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帝国記(25) ウルテア動乱10


 ドラク軍迎撃のため、出撃を直前に控えた旧親衛隊に届いたのは、耳を疑う宣言であった。


 グリードル帝国の建国。


 それだけでも兵たちを逆撫でしたというのに、わざわざ「ウルテアは滅亡した」との言葉が添えられての知らせだ。これには流石に、親衛隊の各所から怒声が上がる。


 中でも怒り心頭なのは、親衛隊長のワックマン。親衛隊を率いる将軍であるワックマンは、デドゥを討たれたあの日以来、ドラクに対し強い敵愾心を燃やしていた。


 目の前で主君(デドゥ)を討たれた上、見事に取り逃したのだ。突如発生した春の嵐の中とはいえ、ワックマンの名誉を地に落とす出来事。


 ワックワンの誇りを踏みにじったドラクが、あろうことか皇帝などと名乗り、ウルテアを滅ぼしたと宣言したことは、無論到底受け入れられるのものではない。


「必ずあの逆賊の首を獲り、体は八つ裂きにしてくれる!!」


 青筋を立てながら怒鳴り散らすワックマン。元々はどちらかといえば沈着な人物であったが、ドラクのこととなると目の色が変わる。


 ワックマンの怒りに呼応する兵士は多い。口々にドラクをなじる声が空へと消えてゆく。


 しかし、その怒りの中には一抹の不安が漂っている。


 親衛隊が親衛隊たりえるは、国があってのものだ。ウルテアという国が無くなったのであれば、我々はいったい、何者であるのか、と。


 各々の心に不安がよぎるのを振り払うように、罵声を吐く。或いはそれは、虚勢や悲鳴に近いものなのかも知れない。


 一方で、声を上げる兵士たちの姿を冷静に見つめる者たちもいた。


 冷めた視線を投げかけている者たちの一部は、旧王族への合流を主張していた面々である。


 彼らからすれば、王族がいる場所こそがウルテアという国である。


 自分たちの考えに照らし合わせれば、北に王族が健在である以上、ウルテアは滅んでなどいないという認識だ。


 もちろんドラクの言葉は不敬極まりなく、噴飯物ではあるものの、大声を出すことで不安を払拭するような必要がない。むしろ、そうでもしなければ平静を保てない者たちを、幾分憐れむように見ていた。


 そして、もう一団。騒ぎを静かに見つめているのは、デドゥ王のためではなく、ウルテアの民のために親衛隊に所属していた者たち。


 彼らはそもそも、デドゥ王に良い印象を持っていない。デドゥ王が討たれたのは親衛隊としては痛恨事ではあるが、かといってドラクに報復するのは、何かが違うと思っている。


 元を正せば、デドゥ王の悪政が招いた結果なのだから。


 ウルテアという国がなくなるのは残念ではあるが、聞けば、ドラクの統治下では税も軽減され、民はだいぶ助かっているという。対してバウンズはどうだ? 軍力増強のためにより重税を課し、民は苦しみに喘いでいる。


 バウンズは「これも全て、ドラクを討ち果たすまでのこと。全ての元凶はドラクにある」といってはいるが、搾り取った金の一部はバウンズの懐に入っているのは分かりきっていた。


「ジベリアーノ様」


 白けた気分で、がなりたてる兵どもを眺めていたジベリアーノに、腹心のトレノが声をかけてくる。トレノの表情は渋い。


「みなまで言うな。わかっている」


 この馬鹿馬鹿しい状況に、悪態をつきたいのだろう。だが、聞き咎められれば面倒だ。


「しかし……」


「わかっている」


 ジベリアーノはもう一度、言う。それでトレノも口を噤む。


 ジベリアーノはゆっくりと首を振って、天を仰ぐと、小さな声で「ウルテアは滅んだか」と呟く。


 すると、ジベリアーノを縛っていた「国」と言う縄が、燃えながら地面に落ちてゆくような心持ちになるのだった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「あの……」


 困惑気味のルアープが、進軍中のドラクへ声をかける。


「ん? なんだ?」


「いや、俺……私は前線に……」


「俺で構わねえ。なんだ、このドラクの横は不服か?」


「そんなことはないですが……」


 ルアープを本隊に留め置いたのは、他でもないドラク自身だ。


 そこからルアープは質問攻めにあう。


「弓使いか」


「その年でなぜ傭兵などやっている」


「今までどのような訓練をしてきた」


 ルアープが様々な質問にしどろもどろになりながら答えると、ドラクは最後に「よし、お前は俺の隣で従軍しろ」と、突然命令する。


 そうしてわけもわからぬ間にドラクの馬に並走するように走っているのである。


 どうしてこうなった……


 全く状況が理解できない。確かにドラクが異端だとは聞いていた。それゆえに、若年のルアープでも戦場で使ってもらえるかと思い、こうしてやってきたのである。


 しかし、現状は完全に想定外。


 こうしてルアープは居心地の悪い気分を味わいながら、ドラクの乗る馬に遅れぬように足を運び、バウンズとの戦場へ向かい粛々と進むのであった。




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