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発明家T氏の嫁(R♀)

 今夜も発明家T氏は唇をとんがらせ肩を落として帰宅した。

先にパートを終えて彼の帰りを待っていたT氏の奥さんが出迎える。

「あら、あなた。今日も発明が上手くいかなかったの?可哀想に」

「上手くいかなかった。よく分かるね」

「お顔を見れば分かります。その手に持ってる小瓶は?香水?」

「どうにも使いようのない失敗作さ。これを誰かの鼻にめがけてシュッと一吹き吹きかければ、5分前までの記憶が消えてしまうんだ。」

「・・・使えるんじゃない?」

「誰が必要とする?

例えば大臣がインタビューの席で大失言してしまったとしよう。集まった聴衆一人一人の鼻に向かって一吹きずつしたとてもう取り返しは付かない。SPが両手にこの小瓶を一つずつ持っていたとしても、間に合わない。TVの取材班が失言を録画してしまっているからね。

5分前の出来事を一生記憶に残せるスプレーなら使い勝手もあるかも知れないが。君へのプロポーズの夜とか、新婚旅行で見たあの夜景とか、忘れて貰っては困る誕生日の日とか、普通は記念写真を撮るようなときにお互いの鼻にシュッと一吹きすれば、一言「あの時のことだけど」と言うだけで褪せぬ記憶が鮮やかに蘇るけれども。」

「じゃあその小瓶は捨ててしまうの?」

「まぁそうだな。使い勝手が無いもん。」

T氏が残念そうにゴミ箱にポトンと捨てたその小瓶を、彼の奥様であるR子さんはチラと見ていた。

 T氏はその後お風呂に入り、R子さんと夕食を食べ、夫婦水入らずでテレビを見てから、一緒にベッドに入った。

寝室の灯りを消してから、二人の熱い囁き声が閉ざされた室内に籠もる。

「Rちゃん、好きだよ」

「私もよ、Tさん」

「はぁ、Rちゃん。今夜も可愛いネグリジェだね」

「長い時間をかけて選んだのに脱がせるのは一瞬ね」

「君のお肌に早く触れたいからだ」

「嗚呼、Tさん・・・」

「Rちゃん!Rちゃん!嗚呼ッ!!!もう・・・」

「まだよ、もう少し・・・」

「ダメだ、もうッ・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・Tさん、明日もお仕事お早いの?」

「うん。もう寝なければ・・・」

「今日パートの帰り道にデパートで寝付きの良くなるという香水を買ったの。香りも凄く良いと私は思うんだけど・・・あなたも気に入るかしら?ちょっと嗅いでみて?」

「どれどれ?」

シュッ。

「・・・Rちゃん、愛してるよ!」

「Tさん、私もよ!!」

「Rちゃん!!今夜は裸なんだな!!大胆な!!」

「あなたの脱がせる手間を省いてあげたの!」

「おお、おお、Rちゃん!!」

「Tさん!Tさんん!!」

「ダメだ、もうッ・・・」

「えぇっ?!もうッ?!」

「あ、・・・はぁぁぁぁああ・・・」

「・・・」

「・・・」

「Tさん、Tさん、」

「なんだい?明日は朝が早いんだよ・・・」

「熟睡できる香水を嗅いで欲しいの」

「嗅がなくっても眠れそうだけど・・・どれ?」

シュッ。

「Rちゃん!」

「Tさん・・・」

「Rちゃん!!」

「Tさん!!Tさん!!」

「嗚呼ッ、あああああああああ・・・」

「・・・」

シュッ。

以下ほぼ同文。


 翌朝、家を出るT氏を彼の奥様R子さんが呼び止めた。

「あなた、ちょっと待って。」

「なんだい?ん?君が持ってるそれ、昨日僕が捨てたはずの・・・」

「そうなの。これ、量産できる?」

「出来るけど失敗作だよ」

「いいえ、世紀の大発明よ!」

「なに?!本当!?」

「本当!世の悩める女性を救えるわ!だけど、女性用品だから、使い方と売り方は私に任せて欲しいの。きっと沢山売り上げて見せるから!お願い・・・!」

「ふむ・・・僕の発明だが、君がそう言うなら・・・」

「やったぁ!ありがとう!愛してる!」

「僕もだよ!」

じゃあ行ってくるね、と玄関を出かかったT氏だが、何故かこの日は思い出したことがあったかのように、もう一度振り返って、自分の妻の顔をしげしげと二度見した。

「きみ、やけに今日はお化粧乗りが良いね。機嫌も凄く良いみたい。綺麗だよ」

「あなたにたっぷり愛して貰えたからよ!」





おしまい!


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