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帝国記(51) 続く知らせ


 ピスカは初対面の通り、かなり大人しい性格のようだ。ドラクと会話していると、数日経っても高確率で噛む。


 ただまぁ、ここ数日時間を共にした限りでは、性格は悪くないように思う。少なくとも早々にサリーシャとぶつかるような事は想像はできないので、その点においては胸を撫で下ろす。


 とは言ってもだ、


「ピスカ」


「ふぁっ!? ふぁいっ!!」


 後ろから声をかけただけで、飛び上がる。このような反応では先が思いやられるような気もしなくはない。見ようによっては可愛らしい仕草ではあるのだが。


 ピスカの動きをやや楽しみながら、ドラクはナルサットみたいだなと思っていた。


 ナルサットは地面に穴を掘ってその中で生活する小動物だ。非常に臆病で、大きな音を鳴らすと慌ててねぐらから飛び出してくる。


 そのため捕獲は容易。ねぐらの入り口に罠を仕掛け、地面の上から何度も叩いてやれば、自ら罠の中へと飛び込んでくるのだ。


 ねぐらを探すには少々コツがいるが、ドラクはナルサットの巣を探すのが得意であった。ナルサットは可食部は少ないものの味は良い。そのため狩や遠駆けの際の間食としてよく捕まえたものである。


「あ、あの……陛下?」


 困惑するピスカの声で我に返った。


「ああ、すまん。少し考え事をしていた。ところで前にも話したが、陛下ではなくドラクでいい。お前は俺の妻なのだからな」


「で、でも、ドラク……様」


 まあ、万事こんな感じだ。これは時間が解決するしかねえなと、ドラクもやや諦め気味であった。


 ともかく、ワールナート領に滞在して10日ほどが経過。傷を負った兵士達も大分回復したし、そろそろ進軍を再開する頃合いである。


「エンダランド、主だった将を集めろ」


「確かにそろそろ動くには良いだろう。承った」


 こうして集められた諸将。その中にはピスカの兄、ザードバルの姿もある。


 主要な議題は今後の進軍経路だ。ナステル東部に続き、ワールナート家の降伏により南部にも大きく出張ることができた。だが南部全てが手に入ったわけではない。


 今後の経路としての選択肢は2つ。


 このまま南部の支配地域拡大を優先するか、北へ進軍し、ナステルの王都フレデリアを目指すか。


 どちらにも利はある。フレデリアはナステルでも北部に位置しており、帝都側から攻め込むことも可能。南部を完全に掌握できれば、南北から挟み撃ちにできる。ドラクが一度ワールナート家に移動した大きな理由がこれだ。


 その反面、ナステルには立て直しの時間を与えることとなる。ランビューレとの休戦は成ると見ているが、おそらくそれほど長い期間ではない。


 そう考えると南部は一旦捨て置き、早めに決着をつけたいところだが、無理を押して被害が大きくなった場合、周辺国の動きが気になる。


 いくつかの意見は出たが、それぞれの主張に利点と難点があり、なかなか決着がつかない。


 気がつけば中天はとうに過ぎている。食事がてら一度息を入れようとした時のことだ。ワールナート当主、レガヴィスが困惑しながら会議の場に顔を出す。


「義父殿、どうされた?」


「陛下、急ぎの使者が2名、おいでになっております」


「使者……帝都からか?」


 まず考えられるのはオリヴィアからの知らせ。ランビューレとの停戦に関する話。しかし2つ? もうひとつは一体なんだ?


 エンダランドも不思議に思ったようで、「もしや、ナステル王が何か使者を送ってきたのですか?」とレガヴィスに聞くも、レガヴィスは首を横にふる。


「1人は陛下の仰せの通り、帝都からです。ですが、もう1人はエニオス王国のシティバーク家より……」


「シティバーク家?」


「エニオスの貴族ということは、もしかしてオリヴィアの言っていた……」


 エンダランドの言葉で、ドラクも思い当たる。エニオスからドラクへ内通の打診をしてきた、もう一つの貴族。


 結局オリヴィアは「まずはワールナートとの婚儀から」と言って、家名を明かすことはなかったが、わざわざこんなところまでやってくる家に、他に心当たりがない。

 

 それにしてもだ、ドラクがここにいることは伝わっているとしても、少々乱暴な来訪である。


 そうせざるを得ない、ドラクに直接話さねばならぬ状況ができたということか。


 場を緊迫感が包む。


「……義父殿、とりあえず使者を両方ともこの場へ」


「承りました」


「いや、ちょっと待ってくれ。義父殿はオリヴィアから“重婚”についてどのように聞いている?」


 レガヴィスはドラクの質問の意図をすぐに察したようだ。


「オリヴィア様からは以前に、『他家からワールナートと同じ申し出もあるやも』と。もとより無理を最初に通したのは当家。特に問題はございません。では、使者を呼び寄せましょう」


 レガヴィス家人に命じると、程なくして、2人の使者が部屋に入ってきた。挨拶もそこそこに、まずはシティバーク家の使者に本題を促す。


「実は……レツウィー姫様をすぐにでも輿入れさせていただきたく、こうしてお願いにあがりました」


「……それまた、随分と急な話だな」


 ドラクとしては唐突どころの話ではない。そもそも内応希望の貴族が、シティバーク家だということさえ今知ったのだ。


「乱暴な話ではありますが、少々込み入った事情がございます」


「……分かった。詳しい話を聞こう。だがその前に、帝都からの知らせを確認する」


 今度はドラクに指名された帝都の使者が話し始める。


「まずは、ランビューレとの休戦がまとまりましてございます。期間は一年とのこと」


 その報告を受けて、諸将から「おお」とか「一年か」などという声が上がった。しかしそれよりもドラクには気になることが、


「まずは、とは他に何かあるのか?」


「実は、休戦の条件として、スキット=デグローザが陛下と会談を希望し、帝都にお越しに……」


「なんだと!?」


 立て続けにもたらされた予期せぬ知らせ。ドラクも渋い顔をせざるを得ないのであった。



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