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帝国記(30) 奇妙な静寂


 旧ウルテア親衛隊との一戦の後、グリードル領内は奇妙な静けさの中にあった。


 グリードルに対し、想定外の敗北となったバウンズはもちろん、現在緊張関係にあるナステルも沈黙を守っている。加えて北部の旧王派も未だ大きな動きを見せていない。


 ドラク達はここぞとばかりに内政に注力を開始。


 エンダランドを筆頭に、領主の娘として統治に明るいサリーシャ、帝都の有力貴族であるバッファードの3人が中心となり、領内の安定を図る。


 そのためこの3人は現在、帝都アランカルを離れ各領地に奔走中。


 ドラクも曲がりなりにも元地方領主であり、内政の心得があったが、3人全員に「帝都にいろ」と止められた。


 特にエンダランドからは「どこがどのように動くかわからん。何かあればすぐに兵を差し向けるためにも、帝都で大人しくしておけ」と強めに言い含められている。


 ならば帝都の内政に辣腕を振るっても良いのだが、帝都は全くもって平穏であり。内政の主力がいない今、急ぎ決断する必要に迫られるような案件はなかった。


 突然やるところ取り上げられた心持ちで、ドラクは妙に落ち着かない気持ちで大人しくしていたが、いよいよ以て飽きてきた。


「オリヴィアのところにでも行ってみるか」


 誰も聞いていないのに、少し大きな声で独り言を口にしてから立ちあがる。


 自由の身となったオリヴィアであるが、外出といえば王宮内をうろつく位で、街に出たりはしない。これでは幽閉されていた時とほとんど変わらんではないかと思っているのだが、本人は満足そうなので無理強いをするような事でもない。


 もうすぐオリヴィアの部屋、というところで、通路の向こうからネッツが歩いてくるのが見えた。ネッツはこちらに気づいていない。


 声をかけようと手をあげ、ネッツがオリヴィアの部屋で立ち止まったのを見て思いとどまり、そそくさと柱に身を隠した。


 ネッツが扉をノックして、扉の向こうに一言二言何か声をかける。するとゆっくりと扉が開き、オリヴィアの侍女がネッツを部屋に招きいれた。


 なんだ、二人きりってわけじゃあねえのか。


 ドラクはつまらなそうに鼻を鳴らすも、実のところ、ネッツがオリヴィアの部屋を来訪した理由は概ね予想がつく。


 ネッツとは古くからの付き合いだが、元は庶民の小倅だ。日々大きくなってゆくドラク陣営において、ネッツは少し肩身の狭い思いをしているのだと言っていた。


 ドラクが身分など気にしないと伝えたところ、そういうことではないと言う。


『俺、話についていけねえ事が多いんすよ。それがちょっと……』


 確かにネッツは政治的な経験があるわけではないし、ちゃんとした教育も受けていない。会議の時に話題が分からないことが悩みなら、ドラクとしても安易に「気にするな」とは言いづらい。


 そんなネッツの疑問を、会議の都度放置せずに丁寧に教えているのがオリヴィアだ。オリヴィアとしても、自分の知識に対して、真剣に耳を傾けるネッツに話すのは楽しいのだろう。


 元庶民と元姫。妙な組み合わせではあるが、互いに良い影響を与えているようだ。


 今回の来訪も、ネッツがなにか質問に来たと考えて間違いない。


 グリードルのために日々学ぼうとしているネッツの努力に、水を差すような野暮をするつもりはない。ドラクはその場をゆっくりと離れた。


「どうすっかな」


 オリヴィアのところに立ち寄れなくなったし、訓練場にでも行くか。誰かいるかもしれない。そう思って今きた通路を戻る。


 と、窓の外から楽しげな声が聞こえてきた。3階の通路からひょいと覗くと、ルアープとフォルクが並んで歩いているのが視界に入る。


「だから、指揮官はさぁ、兜で見抜けばいいんだろ? 片っ端からそいつらを射抜けば勝ちじゃん」


「それは理想だが、無理だぞ。そのために戦略があるのだから。お前の考え方は乱暴だ」


「俺ならできる」


「お前なぁ」


 2人はドラクと話している時とは違う、年相応の口調で話しながら訓練場へと向かっているようだ。


 一瞬声をかけようが迷ったが、歳の近い二人が仲良く話しているところを邪魔するのもなんだかな、と思う。


 となると、訓練場へ行って、あいつらに変に気を使わせるのも気が引ける。


 まいった。行くところがねえぞ。


 ひとりで街に出れば、それはそれで騒ぎになるし。あとでサリーシャに怒られそうだ。


 ふうむ。どうしたものか。


 ドラクがその場に止まって腕を組んで悩んでいると、背後から声をかける者がいる。


「陛下、このようなところでどうされたのですか?」


 振り向けばそこにいたのは元親衛隊のトレノだ。


「珍しいな。お前ひとりか?」


 ジュベリアーノの腹心であるトレノは、大抵ジュベリアーノと行動を共にしている。


「今日は非番です。同僚と盤上遊戯でもと思ったのですが、その者があいにく二日酔いで寝込んでおりまして……」


「何? 休みか。盤上遊戯なぁ。そうかそうか」


 ドラクがニコニコと近づくと、トレノはギョッとしながら一歩後ずさる。


「ど、どうされましたか?」


 引き攣った笑顔のトレノを捕まえると、


「よし。俺と盤上遊戯するぞ」


 と、強引に連れてゆくのだった。




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― 新着の感想 ―
ああ、こんなところでも盤上遊戯が!? この部分は忘れていました。
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