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帝国記(28) ウルテア動乱13


「おい! ルアープ! また来たぞ!」


「わ、分かっています!」


 流石、ウルテアの中でも選りすぐりの兵士が集まった親衛隊。どれだけ守備を手厚くしても、個の力で防衛戦を突破して、ドラクへ近づいてくる兵士がポツリポツリと出てくる。


「ドラク! この反逆者が!」


 いずれもドラクに罵声を浴びせながら近づいてくるのでわかりやすい。それらに次々とルアープの矢が襲いかかる。すでに4人の将兵が、ルアープの手によって命を落とした。


 流石、アインが興味を持った人物だ。ルアープの腕は若いながら見事なものだ。


 だが、ここで初めてルアープの矢が弾かれる。


「あっ!」


 声をあげて動揺するルアープに、ドラクは「ぼうっとするな!」と叱咤する。


「戦場での後悔は死ぬぞ! そんな暇があったら次の矢を番えろ!」


 ドラクに怒られて慌てて矢を取り出すルアープ。しかしその頃には近づいてきた兵は、他の守備兵に討たれて倒れていった。


「っ!」


 悔しそうなルアープ。そんな様子を見ていたドラクへ、エンダランドが苦言を呈してくる。


「おい、いくら前線に出れないからって、戦場で遊ぶな。それこそ戦場で気を抜くと、お前が死ぬぞ、ドラク」


「うるせえな。別に遊んでねえよ。ちゃんと警戒しているだろ? 俺はこうしてちゃんと新しい戦力を見極めようとしてるんじゃねえか」


「嘘をつけ。お前の考えていることは分かっている。どれだけ戦場で隣にいたと思っているのだ」


「…………」


 まあ、図星ではある。今回の戦いは出陣段階で前に出ないようにとキツく言い含められていた。


 しかし個人的には、後方でただ待つのは性に合わない。完全に守りのみの今、ドラクの出番はあまりなかった。なのでこうして、ルアープにちょっかいを出している。


 無論、綻びが出たりすればそれに対応しなければならないし、そもそもドラク自身が討たれれば敗北である。なので、エンダランドに言い返した言葉も嘘ではない。


 そしてこのルアープ、思ったよりも拾いものかもしれない。この戦いが終わったら、正式に部下になるように勧誘してみようと思う。


 そんな事を考えていると、前方から不穏な報告が届く。


「ネッツ様の率いる右翼の部隊が突出し始めています!」


「何!? あいつ、功を焦ったか?」


 陣形が崩れるのはまずい。すぐにでもネッツ隊を戻す必要がある。


「よし、俺が……!」


「お前はダメだぞ! ドラク!」


 言いかけたところでエンダランドに引き止められて、言葉を飲み込んだ。流石にここで大将が動くべきではない。だが、今、右翼の部隊を引き戻せるだけの人材となると……。


「俺が向かう」


 エンダランドが言う。それしかねえか。こう言う時に自軍の人材不足を痛感する。指揮官適性のある奴が少なすぎるのだ。


「任せた」


「ああ」


 早々に駆け出したエンダランドを見送ると、ドラクは改めて正面を見据える。


「ここが正念場かもしれねえぞ! お前ら! 気合いを入れ直せ!!」


 ドラクの督戦を受けて、周辺の兵士が声を上げる。


 しかし、ドラクの気合いとは裏腹に、敵の動きが明らかに鈍った。見れば、左翼のアインの部隊が敵の横腹に喰らいついている。


「なんだ? どうなってる?」


 ドラクが首を傾げていると、アインの部隊から伝令が駆け込んでくる。


「我が部隊と相対していた敵部隊が突如撤退! 戦場を離れてゆきます!」


「は? なんでだ?」


「わかりません! 追撃しますか?」


 全く状況が分からねえ。が、


「いや、その必要はない。迂回して攻めてくる可能性がある。数名出して、付かず離れず、そいつらの動きを追え! 背後をとるような動きを見せたらすぐに知らせろ!」


「はっ!」


 一応そのように指示を出したが、親衛隊の動きには疑問しかない。戦闘中に撤退して、迂回する? そんな拙い方法を取るか? 親衛隊が?


 それに、アインの部隊の手が空いたことで、アイン達が中央から攻めてきていた兵達に側面から攻め込んでいる事を考えれば、どう考えても相手の動きは悪手だ。


 現にドラクのところに辿り着くような兵士は皆無となり、完全にこちらが押し返し始めていた。


 考えれば考えるほど分からない。エンダランドがいれば意見も聞けるかもしれねえが、今はネッツの部隊を止めに入っている。


 勝機の2文字が頭をよぎる。


 ここでこちらから攻めるべきか?


 一瞬迷ったが、やめた。今回の最大の戦果は、被害を最小限に抑える事。向こうが何を考えているか分からない以上、ここで無理をする必要はない。


 そう心に定めて、どっしりと構えてしばし。前線の兵士が歓声を上げた。


「敵が退却してゆくぞ!」


「俺たちの勝ちだ!!」


 こうして状況がよく分からぬままに、グリードル軍は勝ちおおせたのである。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 しばらくして戻ってきたエンダランドも、ドラク同様になんとも要領を得ない顔をしながらの帰還である。


「……降伏を申し出ている一団がいる」


 ただでさえ状況が分からない中で、エンダランドが持ち帰った話は、いよいよ以てドラクの困惑を深めることになった。


「降伏だと? 親衛隊が? 俺に?」


「少し話を聞いてきたが、罠などではないようだ。ほら、以前に話していただろう。親衛隊の一部に、こちらの統治に賛同している奴らがいるようだと。どうも、今回の一団がそれらしい」


「なら、会ってみよう」


「今回の一件、どうも意味のわからんことも多い。事情を聞くにもちょうど良かろう」


「だな。じゃあそいつらの指揮官に会う。連れてこい」


「分かった。おい、お前達、陛下のために会談場所の準備を進めておけ」


 ドラクの周囲にいた兵士にそのように命じると、エンダランドは再びネッツ達のいる方へと走り出して行ったのである。




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