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帝国記(5) 春嵐5


「親父殿が横死!? そんなわけねえだろ!」


 ドラクに胸ぐらを掴まれた使者は、ブルブルと震えながらも同じことを繰り返す。


「しかし、投獄されてしばらくして、コードル殿は苦しみ始め、医師の治療の甲斐もなくお亡くなりになられた! それが全てですぞ!」


 使者はサリーシャの元へとやってきたのだが、サリーシャがドラクとともにいると聞き、この場へ足を運んでいた。


 当のサリーシャは言葉を失い、硬直したままだ。


 これ以上使者に怒鳴り散らしたところで、何も解決はしない。ドラクは使者を乱暴に押し返すと、「とにかく、すぐに親父殿を引き取りに行く」と宣言。


 しかしその言葉に使者が口を挟んだ。


「残念ですが、それはできません」


「ああ?」


 ドラクに睨まれ、再びブルリと身体を震わせながら、それでも使者は言葉を重ねてゆく。


「尋常ではない死に様から、王はコードル殿が何かの疫病にかかっているのではという疑念を抱かれました。そのため早々に隔離し、念の為その身を焼いてすでに埋葬を……」


 あり得ぬ話だ。急逝されたのであれば、むしろ最初に疑うべきは“毒殺”であろう。にも関わらず、一方的に決めつけ、なおその身を焼いてから埋葬しただと?


 ドラクは再び使者の胸ぐらを掴み、拳を握って腕を振り上げた。しかしその腕を背後から誰かが掴む。


「放せ、エンダランド」


 振り向きながら、腕を掴むエンダランドを睨めば、エンダランドも負けじと強い視線をドラクへと向けてきた。


「今、お前がそいつを殴れば、誰かの思う壺だ」


「誰かとは、誰だ?」


「知るか。少し落ち着け。拳を叩きつけるのはそこにいる相手ではないと分かっているだろう?」


 エンダランドの言う通りではある。ここでこいつを殴りつけても仕方がない。ぎりりと歯噛みしながらも、振り上げた腕を下ろす。


「で、では、後のことは追って王より沙汰がある、それを待て」


 最後はどうにか体裁を保ちながら、そのように言い残して、逃げるように去ってゆく使者を見送ると、ドラクはサリーシャの小さく震える肩をそっと抱き寄せた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 コードルの突然の死からしばらくして、状況が徐々にわかってきた。それと同時に、状況の悪さもはっきりと。


「バウンズと、デドゥ王が元凶か」


 ドラクはその名を吐き捨てる。


 バウンズは金でのし上がってきた者の中でも、特に評判のよくない男だ。


 手段を選ばない強引なやりようは、同じような貴族たちからさえも煙たがられている。


 だが、民から金を絞りとる才能だけは人一倍のこの男は、多額の献金をもとに、王から任される領地を徐々に増やしていた。


 そのような男を重用する王も王だ。


 だが、なぜバウンズが親父殿と揉めたのだ? バウンズの領地と、ドラク達の領地は離れている。親父殿を貶めたところで、バウンズに旨みはないように思える。


「サリーシャ、心当たりはあるか?」


 最近はすっかり口数の少なくなっているサリーシャは、ドラクの問いに小さく首を振った


 結局バウンズの狙いが分からないまま数日後。情報を集めてきたエンダランドによって、その真相が判明する。


「横恋慕だ」


 エンダランドは帰還するなり吐き捨てた。


「横恋慕?」


「ああ。バウンズの息子、ズドタルのことは知っているか?」


 ズドタル。あまり記憶にはない。ドラクも中央とは距離を置いているため、領主の子息など気にかけたこともなかった。そんなドラクの様子を見たエンダランドは、サリーシャへと質問の矛先を変える。


「サリーシャは会ったことがあるはずだ」


 そのように言われたサリーシャだったが、あまり心当たりがないようで、しばし思案を巡らせる様子を見せた。


「……そういえば、前に一度だけ王都の祝宴で僅かに言葉を交わしたような……」


「そいつがサリーシャを狙って、父親に泣きついた。どうもそれが発端らしい」


 馬鹿馬鹿しすぎて、ドラクは思わず口を挟む。


「は? そんなやり方でサリーシャが靡くわけねえだろう?」


「全くその通りだな。一応、お前という婚約者もいることだし」


「一応は余計だ」


「だが、そのお前も消えて、この辺りの領地をズドタルが治めることになれば、どうだ?」


「は、俺も狙われてるってことか?」


「ああ。この辺りはドラクが色々と政策を施したこともあり、国内でも比較的余裕がある。バウンズはそこに目をつけた。そして王に提案したのだ。この地の運営を自分の息子に任せれば、より多くの金を吸い上げてみせると」


「腐ってやがる!」


 思わず壁を殴りつけてしまい、壁に大きな穴が空いた。


「ああ、この国は腐っている。それで、お前はどうする、ドラク?」


「どうするとは?」


「このまま黙って消されるのか?」


「そんなわけねえだろ!」


「なら、選択肢は2つだ」


 エンダランドは表情を変えずに、指を2本立てる。


「言ってみろ」


「一つは、バウンズを討つ」


 それは今、ドラクも考えたことだ。バウンズとその息子の首を飛ばす。そのために軍を起こす。だが、もう一つとは?


 ドラクはエンダランドの次の言葉を待った。


 ひとときの沈黙ののち、エンダランドは言った。



「……もう一つは、王を討ち、お前がこの国の王になることだ」と。




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