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帝国記(100) 六ヶ月戦線31


 帝国最大の砦ボーンウェル。ここには帝都同様に玉座の間が存在している。ドラクが造ったのではなく、ウルテア時代から存在している部屋だ。


 かつて、ウルテア王が諸将へ命令を発したのであろうその椅子に、ドラクはひとり、身を預けていた。


 部屋には他に誰もいない。エンダランドはヘインズの砦に救援に出ているし、副将のアインは砦を囲むランビューレの警戒に忙しい。


 ドラクは前線に出ないようにアインから懇願されていた。アインの気持ちも分かるため、大人しく従っている。


 そもそもだ、アインに言われるまでもなく、ドラクは強く自重を促されている。エンダランドに、だ。


 出立前のエンダランドは、何度も繰り返し言っていた。


『この戦い、お前が倒れれば問答無用に我々の負けだ。間違っても表に出るな。調子に乗るな。良いか?』


 あまりにも執拗に繰り返すので、だんだん腹が立ってきたドラクが、


『俺が倒れずに敵を蹴散らせば良いのだろう! 今まで俺がどれだけ戦場を駆けてきたか、お前だって知らねえわけじゃねえはずだ!』


 と反論してみたが、次のエンダランドの言葉に、ドラクも言葉を失う。


『そうだ。ドラク=デラッサは常に戦場にあった。だからこそ見てきたはずだ。お前の配下達がどれほど頼りになるかを。俺たちを信じろ。必ずお前の出番まで回してやる』


――――それは狡いだろ――――


 エンダランドの言葉を受けてなお、ドラクが動けば、ドラクが配下達を信用していないと言っているようなものだ。


 だからドラクは腹を決めた。とにかく、ここで黙って、時を待つ。これもまた皇帝がやるべきことだと信じて、どっしりと構える。


 幸い砦を囲むランビューレ軍は大人しいものだ。砦を囲んだままずっと様子を窺っていた。とはいえ、そこにある旗印を見れば、率いているのはスキット=デグローザ。裏で何を企んでいるか分かってものではない。


 一度小勢を出して、様子を見るか?


 そのような気持ちが度々持ち上がる。しかしその都度、ドラクは頭を振って我慢した。


 相手はスキットだ。つまらない隙を見せた瞬間を、一気に突いてくる恐れもある。むしろあいつは、その時を今か今かと待ち構えているのかもしれない。


 まあおそらく、向こうも大筋の戦略は、ヘインズの攻防戦の結果待ちなのだろう。


 このボーンウェルよりも大量の兵士を投入したヘインズ。ヘインズが落ちれば、グリードルはかなりの危機に陥る。そうなれば流石に砦に篭っているわけにはいかなくなる。むしろ、ヘインズからの増援が来る前にスキットを叩き、戦場を後方に下げる必要があるだろう。


 最悪の場合は旧ウルテア領は諦めて、南部の旧ナステル領での再起を図る覚悟も持っておいて方が良いかもしれない。


 そうなった時、ランビューレ相手に巻き返せるか。


 玉座にあって、ドラクはひたすらにその事を考えていた。自軍に自信がないからではない。想定しうる最悪を考えておくのは皇帝の責務だと思ったからだ。


 煮えたぎるような気持ちを抑え、ドラクはただ、一点を見つめて思考を集中させた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 スキットにとって、やや予定外のことが起きている。


 最大動員で短期に撃破する予定であったヘインズ砦が、予想外に手強いとの報告が舞い込んできたのだ。


「攻略に数ヶ月を要する。か」


 スキットは悩む、多少無理攻めでも急がせるべきか。しかし、レグナへの配慮が必要だ。レグナは他の2国とは異なる盟約を結んでいる。先々を考えれば、ここでスキットが上から命令するような真似は避けたいところだ。


 内容を精査する限り、攻略の陣頭指揮をとっているのはレグナの名将、サランであるらしい。ならば、レグナも手を抜いてはいないだろう。それに、サランの立案での攻略ならば、余計にスキットが口を出すのは憚られた。


 ここは、サランの手腕を信用するしかないか。


 まだレグナがどこまで信用できるかは分からない。不確定要素の大きな戦いに、スキットは無意識にため息が漏れる。


 そんな自分自身に苦笑し、思考を切り替えた。


 ヘインズが苦戦したとしても、まだ他に攻め口はあるのだ。他の2箇所が攻略できれば、状況も変わってくるだろう。


 それにヘインズに関しては、時間がかかるとはいえ、攻略できない訳ではない。兵数差を考えれば、いずれ、必ず突破できる。


 連合軍の脆さを考慮して、なるべく早めに決着をつけたいところではあるが、今は待つしかない。


 スキットはボーンウェルの大砦を睨みながら、今後の展開について思考を巡らせた。




 こうしてボーンウェルは、奇妙な静けさに包まれたまま時が過ぎてゆく。




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