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モンスターペアレンツの落とし子

 あるモンスターが、英雄に成敗される直前に逃げ込んだ地下水路の中で、卵を産み落とした。

「せめてこの子だけでも助かりますように!神様!お願い!」

その後、一歩歩く度毎に小虫のような人間や住宅街を踏みにじる母モンスターはスーパーヒーローの手にかかり成敗されたが、地下水路の硬い殻の卵の中では、神の加護を受けし幼い雛モンスターが生き存えていた。

 その日から一週間、空には稲光孕む雷雲、T都市(ゴジラの襲撃もしょっちゅう受ける)には罪深き者ども全ての罪を洗い流そうとするかのような土砂降りの大雨が降り続いた。

川は氾濫し地下水路の下水も溢れ、モンスターが死に際に産み落とした孤児卵はコロコロ転がって、海に流れ出た。

天候が回復した後も、穏やかな太平洋を卵はしばらくプカプカ漂い、イルカの群れにサッカーボールがわりにつつかれて一緒に遊んだりなどしながら、また潮に乗りT都市のある河口のほとりに漂い戻って来た。


 そこにはちょうど生んだばかりの卵と孵りかけの子供達の巣が流されて泣いているワニの夫妻がいた。

「なんだ、プカプカ漂ってくるデカい卵があるぞ!」旦那ワニが泣いている嫁ワニの尾の付け根をポンポン尻尾で叩いて知らせる。

「僕達の失った卵全部を一つに纏めたよりデカい!!」

「じゃあうちの子達じゃないじゃ無い!馬鹿!」

妻ワニは自分の腹を痛めて産んだ卵達を思い、すぐには立ち直れそうに無かったが、夫ワニが拾って二人の新しい巣に入れ、尾で巻いたり時々水をかけてやったりクルクル回してやったり、自分達の卵にしてやってたような愛情をデカ卵に注ぐのを横目に見ていた。ある日、夫が狩りに出て居ない間に、隣の巣の奥さんワニが来て頼み込む。

「うちは子供が多く孵っちゃって食べ物がなくて困ってるの。その卵、食べ応えありそうなサイズじゃない?割って半分でも貰えたら恩に着るんだけど・・・」

「この子はダメ」母ワニは初めて卵を尾で巻き、庇いながら返事した。

「うちで死んじゃった子達のかわりに育てることにしたから・・・」

狩りを終えて帰って来た夫ワニは妻から一部始終を聞くと、ふむ、と頷いた。

「キミの心にとってもこの卵にとっても、助け合って生きていく、これが良いと僕は思っていたんだ。隣の家の奥さんと子達には悪いが」

「でも、何が生まれてくるのかしら?美味しそうなダチョウが生まれてきたら?まだ毛も生えてない柔らかい雛。全然違う生態系。ピヨピヨ、ヨチヨチ・・・言葉や気持ちが通じ合う前に、涎が出ちゃうじゃない?」

「それとも、恐竜が孵ったらどうしよう?僕はそっちを実は心配してる。孵ってすぐ僕達が食べられかねない。卵にヒビが入り出したら、ちょっと離れて見守ろう」

「一体、この子も外来種かしら?可哀想ね。中身の子供が何者であれ、境遇は私達とおんなじなのかも・・・乱獲され密輸され自分達の私欲のために売り買いされて、水も合わない異国に輸入されてきた・・・かっこいいペットだと言って可愛がってくれたのはほんの半月・・・」

「そうさ。きっと全部人間のせいだ。あの僕らの子供達が流されちゃった豪雨だって、人間が異常気象なんか起こすから悪い・・・」

「あっ、あなた見て、卵にヒビが・・・」

「よし。離れて。どんな子が出てくるか・・・」


二匹の夫婦ワニは茂みの陰まで後退り、自分達の巣で孵ろうとする雛モンスターを観察した。

「・・・尻尾はキミ似だ」

「・・・あのガッシリした顎。おてての鉤爪。あなたにソックリよ」

「僕達の子だ」

「ええ、背中に翼は生えてるけれど・・・」

「まあ、個性は少しくらいあって良い・・・」父ワニが孵ったばかりのモンスターの頭を撫でてやりに近寄っていく。

「よちよち、ベイビー。僕がパパだよ」

「ママよ」涙脆い母ワニは既に涙声だ。「ありがとう、生まれてきてくれて・・・」

子供を失い悲しみに暮れていた夫婦ワニと孤児モンスターの赤ちゃんは、こうしてめでたく親子となった。

「マンマ!マンマ~!!」

生まれつき体が大きい赤ちゃんモンスターは鳴き声も大きい。すぐにキーキー声でねだり出す。

「ママよ。ママよ。ここに居るわ」

「マンマ~!!!マンマ~アアア!!!」

「これはご飯が欲しいのかな。よぉし、獲ってきてやろう」

「すぐ帰ってくるからね、ちょっと待っててね、可愛い坊や」

親になった夫婦は意欲満満、海に潜り出来るだけいっぱい魚を捕ってきてベイビー・モンスターに食べさせた。ふたりで何往復も。ベビーは大きく口を開けて待っていて、モリモリ食べた。ほとんど丸呑みで、食べ終わるとまたすぐに大きく口を開けた。

「マンマ~!!マンマ~ッッッッッ!!!!」

「エエェ、まだ要るの?」

「もうクタクタだ・・・」

「ギャアアアア~!!!マンマ~!!!マアァァ~!!!!」

「まだ要るんだね・・・」

「まだ足りない・・・?もういい加減、鳴き止んでよぅ・・・」

それでも正義感の強い二人は一度親になると決めたので、尻尾でバシバシと互いの背中を叩き、気合いを入れ直し、食べ盛りの我が子に食べさせるためまた海に潜る。

「・・・海のお魚が減ってきたわ、パパ」

「・・・もっと沖に出よう。僕達も少しは食べないと、ママ・・・あの子を育てていくためにも・・・」

やがてムクムクと成長し口を利くようになったベイビーモンスターは親代わりにしていたワニ夫婦に礼を言った。

「パパ、ママ、ありがとう。僕をここまで育ててくれて。大変だったでしょう?僕、よく食べるから。可哀想に、ずいぶん痩せさせてしまったね。でも、もう大丈夫!これからは自分で狩りをします。僕は独り立ちします。」

ママ鰐が心配して言った。

「この近くの海域にはお魚がもうあんまりいないの。ずっと遠い沖まで行かなくては・・・あなた、まだ育つの?」

「大丈夫。僕はこれからもっともっと大きくなります。海のお魚が居なくなってる原因は人間の乱獲ともう一つある。鯨を捕って食ってはいけないという謎ルールを人間同士が設定してるからなんです。人間って、見た目が自分達に似てる生物を明らかに依怙贔屓するじゃないですか?鯨とイルカはその点で得だ。可愛らしいぱっちりおめめで、人間と同じ哺乳類。

知能も高いから、長い物には巻かれてやれと、人間の芸を覚え飼い慣らされて暮らす奴もいる。

僕ら鱗に覆われた怪獣っぽい見た目の爬虫類や両生類系は損する事の方が多い。地球を今牛耳ってるギャング人間には誰も敵いませんからね。奴等、3分間だけ別の惑星からデカい宇宙人を応援に呼ぶ事さえ出来る。そいつは空も飛べるし腕からビームも出すし、敵を倒すという大義名分の為退治もされない。この世も末だ。僕もこれからは海底深く潜ってひっそりと奴ら人間の目に付かないよう暮らします。」

父鰐「大丈夫なのかい?キミはまだ子供なんだ・・・よね?」

「僕はヒトで言うとまだ一歳。でも本来は鯨を食べて生きる種族なんです。実は。歯も生え揃ってきました。お父さん、お母さん、本当にありがとう。僕をここまで育ててくれて。僕が海底に戻れば少しは鯨が減り、その分、鯨が食べなくなった小魚がこの海域にもまた戻ってくるでしょう。それが僕が元気な証拠だと思って貰えれば・・・」

「そうか。止めても無駄だな。立派になったな、我が息子よ」

「元気でね、私の坊や!あなたはいつまでも私の可愛い子よ。・・・人間の罠にはくれぐれもかからないように!」

「幸せになれ!さようなら!」

「さようなら、ありがとう!いつまでも忘れません!お父さん、お母さん!!」

幼い怪獣は塩辛い涙を流しながら鉤爪の短い前足で精一杯育ててくれた両親に手を振り、深い海域に潜って旅立っていきましたとさ。





おしまい!

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