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ちょっと歩くとすぐ疲れる彼女 ・ 旅行先を勝手に決めてしまう彼

 僕には去年の夏まで付き合ってた人がいた。

人生初めて出来た彼女だったから、僕なりに精一杯大切にしてたつもりだったんだけど、知らなかったんだぁ。女の子って嘘みたいにヒールの高い靴履いて来て、それですぐ

「歩くの疲れた・・・」とか

「もう歩けないよぅ」とか言うんだな。

いや、噂に聞いてはいた。先に彼女が出来たバイトの後輩とかまわりの友達連中とかには。あれが可愛いんだ、なんて言う奴もいる。

「贅沢言うな、あんたなんかのためにわざわざオメカシしてデートしてくれる女の子が居る事にだけ感謝してろ」って、ねーやんからも言われてたんだけど・・・

 でも、後になって考えてみれば、僕の彼女は一般的な女性よりももっともっと、本当に歩くのが苦手だった。それだけ、よく頑張ってくれてたって事だよなぁ。


 そもそも僕たちの出会いは、彼女が転んだ事から始まる。同じ大学に通っていた僕達だったけれど、広いキャンパスの中、学部も学年もゼミも全部違っていた僕達は、それが無かったら顔も知らずに擦れ違って他人のままで過ぎていたかも知れなかった。

 彼女は四年生、何か就活に必要な書類を就職部まで取りに来ていたらしい。

その日僕は友達が就活に活かせるアルバイトを捜すと言うんで就職部へ一緒に向かっていた。

「意識高いなぁ」と僕。「就職なんて何年先だ。やっとまだこの大学に受かったってところなのに」

「清藤君は良いよ、要領が良いから。でも俺は同じ事やってちゃダメなんだ。コツコツコツコツ勉強してても成績は同じなんだから。今からちゃんと準備しておかないと・・・」

「偉いなぁー」

僕が佐々木君の頭を撫でてやろうと手を伸ばし(彼は大学入学と同時に似合わないイメチェンをしようとして叔父の床屋さんでかえって変な頭にされてしまい、その時一番髪を触られるのを嫌がっていた、)彼はピュッと避けた。ちょうどそこへ、僕の三ヶ月後に彼女になるNちゃんが通りかかっていた。彼女は図体の大きい佐々木に突然目の前を塞がれ、なんとか咄嗟にぶつからずに避けようとしたが、後ろから強引に彼女を追い越そうとする者もいて、ヨロッと僕の方へよろけて来た。

僕はサッと横に身を引いて彼女の前に通り道を一応空けてあげたはずだった。ほんのちょっとは手がぶつかったけれど、そこまでじゃない、はずだったのだ。

 ところが、彼女は割と盛大にコケた。

「おーい、お前のせいだぞ」佐々木が僕をなじる。

「えーそうかなぁ・・・」途惑いつつも何となく僕だって責任は感じる。

「大丈夫ですか・・・」一応聞いてみないことには・・・

「・・・あ、大丈夫です」生まれたての子猫がミャーと鳴いたかのようなか細い可愛らしい声。長い髪をはらい、こちらを振り返った彼女は・・・

背後で佐々木がハッと息をのむ気配。

(可愛い、と思ったんだろうなぁ)僕にはすぐ分かった。佐々木のかけてる縁なし眼鏡を借りて世界を見回したら女の子はみんな可愛くてみんなタイプなのだ。幸せな奴なのだ。

「怪我してないですか?本当に大丈夫?」急に前に出て来て佐々木が心配し始める。まるでぶつかったのが自分だったかのように。

「はい」彼女は立ち上がると僕の目を見て佐々木の質問に答えた。

「もう大丈夫・・・」

「どこも痛くない?」

「うん・・・」

迷子の小さい子を相手にしてるみたいに佐々木が過保護に彼女に構ってるうちに、僕は屈んで、彼女の鞄から飛び出て床に落ちていた貝殻型のミラーを拾い上げ、彼女に渡しかけた。しかし渡す瞬間、それが自分の手から離れる瞬間に、貝の蓋の中で鏡が割れて粉々に砕けてしまってるらしい感覚に気付いた。受け取った彼女の方でも、微かな感触にはっと気付いたらしかった。が、僕の目の前で蓋を開けて確かめると気を遣わせると思ったのか、何も言わず、むしろ隠すようにして、急いで鞄の中に突っ込んだ。


 佐々木は2、3日の間は僕がぶつかった相手の女子が可愛かった可愛かった、俺だって可愛い子にぶつかりたい等と騒いでいたが、すぐ次に可愛いと思う別の子を見付け(毎夕同じ車両に乗ってくるらしい。相手は社会人のお姉さん。パンツスーツがこんなに似合う三次元の美女は他に見たことがないらしい)あの子のことは一旦、忘れてしまった。しかし僕はずっと心に引っ掛かりが残ってしまっていた。

 あの日、大学の帰りに電車の乗り継ぎを待つ間に水を買いに入ったコンビニで、似たような蓋付きの可愛らしい鏡を見付け、何となく買ってしまっていたのだ。もしまたあの子に会う機会があった時には、すぐ渡せるようにと、常に鞄に入れて持ち歩いていた。

それからの僕は分かり易かったらしい。

小柄で長いストレートの黒髪の大人しそうな女の子を見かけると、目でしばらく追いかけ、あの子かそうじゃないかの見極めが付くまでは横っちょから話しかけられても耳が遠くなる。思考ものろくなる。それまでゲラゲラ笑っていても、視界に彼女らしき人影が通りかかると急にスイッチを切ったみたいに笑い止む。らしい。

 佐々木に言わせると「明らかハンターの表情」になってたそうだ。

「そっかぁ、あの子かぁ・・・」ニヤニヤ笑いながら佐々木が肩をポンポン叩いてきた。

「分かるよ。分かる。」

「何が?」

「可愛かったもんなぁあ」

「そう言うんじゃない」

「じゃ可愛くなかったって言うんかい!」

「いや、顔より・・・」

「うるせぃ、もう一回会いたいか会いたくないか?」

「おい、お前余計な事するなよな」

何か企んでる佐々木の目付きに気付き僕は先に釘を刺しておいた。


 佐々木の差し金でもないだろうが、再会のチャンスはその後すぐ訪れた。

佐々木の言う"就活に役立つアルバイト”とは、企業が大学に直接学生アルバイトの求人をかけているやつのことだったが、(在学中からアルバイトで下積みしておけば卒業と同時にそのまま雇って貰えたり、経験値を見込まれて同じような同業他社に優先的に採って貰い易くなる)就職部の廊下に貼り出されているそう言う学校を通した応募先を選んで受かったら、その旨を報告しにまた就職部へ出向かなければならないのだ。

 それで一週間後また僕は佐々木にくっついて事務受付の先にある就職部に向かって歩いていた。するとあの彼女が向こうから歩いてきたのだ。同じ廊下、ほぼ同じ時刻、正夢みたいに同じシチュエーション。

 先に立って歩いていた佐々木がチラッと振り返ってこちらの顔を見、僕も気付いているかを確認した。そして

「あー、俺、こっからは一人で行くわ」と言ってサッサと歩調を速め、就職部の引き戸を開けて消えてくれた。

僕は立ち止まったままあの彼女が廊下を自分の前まで歩いて来るのを見ていた。喉が渇き、舌も口の中に張り付いてしまい、あ、あ、あ、・・・と思っているうちに、もう彼女は目の前まで来ていて、通り過ぎてしまう。こうして見ると佐々木の眼鏡もなかなか曇ってはいなかったようで、正面から見ていて近付いてくる黒髪ロングの小柄な彼女は整った品の良い目鼻立ちで・・・つまり可愛いという事なのだが、・・・

だけど僕は相手の女性が可愛ければ可愛いほど話しかけるのに緊張してしまって逆に顔が可愛い女の子って苦手なのだ。しかも、その中でも、相手も人見知りそうな大人しめの子だと、本当に固くなってしまう。

(ダメだ、無理だ、擦れ違ってしまおう・・・)と諦めかけていた、その時、彼女が上目遣いに僕を見上げ、ペコッと会釈しながら脇を通り過ぎて行った。その感じで、一週間前この廊下で僕に会ったことをまだ向こうも忘れてないのが分かった。勇気づけられた。

「あの」

「あ、はい」

「あのー、覚えてますか、ぶつかった者ですが。先週ここで」

「うん。覚えてる」ここで彼女はニッコリ笑った。美人にありがちな、無表情にしてるとツンと冷たく取り付く島がなく見える鋭さがほろりとほぐれ、かわりに親しみたっぷりな温かい愛嬌が僕を映してる目に宿った。

吸い込まれそう、うわぁ、可愛いなぁ、やっぱり・・・と、世界中の時計の針もとろける恋の魔術にかかってしまった。完全に。反則!こんなの、イチコロだ!

「これ・・・」僕はずっと鞄に入れて持ち歩いていた、一応ピンクのリボンをかけプレゼント用に包装して貰った、鏡の小さい包みをゴソゴソ出して彼女に差し出した。

「何ですか・・・これ」彼女はなかなか手を出さない。せっかく笑顔だった眉が曇り、不審そうな表情。

「あの時割れちゃったんじゃないですか?多分。鏡」

「ああ!」再びパッと明るい笑顔が灯る。まるで全世界の照明のスイッチみたい。もはや僕には彼女の表情が雨・晴れの天候なんかより最重要事項になってしまいそうだ。

「そんな・・・良いのに・・・これ、私に?」ソッと小さい手を広げ、やっと遠慮がちにさし出してきた。

「気に入るかどうか・・・開けて見て」

「・・・わぁっ、可愛い!」彼女は包装紙からとリ出した鏡を一目見て顔中で最高の笑顔になり、両手で包んでギュッと一瞬胸に抱き締め、それからまた良く見るために手を広げ鏡に見入った。くそぅ、仕草もいちいち可愛いなぁ・・・

「ありがとう・・・!」そう言って僕を見上げるキラキラ輝く目!思わずガバッと抱き締めたくなる。だが、ダメだダメだ、必死に我慢。僕はなんとか理性を呼び戻す。

「同じ貝の形じゃないけど・・・」

「ヒトデね」

「そっか。ヒトデにも見える。僕は星の形だと思ったんだけど、そうだね、ヒトデも星形だもんね」

(何だって良い、君の気に入ったなら・・・)と僕は喜ぶ彼女の顔を見て思った。

 人見知りな僕達は、しばらく顔を見詰め合い微笑み合っていたが、だんだんにその時間が長くなるにつれ気まずさが舞い戻ってきた。

「ああ、じゃあ、それだけなんです・・・これを渡したかっただけ・・・」

「そう・・・?」

ついに僕は為す術なく、また彼女の前に立ち塞がっていたことに気付いて姿勢を変え、道を空けた。そろそろこの人を解放してあげなくては・・・

「で、これから二人はデート?」突如現れた佐々木が腕をブンと振って僕の肩をバチンと叩き、そのまま力強くグイグイ押して僕の肩を彼女と同じ向きに変えさせた。

「三人で行く?」

彼女は引っ込み思案な苦笑い顔で佐々木を見上げ、少し僕の方へ躙り寄ってきた。

そのまま三人で何となく歩き出す。彼女はもともとの進行方向、佐々木も就職部のアルバイト先に繋いでくれた担当者に書類を提出して来たらしく、さっきまで手に持っていた書類はもう無い。

「映画?パンケーキ屋?ショッピング?それとも、今日はもう帰る?後日また会うの?」

陽気な顔をして彼女の顔をのんきそうに覗き込み、僕の目には(おい、このチャンスを逃す気か?正気?)ときつく睨み付ける。

「今日は・・・」彼女が小さい声でこの後は用事があるようなことをゴニョゴニョ言いかける。

「俺が邪魔なら消えるよ?今すぐ」

彼女は慌てて首を横に振り、僕も佐々木にまだ居て欲しいと目で訴える。

「まぁまぁあらあら手間の焼ける子達!」

駅までの道のりと電車の中で、佐々木が彼女から名前や降りる駅、連絡先交換、次に会う日の約束取り付け等、恋愛初期設定を全部お膳立てしてくれた。

この時に、小柄であどけなく見えていた彼女が僕達よりも三つも年上の就活生だと言う事、本当にもうあんまり会う時間がなく、チャンスも少ないという事が分かった。

「姉さん!」

年上と分かってから彼女の呼び方を変えた佐々木が、持ち前の人の心に取り入る本領を発揮し、電車を降りていく彼女に向かっていきなり体を二つに折って頭を下げた。そして、下から掬うように上目で彼女の目を見上げた。(終始佐々木のチャラ男設定に苦笑いで腰が引け気味の彼女だったが、派手なパフォーマンスを可笑しく受け止め、あながち佐々木を嫌ってもいない事が分かってきた。それでS君も余計調子に乗ってしまったのだ。)

「姉さん!こいつ良い奴なんすよ!是非に是非によろしく頼んます!こいつが女性にこんな惚れてるとこ、長い付き合いの俺も見たことが無い!見た目こんなですが、こいつ童貞ですから!本当に!俺が保証します!いっぺん、いっぺん付き合ったって下さい!使用済み返品交換可!交換の際は次は俺でよろしくっす!お願いします!この通り!」

閉まっていくドアの向こうで口元をおさえながら、ついに彼女が声を上げてアハハと笑うのが聞こえた。呆れて首を横に振りながらも。

電車が動き出し窓から彼女の姿が見えなくなると、恋のキューピッド道化師が「は~疲れた、は~~~」と凭れかかってきた。

「おい、次の駅で降りてとりあえず何か奢ってよ。」

僕達は自分達の目的方向とは違う電車に乗り彼女が降りるまで一緒に居たのだ。

次の駅の駅前の焼き鳥屋で乾杯しながら佐々木が言った。

「感謝しろな。まさか自分一人で相手の名前すら聞き出せてなかったなんて、俺がいない間何やってたんだ?ホンマ!情けない」

「・・・就職部で時間かかってたんだな。書類出すだけなのに」話題を変えようとして藪蛇を踏んだ。

「お二人に気を遣って出て行き辛かったのさ!」

「そうか。そらすんません・・・」

「あの子と付き合えたら、四人でダブルデートしよな!」

「彼女出来たの?」

「あの子に友達連れて来て貰うんだよ!USJが良いかなぁ・・・」

早くも皮算用を始めてる佐々木に僕も苦笑い。

「佐々木君には頭が上がりませんよ」


 自称恋愛師範S師匠の力添えもあり、そこからはトントン拍子に事が運んだ。トントン上手くいきすぎてちょっと良いのかな大丈夫かと怖いくらいに。

①まず最初のデートで映画を観、イタリアンの店に行き、遅くなり過ぎないうちに家まで送る。バイバイと別れるまでに手を繋いだ。(S君に課せられたミッションはここまでだったが、凪ちゃんがソッと僕の腕の中に凭れてき、むしろそうしない方が不自然に思われたので、キスまで出来た。一応、遠慮して額に。)

②次のデートではツツジと薔薇の公園に出掛け、凪ちゃんを少し歩かせてしまった。

この辺からだ。女性の矛盾を知ったのは。

自分よりもより長距離、速く歩ける異性と一日行動を共にするというのに、女の子らしくおめかしもしたくて、どうしてもヒールのある可愛らしい靴を履いてきてしまう。可愛らしい靴は可愛らしい距離しか歩けない。

僕は人の見ていない隙に、旬の過ぎてしまったツツジの小道や、まだ咲き始めてない硬い蕾の薔薇の藪陰など、人けの無い場所では足を痛めてしまった彼女をおんぶしたりお姫様抱っこしたりして運んであげた。

歩けない靴というのも良いものだ。紳士ぶりながらボーナスボディータッチがいっぱい出来る。ウッホウホ!大いにウェルカム!もっと頂戴!である。


 こう見えて僕はアルバイトに忙しい苦学生、凪ちゃんも就活を頑張る努力家で、ゆっくりデートが出来るのは月に一度か二度。そして同じ大学の敷地内でほんのちょっと会う時間を確保できるのも、もう今年が最後だ。

 彼女の方でも速く仲を深めたいと思ってくれてるような節が所々で感じられた。


 3度目のデートはなかなか予定が合わず、やっと決まった日にちに彼女が風邪を引いてしまい、延期になった。その次はこちらが風邪をひき、またまた会えるのが先延ばしになってしまった。携帯のカメラで撮った彼女の写真を枕元に、風邪と闘う。大学全体で流行った今年の風邪はしつこかった。凪ちゃんが看病に来てくれた夢を見て、目を覚ませば、ねーやんだった。

「なんだ、ねーちゃんか」

「なんだ、じゃねぇ。来てやっただけ有難く思え」

「不審者みたいなマスクだな」

「うつされたくないからな。オジヤを鍋いっぱい作ってやったから恩に着ろ。」

「ありがと」

「・・・これ、推しのアイドルか何か?」

「あっ」

僕は飛び起きて携帯電話を姉の手から奪い返し、待ち受け画面を変えた。

「もしかして彼女?」

「最低最悪。人の携帯見るとか」

「へぇぇぇぇ~~~~」ねーやんがニタニタ笑った。顔の半分を隠す大きなマスクをしていても丸く細まった目で分かる。

「あんたに彼女がねぇぇ」

「うざ」

「地下アイドル並みに可愛いし」

「地下が余分だ」

「ふぅ~~~ん???・・・」

「うるさいなぁ」

「何も言ってないよ?」

「顔がうるさい」

「黙れ。」

何かが僕の腹の上の布団の上でブーンブーンと震えた。ねーやんの携帯だった。

「人の腹の上を荷物置き場にするな」

「ここ以外鞄置けないもん。汚いんだもん、あんたの部屋」

そのまま通話し始める。

「あ、お母さん?んー。生きてた生きてた。まぁね~、ちょっとは死にかけてたけど大丈夫、間に合ったー」

俺のことを我らが母に報告しているようだ。

「そう言えばター君、イッチョ前に彼女できたらしいよー。地下アイドル並みに可愛い彼女・・・」

「おい、速攻でバラすなよ・・・!」

「あーい、あーい、・・・」プ、と通話を切ると、姉が言った。

「石とか売りつけられるなよ、だってさ。」

「せめて壺だろ」

「最近はブレスレットだよ」

「やられてるんじゃん、ホスト狂いめ」

「私じゃない。友達がね。・・・で、やることやったんで、もう帰って良いですか?」

「どうぞどうぞ」

「鍋。おじや。」指さし確認。

「ありがと」そして姉は帰っていき、僕は田舎臭いが懐かしい滋養たっぷりのおじやを食べ凪ちゃんの夢を見て何とか生還した。

 さて、3度目のデートだが・・・

「久しぶり」僕は間が開きすぎてぶり返しそうな人見知りをなんとか脇へ押しやり、勇気を振り絞って凪ちゃんに電話をかけた。

「久しぶり」

子猫のような可愛い声を聞くと最後の風邪の名残もスッカリ吹き飛ぶ。もっと早く電話してれば良かった!

「今大丈夫?ちょっと時間・・・」

「うん。どうしたの?」

「また会いたいなと思って・・・USJなんてどうかな?友達も誘ったりして?」

「・・・うーん・・・」

「・・・あ、夕方からのチケットで入れば人混みも少なくて、そんなに歩かないと思うよ?熱くなくて。安いし・・・」

「・・・んー・・・」

「・・・他の行き先でも良いよ、どこか行きたい場所ある?」

「・・・」

僕は一旦携帯を耳から離し、通話が繋がってるかと、電波状況を確認した。

「もしもし?」

「・・・あ、うん・・・」

なんだろう、この端切れ悪さは?もしかして、誰か別の男に心移りしてしまったんだろうか?なかなか会えなかったこの空白の一ヶ月の間に?

「・・・デートはもうしたくない?」

「そうじゃないよ!したいよ、ただ、ずっと先になっちゃうかなぁ、と思って、カレンダー見てたの」

「忙しい?」

「うーん・・・これから引っ越し準備で、しばらく忙しくて・・・」

「そっかぁ、前から言ってたね・・・引っ越すって・・・」

「うん・・・」

「そうかぁ・・・」

「んー・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・じゃあ、また、引っ越しが終わってからかなぁ?会えるのは?」

「うん」

「いつ引っ越し?」

「今月の終わり」

「じゃあ、引っ越し後・・・引っ越し後もすぐは荷物の整理とかあるかぁ・・・そしたらまた一ヶ月くらい先だね-・・・」

「・・・私も会いたいけど・・・」

「俺も!・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・じゃあ、あんまり忙しいのに電話してたら悪いよね?また会えそうな日が分かったら教えて?」

「うん」

「じゃあね、また・・・」

「うん、また・・・」

あーあ、電話を切ると大きな溜息が出た。せっかく風邪も治ってバイトも休みにしてもらったのに、退屈でする事もない。佐々木は今日はバイトかな?・・・

佐々木君に電話し呼び出し音を聞いている間、

(あいつなら今のやり取りを話したらきっと『引っ越しを手伝いに行け、そしてゴー!だ。進めるところまで突き進め!!家に上がり込めたらもう、お前、こっちのもんだぞ!!』とか言うだろうな・・・)と想像していた。

しかし呼び出し音が鳴り止まない。終いに留守番電話に繋がりそうになって、プチッと切った。留守番電話にまで残すほど緊急に喋りたいわけでもない。携帯を投げ捨てようとして、ふと画面を二度見する。

「あれっ!」思わず明るい叫びが漏れる。

「ごめん、電話くれてた?」すぐ折り返した相手は凪ちゃん。佐々木に電話していたほんの数分間に着信を受けていたのだ。

「うん。ごめん・・・実は、清藤くんに頼みたいことがあって・・・」

「何?」

「箪笥を動かしたいんだけど、一人じゃ重たくて・・・」

「箪笥?」

「箪笥の裏に小物が落ちちゃって・・・」

「はぁ・・・なるほど。良いよ。」

「本当は夜まで待てばお父さんに来て貰って一緒に動かせるんだけど・・・さっき電話を切った後に、清藤くんに手伝って貰えばもっと良いかなって思えてきて・・・」

「うん。手伝いたい。今からすぐ行って良いの?」

「ありがとう。できるだけ汚れてもいい格好で来てね?」

「分かった。すぐ行くよ」

電話を切ると今度は佐々木から着信が来た。もうお前はお呼びじゃない、出ないでおこうかとも思ったが、さっきは自分がかけたのだからと思い直して渋々電話に出る。

「どした?」

「どうもせん。もうお前に用はない」

「おおぅ、喧嘩売っとんのか?」

「いや、本当に今急いでるから」

「なんじゃそりゃ・・・ん?・・・何かパタパタしてるな?」

「出掛ける用意」

「これから凪ちゃんと会うの?」

「そう」

「そら急ぐわな」

「おん」

「じゃな」

「うん」

「後で報告せーよ」

「え~」

「えー?これからどこ行くの?デート」

「凪ちゃんち」

「おお、詳しく話せ」

「引っ越し準備で箪笥を動かしに行く」

「ふむ。ほんで?」

「夜まで待てばお父さんが来てくれるけど、早い方が良いって。何か小物が裏に落ちたらしい。」

「ゴム持って行けよ」

「ゴム手袋?」

「アホかお前は!童貞か!!あ、すまん童貞だったな。すまんすまん。コンドームのことです」

「要ると思う?」

「どアホかお前は!要るに決まってるだろが!そう言う雰囲気になったときにスッと懐から取り出せるのが侍の刀、ジェントルメンの証。持ってないのがやっぱり童貞、なんだよ。そういうところで決まってくるの!

あああー、凪ちゃんもやりおるよのぅ。あの人ああ見えて四つ年上だからなぁ・・・もう大人のレイディなんだよ。お分かりか?夜にはオトンが来るからチャッチャと帰れよ、って前もって教えてくれてるワケだろ。そんなことも分からんとはお子様だねぇチミも。あー、よちよち」

「あのー、もう切っても良いですか?」

「はーい」

僕は電話を切り自転車を飛ばし(途中のコンビニで佐々木のアドバイス通りコンドームを一箱買い)、凪ちゃんの待つ駅までドキドキガタンゴトン、電車に揺られた。


 今から考えれば彼女の家のあちこち随所に伏線がばら撒かれていた。

バスルームには大量のバスソルト。2匹のイルカの壁掛け時計。クッションや寝具は淡い水色の波の模様。

僕には汚れてもいい汚い格好をさせて来させた割に、凪ちゃんが身に付けていた下着は珊瑚と水玉模様の物凄く可愛い勝負下着だった。

「・・・はぁぁ、竜宮城に来ちゃったみたいだぁぁ・・・」

 事後、二人でグッタリ彼女のベットで横たわる頭の上に、蝶のようにゆらゆら揺れて燦めく熱帯魚のシャンデリアを見上げ、僕は思わず心の底からの感想を漏らしてしまった。

ふふっ、と凪さんは僕の腕枕の中で笑った。


 夏休み目前。

僕は凪さんの引っ越しを手伝い、そのまま新しい部屋にも入り浸るようになった。

ズルズルとお家デートばかりが続き、こんな幸せで怠惰で罰が当たらないだろうか、大丈夫か?と誰かを捕まえては惚気自慢を聞かせたくなるような甘い熱い日々。

 そして問題の夏休みが始まった。

 二人とも日にちを揃えて纏まった休みがとれそうだから、旅行へ行こうと言うことになった。都会に憧れのある凪さんはショッピングに事欠かない東京、それにディズニーランドに行きたがった。お財布に自信の無い僕は海か山に行きたい。

ジャンケンで僕が勝ち、

「じゃあ海か山に決定!ホテルは探すよ」と僕は言った。

「その二択なら山にして。お願い!」凪さんに頼み付かれた。しかし僕は既に海寄りの気持ちが強かった。凪さんの水着姿が見たい。水着の凪さんと水のかけ合いっことか、浅瀬でじゃれ合って追いかけっことか、そっちの方がしたい!

もう頭の中に薔薇色のイメージがしっかりと浮かんでいた。頑固に。

 折しも、大学で

「夏休みは凪ちゃんと海行こうと思っててさぁ・・・」と佐々木に話してるのを聞いていた同じゼミの男が、

「それならうちの別荘を使う?」と持ちかけてきたのだ。

なんでも、年に一、二度は家族の誰かが別荘に行き窓を開けて風を通さないといけないのが今年は家族みんなが忙しくて都合が付かないと言うのだ。

「んん~・・・場合によっては行ってあげなくもないけど、その別荘ってどんななの?」

「去年の夏に家族で泊まった時の写真があったかも・・・」

普段から何かに付け何となく金持ち臭~い余裕のあるところが気に食わない男だったが、別にこれと言った対立もしてないのでこちらは表面上当たり障り無く対応してきた。相手は僕に胡散臭がられてると知らないのだろう。

「あったあった・・・」彼が見せてきた別荘の画像を見て、一緒に画面を覗き込んだ佐々木が「ホーッ!」と感嘆の雄叫びを上げた。

「俺も泊まりに行きたい!」

「佐々木君は彼女いないだろ。」そうだそうだ。貧乏人の彼女無しは引っ込んでろ。

僕は顔色を変えず良きボンボン君に頷いた。

「悪くないね。良いよ。風を通しといてあげよう」

「ありがとう!じゃ明日ここの別荘の鍵を持って来るね」


 ゴージャスなプライベートビーチ付きコテージをビックリサプライズして凪ちゃんをアッと驚かせたくて、僕は当日までこの事を黙っていることにした。喉元まで出かかって鼻がムズムズし通しだったが。でもそんなこと露とも知らないNちゃんは

「ねぇ、せめて山にしましょうよ?海か山かって、二択だったはずじゃない?」

とずっと泣き付いてきた。

(行き先を山ではなく海に決定したことだけは伝えたのだ。彼女にだって持っていく物の準備とか心の構えが必要だから・・・海に水着じゃなくてトレッキングポールを持ってこられても困るし・・・)

彼女は身悶えして

「ねぇ、それじゃあ、せめてプールにしよう?それとも温泉か?」

と妥協案を出してきた。

「プールで泳げるなら海も一緒だよ。」

「全然違うよ!!海には色んな変な虫とか踏んだら危ないヤツとかがウヨウヨしてるんだよ!クラゲに刺されるかも知れないし!ウミヘビに噛まれるかも知れないし!プールなら安全じゃん!ちゃんと塩素消毒されてて!ガブッと飲んじゃっても塩辛くないし!」

「でも海の方がパノラマが綺麗で広大で心洗われるよ。サンセットもサンライズもプールには無い。それに正直、僕はお金があんまり無いんだ・・・」

「もう!それは私がなんとかするって!」

「ダメ。男に払わせるのが女だよ」

彼女は地団駄を踏み、拗ねてしばらくは口を利いてくれなかった。しかしそれでも僕は頭の中に描いた薔薇色のサプライズの夢に浮かれて上機嫌だった。


いよいよ海に行くという前夜。

日にちが迫ってくるにつれ、あまりにも凪さんの行きたくなさそうな様子が高まってきていたので、当日になってから迎えに来たんじゃ部屋はもぬけの殻だったりして・・・逃げ出してたなんて落ちはないよな・・・と胸騒ぎがして、僕は予告せずに彼女の家に押しかけてみた。すると彼女はまさに夜逃げの荷造りの真っ最中だった。

「あーあ、やってんなぁ。バレバレ。でも、もう逃がさないぞ」

僕はディズニーランドの攻略本とミニー耳のカチューシャを彼女のスーツケースから放り出し、かわりに勝手知ったる箪笥の二段目から水着とゴーグルを取り出して、スーツケースに押し込んだ。

「な・・・なんで分かったの?」

「日が近付いてくるにつれ、死期が近付いて来てる並に青ざめて物凄~く嫌がってたでしょ、それが二日前からフッと憑き物がとれたような開き直った顔して、変にスッキリ清々しそうで、たまにこっちが気付いてないと思ってる時の僕を見る目に妙な後ろめたそうな悪そうな企んでる表情が出ちゃってたんだもん、顔見てたら分かるよ。こりゃ土壇場で逃げ出す気だなぁって。そう言う時のキミ、実家で飼ってた猫とおんなじ目の色してたよ。」

「猫?」

「そう。実家で猫飼ってたんだ。二年前に家出してからまだ戻って来てないんだけれど・・・あのニャン子も、何でだか、人間の言葉が分かるんだか、カレンダーが読めるのか、不思議だったけど、どうにかして察知して、定期検診に動物病院に連れて行こうっていう前夜にフッと姿をくらましてた。こっちは前々から準備して高い注射の予約も取ってるって言うのに!で、ほとぼりが冷めてきたかなぁ~って頃に、『にゃんのことでしょう?』って顔して、ニャ~ってフラッとまた現れるんだ・・・もう慣れっこさ。

観念しな。今度だけは僕の方が一枚上手だったな」

しかし、この時、僕は勝ってはいけない勝負に勝ってしまったのだ。


眠っている間にも彼女が逃げ出さないよう、念には念を入れ、大人のオモチャの(しかし実力はなかなかのもの)手錠で僕の左手首に彼女の右手首を繋いで寝、迎えた翌朝。

彼女は人形(あるいは全くの赤の他人行儀)みたいに目も合わせてくれなくて、ずっとそっぽを向いて必要最小限を蚊の鳴くような声でしか返事してくれなくなっていたが、それでもこちらはウッキウキだった。

実際にどこまでも続くエメラルドブルーの水平線を目の前にし、どうせどこかの雲の上の富豪の別荘だろうと風景の一部にしか見えないように横目に見てるゴージャスコテージに実は二人きりで二泊する事が分かったら、さすがの彼女も、その途端に機嫌は飛び跳ねて上向くに違いない、と僕は確信していた。


空は快晴。海は青く、美しかった。

この期に及んで彼女が何度もトイレに行きたがったり、小さい子供みたいにグズグズ言ってモタモタしていて、電車を2本も乗り逃がし、予定よりも三時間も遅れたが、どうにかこうにか到着した。

どこまでも続く水平線、広大な青、白波の上に遊ぶ黄金の陽光。永遠に打ち寄せては返す波にサンダル履きの足指をくすぐらせれば、なんと冷たく爽やかで心地良いことか!!積み上げたシュークリームのように天高く浮かぶ入道雲よりは下、大輪の真っ白な百合の如く飛び交うカモメ達もまるで手に手を取り合い歩く僕ら二人を祝福するためトランペットの鳴き声で賛歌を歌っているかのようだ・・・ようこそガー!海へ来てやっぱり良かったねガー!若いお二人仲良さそうねガー!ガーガー!ガーガーガー!!!と。

「ねぇって!手を引っ張り過ぎ!!」凪ちゃんはさっきから根気よく繋いでる手を振り払おうとしている。

「もっとゆっくり普通に歩いてよ!」

「スキップしようよ!一緒に!」

「いやっ!」

「ねぇスキップし・・・」

「出来ないのッ!!あたし生まれつきスキップ無理!先天性の脚の病気で!!!」

「あ・・・それは・・・ごめん・・・本当に・・・悪かったよ・・・」

ついにとうとう手を振り払われ、(まぁ良い、駅は遠く彼方。もうコテージの方が近いし、ここまで来れば逃げられる恐れはないだろう、)初めから海水パンツを履いてきた僕は気まずさを紛らせるためにもまず自分から失敗は早々に忘れ水に流すことにして、バシャバシャ浅瀬へ入っていき、彼女の足へ冷たい水しぶきのお裾分けを跳ねかけてあげようとする。

「やめてっ!死ねば良いのに!クソがッ!」

全く聞こえなかった振りをして僕はもう一度手を繋ごうとニヤニヤ笑いながら彼女の元へ。

「どうしてストッキングに皮靴なんか履いてきたの?」

「海水に近寄りたくないから」憮然とした返答。

「じゃああそこまで競争しよう!ルンルン!ほら!一緒に!」

「ホテルは?どこよっ?!」ドスの利いた声。まるで怒鳴るよう。

「ジャ~ン!!あれだよ~!」

ここぞとばかり彼女の顔色を覗き込む僕。眉毛の1本も動かさぬ彼女。

「あたしの荷物返してっ!早くお部屋に入りたい!一人になりたい!あなた一人で犬みたいに勝手に波と遊んでなさい!馬鹿っ!」

いつもこんなに怒った試しのない優しい凪ちゃんだっただけに、ここまでブチ切れてドスの利いた声で本音を投げつけられると・・・

僕はけっこう傷付き、でもしっかりと赤いリュックの紐を握って離さなかった。

「・・・部屋までは送るよ・・・コテージの鍵は開けるのにコツがあるらしくて・・・僕が預かってるから・・・」

「フンッ!」勢いよく横を向く彼女の鼻息が聞こえた。

「喜んでくれないのかぁ・・・」僕は聞こえるように正直なありのままの心の声を口に出してみた。今度は同情を引く作戦だ。

「サプライズしてキミの笑顔が見たい一心だったのに・・・」

しかしこの程度では何重にも分厚いシャッターを下ろしてしまった彼女の心はチラとも揺れなかった。


部屋の中に入ると、暗い画面を映す巨大テレビの前のソファに凪ちゃんは深々と沈み込み、片手で目頭を押さえ、完全に動かなくなった。僕は一人で全部の窓を開け放って回った。

「お外で遊んでおいでよ」

窓を全部開け放ち、やることを済ませてしまってからソファの彼女の隣にソッと座ると、Nちゃんがポツリと言った。

「ちょっとで良いから。一人にさせて」

「分かった」

寂しかったが、僕は素直に言われたとおりにすることにした。

窓の外には光り輝く青い海。水は澄み冷えてるよと誘いかけるようにカモメが鳴いている。


コテージにはドアが二つあった。片側は陸に面した橋に続き、もう片方のドアは海の中へ続く桟橋へ。

僕は頭痛生理痛歯痛にいっぺんに襲いかかられてるようなしかめ面の彼女を残し、そっと海への桟橋に続くドアから外へ出た。

橋を歩いて行きながらサンダルを脱ぎ捨て、アロハシャツを脱ぎ捨て、海水パンツのゴムをパチンと弾く。吹き抜ける潮風が汗ばんだ肌に心地良い。最初はソファに残してきた彼女を想い後ろ髪引かれるようだったのが、一歩一歩彼女から離れ海の中へ進んで歩くうち、嘘のように、潮が満ちるように、ヒタヒタと心が海に支配されていく。

(二人で楽しみに来たつもりだったが、一人が臍を曲げてるのはもう仕方がない・・・ならばせめて片方だけでも満喫しよう!僕が彼女の分まで楽しんじゃえば良いってことさ!!)

ひとりでに脚が走り出していた。首からぶら下げていたゴーグルを目に装着!!桟橋の一番端まで来た!!大・ジャーンプッッッッ!!

空中からバタ足を開始・・・キラキラ燦めく眩しい海の真ん中へ・・・

ドッボーーーーン!!!

 冷たい!爽快!!スリル!!嗚呼、嗚呼っ、なんて楽しいっっ!!!

「アハハ!」海面にプハッと顔を出すと、思わず笑いが漏れてしまった。

彼女に聞こえただろうか、(ダサ、一人で笑ってる、キモ)とか思われただろうか?・・・等とちょっと自意識過剰になってみる。良いさ、笑い声を聞いてそのうち羨ましくなったら、彼女も渋々爪先だけでも海に浸けてみようかと、出て来てくれるかも知れない・・・

 僕は立ち泳ぎしながらコテージの窓を見て、そう思った。

(今は僕自身が楽しむことが何より一番だ!)

・海の底へハイタッチ!海面の波の模様が光の網となって海底に映し出され揺れている。永遠の万華鏡のよう。瞬きする間に模様は変わり続ける・・・

・息の続く限り海底散歩の宝探し!何か岩陰に光っている・・・何だろう・・・少し深くて息が続かない・・・よぉし、一旦息継ぎしてから今度こそ光る物の正体を見に行くぞ・・・豪華客船の貴婦人が海に落として隠した宝石かも知れない・・・彼女にプレゼントしたら流石に機嫌も直るかな・・・?

・足に何かが絡みついてきた!!巨大タコか!?焦って振り返れば、流れてきたワカメだ。ブンブン脚を振って振り払う。クッソォォ、驚かせやがってェ!泳いで追いかけていき、こいつめ!と掴んでみる。ブニュウ!グニャァ!キモォ!オエェ、負けましたごめんなさい、ポイッ。・・・

海面に顔を出してみる。キョロキョロ。目印のコテージを探す。あった、けっこう離れちゃったな・・・どれくらい遊んだろう、もう一時間くらい経ったかな・・・

コテージの窓の中をジッと見詰める。彼女、一人で泣いてなんか居ないよなぁ・・・

ポロポロ涙を落とす姿が目に浮かぶ。

(・・・よし。海賊の財宝ネックレスでも手に入れてイッチョ彼女のご機嫌伺いに戻ってやりますかぁ!)

僕は海面と海底を何往復もし、彼女の気に入りそうなキラキラ光ってる物を拾い集める。しかし、あの輝いていた宝石がどれだったのかはもう分からない。どれもこれも、海の底では光を放って見えるのに、海面から外に出し冷静客観的な目で眺めるとパッとしないガラクタばかりなのだ。角の取れたガラス片、貝殻、砂利、何かの骨?・・・こんな物で僕のお姫様が機嫌を直してくれるだろうか?・・・

でも、仕方ない・・・許して貰うほか無い・・・

息を止め、腹這いに海に漂い、もう一度、海底を眺めてみる。ここから見ればこんなにも綺麗なんだけどなぁ・・・嗚呼、あの子にも見せてあげたい・・・隣に来て一緒に見て欲しいなぁ、この美しさ・・・!

「おーい!」ハッと耳をそばだてる。

「おーい!」彼女が窓から身を乗り出し、僕に向かって叫ぶ声が、聞こえた気がした。

「はーい!」僕は立ち泳ぎに戻り、嬉しさ余って肺いっぱいの声で返事する。

「ここだよぉぉぉ!」水を跳ね散らし、大きく手を振る。

「死んでないでしょうね?!」

しまった!死んだふりして驚かしてやれば良かったかなぁ、いや、屈強なライフガード達を呼ばれても困るか。

「生きてるよぉぉぉ!」僕はコテージに向かってグイグイ泳ぐ。

「浅瀬へ戻って来て!もうすぐ潮の流れが早くなってくるよ!」

彼女は僕が泳いで戻って来るのを窓から首を出して見ていた。彼女の窓の真下辺りまで来る。確かに、真っ直ぐ立ち上がると、さっきまでは僕の腰の辺りまでしか来なかった波が臍まで届く。

「気持ちいいよ!」僕は髪の毛の1本も濡らさずサラサラ潮風に靡かせている涼しい顔の凪ちゃんを見上げる。

「そこからでも飛び込んでおいでよ!大丈夫!砂は柔らかいし、まだ足も付くし、僕も付いてるから!」

海面をピシャピシャ叩いて見せる。

「生理なの」真っ赤な大嘘。彼女の周期なら僕、知ってるんだが。先週終わったとこでしょうに。

「私はここから見てる。楽しそうな清藤君見てるだけで私も結構楽しいよ。気が済むまで浅瀬で遊んだら?でも、もう沖へは行かないで・・・」

「僕ももういいや・・・もう十分・・・」

遠い海を見やるときの彼女の目の奥には、どこか切なそうな苦しそうな色が浮かぶ。本当は海に足先ぐらい浸けてみたいけれどそれも叶わないほどのトラウマでも抱えてるのかも知れない。心の奥深くに。まだ僕にも打ち明けきれない深い重い暗い秘密が・・・

それに、こちらも、一人で散々やりたいだけやって遊び疲れると、やっぱり彼女が居なくては一人では楽しむにも限度が早いと悟った。もう彼女の居ない海には早々に飽きてしまった。

「やっぱり君の隣に居るのが一番だ。落ち着くよ。」彼女の隣のソファに座りながら、僕は本音で謝った。

「・・・なんか、ごめんね。キミが楽しめないんなら来た意味無かったなぁ。海なんかへ、無理矢理連れて来ちゃってごめん・・・」

優しい彼女はすぐ機嫌を直そう、むしろ僕を慰めようとし始める。首を傾げ、

「見て!ここの大きなスクリーン!ほら視聴できる映画がこんなにもいっぱい!それに本も、読みたかったの二冊も分厚いの持ってきたの!この時期、もしかして、嵐が来るかも知れないと思って。実際、本当に嵐が来て閉じ込められることも珍しくないのかも知れない。あなたが泳いでる間に、ちょっと部屋の中を探検して回って、台所の戸棚も開けてみたの。凄い量の缶詰が備蓄されてた・・・」

「どれでも勝手に食べて良いって言ってたよ、ここを貸してくれた友達が。むしろ、今年の夏はここに来られないから、できるだけいっぱい食べてくれって。」

僕も台所を確認しに行ってみた。さすがムカつく金持ちの息子だ。鼻持ちならない。これからも仲良くしとこう。


一度海から上がってからはずっと彼女のそばに付きっきりでいたお陰か、サンセットの時間帯にはすっかり凪さんの機嫌は良くなって、せっかくだから缶詰ばかり食べてないで夕食くらいロマンチックな海沿いのバーにでも行ってみよう、・・・それから明日は砂浜を歩いて・・・並んででも食べたい有名なアイスクリーム屋さんもどこかこの近くにあるらしいよ、等と、楽しい計画も立て始めていた。

「行列の出来る話題のお店って、必ずしも味が美味しいわけじゃないよね?」

と彼女。

「並んでるとこへ並びたくなる習性があるらしいよ。人には」

「私にはないけどなぁ」

「僕にもない。」

彼女は笑って、

「昔、明石が地元の男の子とデートしてて、行列の出来てる明石焼きのお店の前を通りかかったの。そしたら彼が鼻で笑っちゃいそうになりながら、教えてくれたの。

『ここは地元の人間は絶対食べない。全然美味しくなくって、その上、高いんだ。並んでるのは観光客ばかりだよ。うちの家族はこの行列を見るといつも哀れになってしまう。もっと美味しくて安い店が他に幾つもあって、全然並ばずに食べられるのに』って。で、私は聞いたの。

『じゃあ何で並んでるんだろう?美味しいって口コミが多いからじゃないの?』

彼、『食べる人の絶対数が多いからじゃないかなぁ?それに、口コミするのが好きで食べ歩きしてる人って自分も人の口コミを見て来て、で、そこでしか食べないで、それで旅行中の良い気分で口コミ書くんじゃない?そら、高評価するよね』

私、『なんだか、そう聞くと、教えてあげたくなっちゃうね、今、炎天下の中、汗ダラダラかいて並んでる人達に・・・』・・・」

「・・・ふうん・・・」

「だけど、それからしばらく経って、今思うとね。行列しててインスタ映えとかして有名なお店って、別に食べる側の人も味はそんなに求めてないのかもね。旅行先から帰ってきて、遠くても地元にはない、でもみんなが知ってるホラここに行って来たんだよ、私!って、ちょっと自慢するのが良いのかも知れない。知られてないお店じゃ意味ないもんね」

「ああ、それもあるかも、確かになぁ」

「じゃあ、明日はサンライズを見た後、砂浜を散歩して貝を拾って、ヤドカリを愛でて、それからここに戻って来てシャワーを浴びて、パンケーキを焼いた後、今度は清藤君が選んだ映画を見ながら食べて、それから、その無駄に長い行列の出来るアイスクリーム屋さんね・・・メモに書いておかないと忘れそう・・・」

彼女がハート型のメモ用紙に可愛い小さい文字で“明日やることの順番リスト”を書くのを見ていて、僕は注意した。

「アツアツの時間が抜けてるよ」

「アツアツって?」彼女が顔を上げずに、知らんぷりする。

「二人のラブラブの時間のことだよ」

「ラブラブって・・・?」

「今思い出させてあげようか?」

僕が手を伸ばすと、彼女は笑いながらサッと身を躱した。

「そんなのいつだってできるじゃない!」

「でもここでもしたいよ!今も我慢してる!ほら見て!」

今度は彼女が手を伸ばし、僕は逃げなかったから、一生懸命求めている僕の股間に住みついてる二人のペットの頭に彼女の手は届いた。優しく、僕のズボンの上からヨシヨシ、良い子良い子、と撫でてくれた。

「可哀想に、もうちょっとのお預けね。ごめんね、また夕ご飯の後で出ておいで。おやすみの前に、また遊ぼうね」

「可哀想だよ、ホラこんなに。もう待ちきれないって。今もちょっと遊んであげたら・・・?」

「今はダメ」

彼女はピッとリモコンのボタンを押して映画をかけてしまった。

「つい今さっきラブラブしたとこじゃない」

「シャワーを浴びる前のことだよ・・・」

「シャワーの中でもやったでしょ!もう!今は映画を観る時間です!」

二人の映画の趣味が違うので、ジャンケンで勝った方の彼女の選んだ映画をまず見て、その次に僕が選んだ方を見るという約束だった。

彼女が選んだ映画はジョーズ。ザ・ジョーズ。

「そのチョイスなんだよなぁ・・・絶対今だって海怖い人が見ちゃいけないやつなんだよなぁ!ド定番の」

「定番が良いの。はい、お口を閉じて。静かにして下さいー」


 そしてその映画を観ているときに、それは起こった。

「・・・何か・・・聞こえる・・・?」

「・・・うん・・・」僕達は顔を見合わせた。

「・・・これ、外から聞こえてる?」

「・・・だな・・・」

映画で誰かが悲鳴を上げるようなシーンでは全くない場面。どこか、潮騒の風が吹き抜ける窓の外から、悲鳴のような声が聞こえて来たのだ。それも一度や二度では無い。

映画を一時停止、二人で窓際に立つ。耳を澄ませてみると潮風が運んでくる悲鳴がよりハッキリ鮮明に聞き取れた。

アアアアアァァァ!助けてぇぇぇぇぇ!誰かぁぁぁぁぁ!アアアアァァァァァァ・・・!!

「あっちだ!子供が溺れてる!」

沖へとみるみる流される頼りない浮き輪に乗った子供。そっちを指差しながら、岸で口々に叫んでいる海水浴客達。子供に向かって泳いでいる大人も夏の陽光さんざめく波間に見え隠れしているが、何故か、救助へ向かおうとしている大人の方は波に押し返されて岸からなかなか離れていかないように見える。

「ダメだ・・・!ああ・・・!!」僕も窓の縁をギュッと握り締め、固唾を飲んだ。

しっかり捕まっていなさいよぉぉぉぉぉぉぉぉ!

母親らしき女性が泣くように叫んでいる。彼女も喉元まで海に浸かり縦横に荒波に揉まれながら。気を付けねばあの母親をも波は攫おうと狙っている。しかしまだその時には誰もが心の中で期待していた。

・・・浮き輪に捕まっていればそのうちきっと・・・誰かが呼んだ救助隊がもう今にも子供を助けに現れるだろう・・・

しかしそう思っていた矢先、みんなが見守る中、大波が子供の体を浮き輪ごと軽々と持ち上げ、飲み込み、転覆させた。あっけなく。まるで弄ぶように次の大波が浮き輪をひっくり返し、次の波で浮き輪と子供の姿を消し去った・・・

僕は声もなく凪さんを振り返った。しかし・・・彼女も姿を消していた。

ザブン!

このコテージの桟橋から人が飛び込んだ音がして、ハッとそちらを見る。

海へ延びる桟橋へのドアが開け放たれ、桟橋のその先、海面にちょうど小さめの人間が一人飛び込んだような波飛沫。

そしてさらにその向こう、一瞬頭を出した凪の後頭部が垣間見えた。波にたゆたう豊かな黒髪。次の瞬間にはもう見えなくなった。

信じられない思い。心臓が止まったかと思った。信じたくない。そんな馬鹿な・・・!

無我夢中、泳げない彼女を海から引き上げるため、桟橋を駆け抜け、まっしぐらに海に飛び込む。どこだ・・・死に物狂いになって潜り、右に左に水中を捜し回る。どこへいった・・・?!

 今、誰もが子供を救おうとして、他の人間など気にかけていない時に、僕だけは自分の彼女を救おうと必死だった。

最後に凪の頭が見えた辺りからグルグル蚊取り線香状に範囲を広げ、もっと沖の方まで潜りながら泳ぎ、引き返して来て、終いには足のつく浅瀬まで歩いたり這いつくばったりして、岩か柱か何かに頭を打ち付け気を失って浅瀬に運び戻され浮かんでいはしないか、ワンピースの裾を引っ掛け海中に囚われてはいないか、血眼で捜し回った。

どこにも彼女は見当たらない。海流がつい数時間前とは比べものにならないほど荒れている。さっきまではスイスイ思い通りの方向へ泳いでいけたのに、スイミングスクールに通った男の僕ですら本気で全力を振り絞らなくては押し流される。

波が激しく高く不規則になっていて、息継ぎもままならない。空は全くさっきのまま、のんきにカモメが浮かぶ、風景画のように何一つ表情を変えていないというのに!海の中では激動、激変が起こっている!これからますます沖へ海底へと引っ張り込む海流の力は増していくのだろうか・・・小さすぎる自分の無力さを思い知る・・・こんなの無理・・・彼女はもう死んでしまったかも知れない。遺体にも再会できないかも知れない・・・

からい涙が込み上げ、胸が苦しくなり、自分まで溺れかけながら嗚咽した。来たがってなかったこんな場所へ連れてくるんじゃなかった。何故、嫌がってる場所へ連れて来てしまったんだ!僕が死ねば良かったのに!!俺のせいだ・・・二人ともが楽しんでこそ旅行のはずじゃないか!!!!

僕は泳ぎには多少の自信があったのに、アッと言う間にヘトヘトになり、諦めかけ、波に仰向けになって漂いながら流れる涙をそのままにした。

・・・自分一人で帰って、あの子のお父さんお母さんに何て言って謝れば良い・・・?顔を合わせられない!一人では帰れない・・・嗚呼、もう、僕もこのまま・・・

「清藤君、」

波より強く温かな確かな手応えが僕の肩を掴み、意識を覚醒へと導いてくれた。目を開けると波に揺られる凪の顔が目の前にあった。

「溺れようとしてる?」

「ううん・・・キミ、泳げたの・・・?」

「まぁ・・・ね・・・やれば出来たみたい?」

「あぁぁ・・・」僕は安堵のあまり愛する彼女に抱き付いた。

「あれ見て」オレンジ色のサンセットに燃える水面の彼方、彼女が指差す方向に顔を向けると、こちらに手を振る人々が見えた。

浮き輪のあの子を抱え上げ高い高いして見せてくれるお父さん。その隣で片手は子供のお尻を支え、もう片手で目尻の涙を拭い泣き笑いしているお母さん。みんなずぶ濡れの、おじさんだかおばさんだか、その子供達だか、それとも通行人達なのか、他の人達もこちらへ手を振ったり、パチパチ拍手してくれたり。一人のお爺さんが口に手を当て、何か叫んだ。

おおおおおいいいいぃぃぃぃ、ありがとう~~~、人魚姫さまぁぁぁぁぁ!!

その後の叫びは急に変わった風向きが運び去ってしまった。

「あの子を助けたのはキミなの?」

「まぁ、そうかな」

その時、僕の脚に何か滑らかな感触の大きな物が触れ、水の中に視線を落とすと・・・

 一瞬間、彼女の臍から下にサメが食いついているように見えた。しかしもっとよくよく見ると・・・え???どうなってるんだ????

凪の顔に目を戻す。

彼女はなんとも言えぬ表情を浮かべていた。トイレに行きたいとベソを掻いていた子が急に泣き止んだ後のような、妙につっかえのとれたよう、それでいてばつの悪そうなような・・・

「キミ・・・脚が・・・脚が・・・」

「そうなの」

「人魚姫だったの?キミ・・・」

「そう。こうなっちゃったらもう隠しようがないよね~」

「えーと・・・えーと・・・どうしたらいい?僕これから?」

「もうこうなっちゃったら暗くなってからしか岸に上がれない。人目がどこにあるか分からないから」

「うん」

「先に海から上がって、暗くなる前に荷物纏めて帰っちゃっても良いよ。お別れする?」

「いや。それは無い。」

「バイバイ?」

「離れないよ。愛してる」

彼女は僕の目を覗き込み、そこに冷めない情熱を見付けたのか、しばらくしてからニコッと笑った。





 僕は4月にこの人に出会い、8月にサヨナラしてしまったわけだけれど、これから彼女を作りたいと思ってる全同胞に先に教えてあげとくよ。

・その一、旅行は、できるだけ彼女が行きたいって言ってるとこへ連れてってあげた方が良い。ジャンケンじゃなく、話し合って決めてね。(特に、まだ付き合いが浅いうちは)

彼女が「無理無理!」って言ってる場所に無理矢理連れて行ったり、

「できない、無理」と言ってることを

「いややってごらんよ、できるって絶対!面白いよ!」なんて安易に彼女の身体能力を高く考えすぎない方が良い。本当に運動神経無い子って想像を遥かに超えてくるからな・・・

・その二、これは特に注意事項!!

スキップが出来ない子は疑った方が良いぜ。その子、もしかしたらマーメイドかも知れないよ!





おしまい!(^_-)☆

・・・

・・・

・・・

・・・え??何何???付き合ってた人とは別れてしまったのかよ、って??

僕、そんなふうに言ったかな?

僕がお付き合いしてた女の子は、ヒトじゃなかったって事だよ!

それではこれが本当の


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