどうしろと言っているのだ? まさかとは思うが、帝都まで俺を呼びつけようってのか?」


 スキットがわざわざ帝都までやってきて、ドラクと会談を望んでいると言われても、ドラクがいるのは平野の最南端である。


 スキットの為にここから一度帝都へ戻り会談を行い、再びこの場所へ戻ってくるというのは無駄にすぎる。


 ドラクがつい不機嫌そうな声を出すと、伝令兵は「申し訳ございません」と萎縮した。


「ああ、別にお前に怒っているわけではない。気にするな。さてどうするか……エンダランド、意見はあるか?」


 ワールナートの面々もいる手前、エンダランドは顎に手を当てながら慎重に言葉を選ぶ。


「……正直想定外のことですな。無視というわけには参りますまい。しかしながら、ナステルと睨み合っている今、帝都に戻るのは賛成できませぬ。ここはひとまず事情を伝え、改めて会談日程を調整するべきかと」


 エンダランドの提案は至極真っ当。だが、相手はあのスキット=デグローザだ。たとえ些細なことであっても、あの男に負い目を感じるような展開は避けたい気持ちもある。


「スキットがなにを考えているかが気になるな。或いはこちらの状況を探りにきているのかもしれん。俺がこの状況下で余裕を持ってやって来れるか、と。もしそうなら、あやつに弱みを見せたくはない」


「左様ですか。では、無理にでも一度帝都に戻りますか? ならばナステルとの戦いの計画も早々に決めねばなりませんな」


「そうだな。やはりその方向で……」


 ドラク達がこの先の動きに対して、話を詰めようとした矢先のことである。ワールナート家の執事が、慌てた様子で当主(レガヴィス)へ駆け寄り、耳打ちをする。


「は!? いや、まさか!?」


 執事の話を聞いたレガヴィスは目を見開いて驚きの声をあげ、ドラクに視線を向けてきた。


「どうされた? 義父殿」


 ドラクとしては正直、これ以上の面倒はごめんだ。些か身構えながら問うと、レガヴィスは驚くべきことを口にする。


「陛下の奥方……第一王妃のサリーシャ様を名乗られる方が館に来られ、ドラク様に会いたいと」


「はあ!?」


 状況が全くわからない。先ほど帝国から伝令兵がきたばかりだ。なぜサリーシャが?



「どういたしましょうか……」


「とにかく会えば本人かどうかは分かる。すぐに呼んで頂こう」


 ドラクの命令によって、部屋に通された一団。


「本当にサリーシャ!? オリヴィアまで!? なんでここに!?」


 やってきたのは本当にサリーシャ達だ。流石のドラクも混乱する中で、一団に見知らぬ人物が一人混じっている。


 サリーシャ、オリヴィアが口を開くより早く、その人物がドラクの前に歩み出る。


「貴殿がドラク=デラッサ殿か」


 ドラクはその一言と態度で、その人物が誰か確信した。


「スキット=デグローザか」


「左様」


 ドラクとスキットは、そのまましばらく黙ったまま睨み合った。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 一旦ワールナートの面々には席を外してもらい、スキットも別室で待たせると、場所を移したドラク達。


「で、どうしてここに?」


 その質問に答えたのはサリーシャだ。


「休戦締結の伝令を送ったすぐ後に、レツウィーさんの知らせを持った使者がやってきたのよ。それと、スキット=デグローサが直接ドラクに会いに行くと言って聞かなくて。オリヴィアがそれなら自分も同行すると言い出したの。で、私も放っておくわけにもいかずに……」


「なるほど、で、そのオリヴィアは大丈夫なのか?」


 オリヴィアは先ほどからぐったりとしたまま言葉を発していない。ドラクに聞かれても、わずかに顎を動かすばかり。代わりに説明するのはやはりサリーシャ。


「普段王宮から出ないのに、ランビューレから戻ってきてすぐにここまできたから、疲れたようね」


「……そうか、まあ、レツウィーの件は概ね解決した。このまま俺の方で引き取ることになる。……サリーシャ、妃が一気に2人増えることになった。悪いが……」


「いいえ。すでに決まっていたことが前倒しになっただけだから気にしないで。2人は私が帝都に戻る時に一緒に連れて帰る。それで良いかしら?」


「そうだな。そうしてもらえると助かる」


 サリーシャが預かってくれるなら安心だ。どうせ帝都に行くなら、2人一緒に連れて行ったほうが良いだろう。


「わかったわ。任せて」


「ところで、帝都の方は大丈夫か?」


「ええ。トレノ将軍とバッファード様に任せてきたから安心して。ランビューレが動かないなら、あの2人がいればとりあえず問題ないと思う」


「そうか」


「それよりもドラク、あのスキットって男には気をつけたほうがいいわね。得体の知れない何かを感じる」


 サリーシャがそのように表現するのは少々珍しいことだ。


「ああ。わかってる。さて、じゃあ、その得体の知れないやつに会いに行くか」


 ドラクは一度頭を掻くと、面倒そうに立ち上がるのだった。




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