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帝国記(16) ウルテア動乱1


「どうされたのですか? 」


 背後よりフォルクに声をかけられたエンダランドは、「ん?」と振り向いて腕を組む。


「諫言して良いものか、どうしたものかなと思ってな」


 エンダランドの返答を聞いて、フォルクも苦笑。


「ドラク様は今日もお元気ですからね」


 エンダランドとフォルクの眼前では、今まさに、一つの小さな砦が陥落せんとしている。


「兵どもは降れ! あの悪王への忠義なんぞ不要だ! 民は俺が面倒を見てやる! 貴族は領地の半分を差し出せば助けてやろう! 断れば容赦はせん!」


 砦の前で大騒ぎしているのはエンダランドの仕える男、ドラク=デラッサだ。ドラクには何度か注意をしたが、それでも気がつけば前線に出て指揮している。


 もはや、そういう将なのだと納得するしかない。しかし、大将が安易に前線に出るのは、エンダランドとしてはやはりどうかと思う。


 だが……


 ドラクには、戦の才がある。前線に出て味方を鼓舞すると共に、細かく指示を飛ばして回る。配下の将の動きもよく見ており、必要に応じて柔軟に動き回っている。


 このドラクの動きが、良い方に転がっているのは間違いない。


 はっきり言ってドラク軍は弱い。軍の大半が義勇兵であり、すなわち素人同然であるからだ。


 エンダランドの義父の尽力で、装備こそそれなりに見られるものになっている。また、数度の攻略戦で多少マシになったが、今回の戦いでも、何をして良いか分からず右往左往している兵がいるような状況だった。


 だが、そんな素人集団の中にドラクが入ると、どういうわけか上手く動く。ドラクとて戦経験が豊富なわけではない。というか、つい最近初陣をすませたばかりだ。そう考えると、これは天性のものだろう。


 ウルテアはデドゥ王の死をきっかけに、大きく分けて4つに分かれている。


 まずは東部から王都までを細長く確保しているドラク軍。北部には王都から追い出された王族を中心とした勢力が居座り、西部はバウンズが親衛隊を私兵化して着々と地盤を固めつつある。


 残る南部は有力な統治者が現れず、状況に対応できていない状態であった。そのためドラク軍は南部の切り取りを優先し、こうして各地を転戦している。


 というか、実際問題として南部を切り取らないことにはどうにもならないというのが現状だ。


 ドラクの軍が今、元親衛隊と正面切って戦っても相手にならない。より弱い場所を攻め、少しでも兵の経験を積んでおきたい。


 危惧されるべきバウンズの動きであるが、エンダランドが自ら情報を集めたところ、親衛隊の取り込みに時間をかけているようであった。


 親衛隊は王の兵であり、完全掌握となればそれなりに反発も出よう。それでもバウンズが野心を露わにするのであれば、親衛隊の忠誠は必要不可欠だ。


 北の方はすぐには動けないと踏んでいる。向こうは兵力がない。


 ただ、他国に助力を求めているのは間違いない。どこが動いて、どこが動かないのか、それを見極める必要があった。


 短期的な部分では、方針はうまくいっている。ドラク軍は徐々に版図を広げつつある。大きな問題は起きていない。ドラクが先陣を切って突撃しようとする以外は。


「降伏したようです」


 フォルクが砦を指差した。白旗が上がり、城門が開かれんとしている。


「これでこの辺りは概ね、我らのものだな」


「そうですね。あともう少しで南部の制圧は完了しそうです。ですが……」


「ナクラの砦か」


「ええ」


 ナクラの砦とは、ウルテア南部では最も強固な砦だ。ドラク軍の勢いを見て、そこに南部の反ドラク派が集りつつあるらしい。ナクラがこちらのものになれば、実質南部攻略は完了したようなものだ。


「この辺りが終われば、ナクラへの道が開ける。色々と準備をせねばな」


「何か策が?」


「ドラクとこれから考える。フォルクも参加しておけ」


 そんな会話をしている2人の元へ、顔を上気させたドラクが走り寄ってくるのが見えた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 ナクラの砦は元々、ウルテアの南の守りの要として建てられた砦である。


 アインはこの砦を預かる将軍であったが、現在、砦の責任者ではない。


「アインよ。準備はできておるか?」


「はっ。兵も徐々に増えております」


「そうか」


 アインに命じているのは、ケーダー=イルセンという貴族。この辺りでは比較的、名前だけは知られた人物ではあった。


 ケーダーはある日唐突にナクラの砦にやってくると、「王族より砦の管理を委託された」と言って、司令書を見せてきた。


 偽造、という可能性も頭をよぎったが、アインは命令に従った。状況が全く分からぬ現状で、アインができる選択はほとんどなかったからだ。


 ケーダーは周辺から兵をかき集め、ドラク軍に対抗しようとしている。


「あいつらは所詮、鎧を着ただけの素人集団ぞ。ここでドラクを討ち、我らが王都を確保する!」


 鼻息の荒いケーダーであったが、アインは密かに嘆息する。


 ケーダーは行動が遅すぎる。


 勢いのあるドラク軍は、ここまで南部を次々制圧しており、徐々に素人集団とは呼べなくなっている。もしも本当に王都を目指すなら、すぐにでも動くべきであったが、砦に篭って大言壮語を吐くばかりだ。


 だが。


 どうあれこの砦を守ることが、アインの役割。


 それがアインの将としての矜持であった。




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