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帝国記(38) 奇手

挿絵(By みてみん)


 スキット=デグローザ率いるランビューレ軍に敗北したのち、ドラク達グリードルは厳しい戦いを強いられていた。


 スキットは細かく兵を起こし、度々グリードルの領地を脅かす。その都度追い返すのだが、毎回被害が発生し、グリードル軍は少しづつ疲弊してゆく。


 同時にランビューレの動きに呼応したナステルが、本格的に動き始めた。こちらもどうにか戦線を維持するのが精一杯で、つい先日、ついに小さな砦を一つ、ナステルに奪還されたばかりだ。


 その後、野戦でグリードル側が勝利を収めたことで、総崩れとなることなく踏みとどまったが、こちらも苦しい。


 スキットの狙いは長期戦によるグリードルの弱体化であることは明白であるのだが、だからと言ってそれを打破するほどの機会を得られていない。


 オリヴィアが思わぬ話を持ち込んできたのは、そのような状況が1年ほど続いた頃のことであった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「ドラク、それからサリーシャと内密の相談がある」


 オリヴィアに呼ばれて、ドラク達はオリヴィアの部屋に向かう。部屋にはオリヴィアの他にエンダランドもいた。人払いをしているようで、侍女の姿はない


「なんだ? エンダランドまで。随分と念入りだな」


 ドラク達が用意された椅子に座るのを待って、オリヴィアは語り始める。


「実はのう……今の状況を打破する方法がある」


「何? 聞かせろ」


「ドラク、嫁を取れ」


「は?」


「言葉の通りぞ。妃を取れと言っている」


「何言ってんだ、妃ならサリーシャがいるだろう?」


「察しの悪いやつだ。一夫多妻とせよと言っているのだ」


「はあ? 馬鹿も休み休み言え。俺はサリーシャ以外と……」


 話を切り上げ立ちあがろうとしたドラクの腕を掴み、再度座らせたのはサリーシャだ。それからサリーシャは改めてオリヴィアに問う。


「詳しい話を聞かせて」


「……うむ。我は伝手を辿り各国を撹乱したり、情報を集めているのは説明するまでもない。その中でな、グリードルへ寝返りたいという貴族がおるのだ」


「つまり、寝返る条件が、ドラクとの婚儀という事?」


「そうじゃ。向こうも寝返った際の保険が欲しい。……良くも悪くも、ライリーンが前例を作ったからの。そのように考えたようじゃ」


 ウルテアの前妃にして、オリヴィアの義母でもあるライリーン。ウルテアの王妃でありながらランビューレの貴族と再婚し、自らの統治していた領地をランビューレに提供するという暴挙に出ていた。


 それを前例として、ドラクに下ろうという貴族がいるのは少々皮肉ではある。


 それはともかくだ、これだけははっきり言っておけなければならない。


「おい、オリヴィア。俺はサリーシャ以外の妻は娶らんぞ」


 だが、俺の宣言をオリヴィアは鼻であしらう。


「それは、グリードル帝国皇帝の発言として受けて良いのか? お前はこのままグリードルの疲弊を指を咥えて眺めるつもりなのか?」


「それは……だが、貴族1人寝返ったところで、状況が変わるわけじゃ……」


「変わる。それだけの相手ぞ」


 オリヴィアがそれほどまでにいうのであれば、相当の大物だ。だが……


「しかし多妻なんて……」


 ドラクが一般常識を持ち出そうとするも、それもまた、オリヴィアの反論の餌。


「何を言っておる、確かにやや珍しいが、禁忌ではない。それはシューレットの王家や、エニオスの王が証明しておる」


「ぐっ」


 一夫多妻制には利点も多い、その最たるものが血の結束。


 王ともなれば子は多いに越したことはない。後継者候補は増え、より優秀なものに引き継がせることもでき、その他の子らは貴族や有力な将に嫁がせて身内とする。


 大陸の西の端にある国、シューレットでは、その利点から王は代々一夫多妻制であり、貴族間でも稀に見られると聞く。


 一方、グリードルと西で国境を接するエニオスにおいては、少々事情が異なる。こちらは単に王が好色なのだ。


 理由はともかく、一夫多妻は良いことばかりではない。子が増えれば必然的に身内の争いも増える。まず間違いなく泥沼の権力争いがおこる。


 現在北の大陸において、統治者であっても一夫一妻が多いのは、過去にそういった揉め事で滅んだ国や分裂した国が目立ったためだ。


 ドラクが別の反論材料を探していると、オリヴィアがサリーシャに視線を移す。


「そこでサリーシャを呼んだのじゃ。これははっきり言えば、ドラクよりもお主の問題となる。不満は大きかろうが、ドラクの覇道のためにそれを飲み込み、また、第一妃として血族の取りまとめを行えるのはお主しかおらぬ」


「……」


「我とて、非情なことを言っていることは承知しておる、我を恨んでもらってもかまわぬ。だが……」


「私はかまわない。ドラク。この話、受けましょう」


「サリーシャ!?」


「ドラク、大丈夫。貴方は皇帝なのでしょう。堂々と胸を張って、妃の3人や4人、どーんと受け入れなさい」


「サリーシャ……」


 サリーシャに対してなんと言葉をかけて良いか分からぬドラクに、オリヴィアが思わぬ言葉で畳み掛けてきた。


「それでこそ第一妃。これで新たに2人の妃を迎えても安心じゃな」


「ちょっと待て! 2人だと!?」


 目を白黒させるドラクに対してオリヴィアは、


「なんじゃ? 増やすなら1人も2人も一緒であろ?」


 と、こともなげに言うのだった。





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