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ホロノス山脈_英傑

侵入用の入口は岩で偽装されていた。


乏しい灯りの中、ただの裂け目としか言えないような縦と横の穴をラウルたちは隙間を縫うように地図も見ずに突き進む。人ひとり通るのがやっとで、もしユシュエルが自力で戻れと言われても不可能なほどに入り組んでいる。


ラウルはときどき壁を触って確かめているので、なにかしらの目印のようなものがあるのだろう。しかし、ユシュエルもこっそり同じ箇所を触れてはみたものの、違いはさっぱりわからなかった。


進むうちに岩の質が変わり、やがて、厚い壁の層を通じて音が聞こえるようになる。


「もう少しだ。みんな、準備をしろ」


小声で先頭を行くラウルが告げ、後ろに身振りで次々と伝えられる。


通じた小部屋は、ちょうど洞穴の中間地点に位置する場所にあたるらしい。


ラウルたちは洞窟内の帝国施設のおおまかな見取り図も作り上げていた。それを完成させるのに何人が命を落としたことか。聞かずともラウルの顔からうかがい知ることができた。


周囲に敵の気配はなく、それでも用心のため声には出さず、手信号で仲間に指示を出していく。


ラウルはチームをふたつに分けた。そして一方を洞穴の出入り口へと向かわせる。


奥へと進むユシュエルたちが後ろから挟まれないように梅雨払いをし、退路を確保し、固守する。それが彼らの役割だ。数は決して多いとは言えないが、背後からの奇襲ならばなんとかなるだろう。


人数が欠けるであろうことも含めて、みな覚悟の上の計画だった。


角を曲がり、彼らの姿が見えなくなったのを確認してユシュエルたちも先へ進む。


灯りが等間隔に設置されており、思っていたよりも視程は悪くない。突き出た岩や、床を這い、あるいはとぐろを巻く無数の配線、何がしかの機械に足をとられないようにさえ気をつけておけば 、天然の洞穴であり岩盤が非常に硬いためにほとんど拡張もされておらず、制圧していくのにさほどの苦労を要しなかった。


ほどなくして開けた場所へとユシュエルたちは到着した。情報が正しければ目的の場所はまだ先のはずだ。


その場所は、たしかに戦うのに適していた。がらんとした空間で、高さ、奥行きともにじゅうにぶんに広く、舞踏場のような開けた中央にて待ち受けるように座していた男がゆっくりと立ち上がる。


「待ちかねたぞ、ユシュエル」


言うまでもない。帝国の英傑、ジュリウスだ。


どうする、と問うラウルの表情にユシュエルはただ首を振る。手を出そうとすれば最後、ラウルたちは無事ではいられないはずだ。目で意志を交わし、了解の頷きを見せたラウルたちがユシュエルから距離をとっていく。


それを最後まで見届ける暇もなく、槍斧による突撃がジュリウスから繰り出される。


かわし、続いて振り下ろされた刃をユシュエルは抜いた剣で受け止めた。


重い衝撃が剣を通して伝わり、びりびりと震えて腕に蓄積していく。相変わらずの力だ。かろうじて受け止められても長くはもたせられず、当然押し戻すことなどできそうもない。


剣を傾がせ流した斧の刃が、すぐさま向きを変えてふたたび襲いかかってくる。


突きをはじき、あるいははらい、水平に襲う斧を頭をしずめてかわし、そのあとに続く身体を狙って繰り出された鋭い一撃を見切る。


側頭部をかすめて通り過ぎ、引き戻されると同時に間髪を入れず叩き出される刺突は身をよじって回避した。


「どうした! 防戦一方では面白みがないぞ!!」


ここで全員を食い止めろと指示されていたであろうに、引きつける必要もなく、ジュリウスは先へと遠ざかっていくラウルたちには目もくれず、ユシュエルだけに攻撃を加えてくる。


ジュリウスの肩越しに、ラウルたちに続いて黎明の姿が、一瞬だけ振り返ったあと通路の先へと消えていくのが見えた。


これで本当にジュリウスとユシュエルのふたりになった。ユシュエルは今、帝国一の強さを誇る男と対峙しており、誰の助けも入らない。


だとしても、とユシュエルは音に出さず口にし、冷静に攻撃をさばくと、すぐさまジュリウスといったん距離をとった。


ユシュエルは、ラウルのように相手の心の動静を分析して行動の予測をすることはできない。また黎明のようにいくつものパターンを準備して、臨機応変に手段を講じていくのも不可能だった。


しかし、ユシュエルにはスピードがあった。速さについていける目があった。なおかつジュリウスの戦い方は一度経験している。足の運び、手の位置、角度、視線、それで次の攻撃が理解できる。


さらにここは高地だ。身体の大きな者ほど、酸素の要求量が多い。血で体中にいきわたらせなければならない。動けばなおのこと。どれほど鍛えていたとしても、どうしても平地よりは動きは鈍る。


対してユシュエルは呼吸器なども含めた基本的な身体機能が同期のおかげで上昇している。平地とほとんど変わらずに動ける。


少なくとも一方的に偏った天秤を引き戻すことはできたはず。


ユシュエルは引き結んだ唇の端から深く息を吐き出し、心を鎮めるようにとめた。覚悟はとうにできている。


あとは、おれがどう戦うかだ。


弧を描くように走りだすユシュエルを、ジュリウスが目で追っているのが分かる。


可能ならば左を狙いたいが、それはあちらも重々承知だろう。拘泥して手痛い反撃を食らうくらいなら、機を狙い正面から最善手を打つ方がいい。


とうとつに身体をひるがえし、ユシュエルはジュリウスの長い間合いの中に踏み込んだ。


ユシュエルをとらえようと槍が向かってくる。それを押しやるように体をひねって叩き込んだ斬撃がかわされる。


もとより口開けの一撃がかわされるのは承知の上。


空を切ったいきおいを利用してさらに身を反転し再び剣を振るうが、その動きを最初から予測していたかのようにそれも受け止められ、はじかれた。ジュリウスもユシュエルの動きは学習しているのだ。


剣と槍斧が交差して跳ね返る。


金属がこすれ、ぶつかり合う甲高い音が次々と窟内に反響しては消えていく。


無意識に耳が生き残るための情報を拾い上げ、取捨していた。


槍が空気を裂く音、 靴底が地を擦る足運びの音 、岩を伝わって響く機械の振動音、自分の息遣い。


囲われた場所のため、普段よりも音が良く届く。


それらのなかに、かすかに耳鳴りのような異音が混じっているのにふとユシュエルは気がついた。


なんの音かと耳でたどり目で方向を探れば、ジュリウスから聞こえてきている。それも心臓のあたりから。以前戦ったときにもは気がつかなかった音だ。あの時はそこまで気にする余裕がなかったからかもしれないが。


すぐさま臓器も一部機械化しているとの噂を思い出し納得しかけるが、何かがユシュエルの中でひっかかりをおぼえる。


それにしては、音がおかしいのだ。心臓とは異なる、独自の音を刻んでいる。それだけが全く別の、独立した機械みたいに。


いったん気がついてしまえば、耳障りな音が妙に気にかかる。


膨大な部品からなる黎明ですら無音で駆動できるというのに、一国の皇子がなぜこうも安い音を鳴らしているのか。


考えに気をとられた一瞬の隙をついて、ジュリウスが斬り込んでくる。


斬り結び、互いの距離が近づいた。


「気をやるほどの余裕があるとはな。それとも、今になって怖気づいたか? 玩具を呼び戻したらどうだ? 俺はかまわん。まとめて叩き潰してやろう」


揶揄する口調に、ユシュエルとジュリウスの視線が交差する。相手を見下した、高慢な笑みがそこにはあった。


癪に障る言い方でも、ジュリウスの言うことはもっともだ。ホロノスに来れば全てに答えが出るはずだったのに、疑問ばかりがこうも積みあがるのは気に入らないが、今、ユシュエルに他のことを考えていられる余裕はない。


思考の手綱を締めるように剣を握る手に力を込めた。


「……黎明だ」


ユシュエルは剣越しに相手をしかと見据える。


「なに?」


「玩具と言うな。黎明という名がある」


ユシュエルの言葉をジュリウスは鼻先で笑い飛ばす。少しもおかしさを伝えるものではなく、むしろそこから滴っていたのは蔑みだった。


「機械を信用するな。呑み込まれるぞ」


「どういう意味だ」


しかし、それ以上答えるつもりはないらしい。


ジュリウスはせり合う槍を反転させ、力のままに下から斬り上げるようにしてユシュエルの身体ごと弾き飛ばすと、構えを変える。


「玩具が必要ないというのなら、お前の存在を俺に証明してみせろ。そうすれば、生きてここから出られるかもしれんぞ」


来る。ユシュエルはすぐさま身構え、備える。


ジュリウスの渾身の攻撃は重いために予備動作が必ず必要になる。さらに、躱されたときの調整が容易ではなく、瞬時に違う攻撃に転じることができない。直後に大きな隙ができる。


時がきた。今まさにその機がきた。


上半身をかがめ剣を低く持ち、相対するユシュエルも全身で応戦態勢に入る。


ジュリウスの片腕が弓引くように後ろに引かれ、もう片方は槍に添えるようにあてられる。構えが半身に近くなり、じり、とごくわずかに足先が動いた次の瞬間、放たれた矢の如くジュリウスが飛びだす。


ユシュエルも、最大に鳴り響く己の警戒信号を無視し、ジュリウスに合わせて飛び出した。


空気を裂き破る弾丸めいた風切り音が、ユシュエルを刺し貫こうと迫ってくる。槍が発するその音だけで強烈な一撃だと分かる。


目を逸らすな。意識が血にのって指の先までいきわたっていくのを感じた、あのときの感覚を思い出せ。


ユシュエルは怯むことなく、深く足を踏み出していった。


全てが決するまで、あと数秒。


昨日の震えが嘘のように心は凪いでいた。


ユシュエルはいつも世界をありのままに受け止める。すべての物事を割り切って捉えている。希望もない。期待しないから失望もしない。求めないから応えがなくとも気にならない。だから、裏切りもない。それは自身に対しても同じことだった。


言い換えれば、ユシュエルは自分を含めたすべてを信用も信頼もしていなかった。


だが、黎明はユシュエルを信じていると言った。


人よりも、人に造られた人形のほうが人間の可能性を信じているというのも皮肉なものだ、とユシュエルは思った。


――しかし、ユシュエルにはそれで十分だった。


踏み込んだ足を支点にして空中で身をひねらせ、一撃目をかわす。遅れてごうごうとすぐ脇を風が抜けていくのを全身で感じ取りながら、直後の戦斧による叩きつけは旋転してしのぐ。


同時に地面を蹴り、地を払うような薙ぎ払いをさらに避ける。ジュリウスの重い斧刃が硬い岩盤の表面を削り、土煙をあげていく。二撃、三撃。動きの先を読み、火花を散らしながらユシュエルも迷うことなく剣を滑らせる。圧倒的な力を受け、逃がし、見極め、ぎりぎりで襲い来る連撃をかわしていく。


この世で、重さは力であった。しかし、速さもまた力であった。


そして世界にはこういう言葉もあった。


“信じることも力である”


今、黎明の心臓がユシュエルの中で鼓動していた。ユシュエルには確かにその音が聞こえていた。


忘れるな――前へ、一歩前へ。


ジュリウスが何かを感じて身を引く。だが、


「――遅い!!」


踏み込んだ勢いのままにユシュエルは剣を振り下ろした。


一閃。狙いあやまたず、切っ先が英傑の肌に大きな血の筋を刻み、衣服の切れ端が舞う。骨まで達するほど深くはないが、確かな手ごたえがあった。


ジュリウスが数歩よろめき、纏う衣の裂けた隙間から金属がのぞく。着込みではない。噂の通り、機械の半身だった。人工皮膚どころか外殻で覆ってすらおらず、皮をはがれた真っ赤な肉のように剥き出しであった。


動揺に、追撃を重ねようとしたユシュエルの足が思わず止まる。


一方のジュリウスはまじろぎもせず、己が斬られ機械の身をさらけ出したこともユシュエルが固まってしまったことも気にしていない様子で胸に手をやり、指先が赤く濡れたのを確認すると、戦いの最中だというのに突然喉を鳴らすように低く笑いだした。


それはすぐにタガが外れたような、一種異様とも言える歓喜の声へと変わっていく。満足感と嘲笑と、ユシュエルが読み取れない暗い病的な何かを孕んで。


この広い場所を満たし、天井に突きささるほどの哄笑に、目の前の男は壊れてしまったのではないかと、疑ったほどだった。


やがて長く尾をひく陶然とした笑いは消えうせ、充足の深いため息へと収束する。渾身の攻撃がかわされ、それどころか反撃にあったというのにジュリウスの口元は依然ほころんだままであった。


目を閉じ、余韻を味わうかのように天を仰いでいたかと思うと、ゆっくりと目を細ませ、ユシュエルに視線を合わせた。


「……今日はここまでにしておこう。このような穴倉では、俺と貴様の舞台に相応しくはない」


前回とおなじく槍斧をおろし、用は済んだとでも言うように踵を返す。相変わらず何の説明もなく、ただユシュエルに背を向け通路へと向かう。途中、ふと思いだしたように足をとめジュリウスは肩越しに振り返った。


「ひとつ、貴様にいいことを教えてやろう」


尊大な物言いではあったものの、声と目にはあきらかな変化が見て取れた。ユシュエルを歓迎し、そこには今やかすかにいたわりの響きすらにじんでいた。


「帝国がもつ巨人は、これで最後だ。他にもいくつかあったが、扱いが難しく途中で手違いがあってな。すべて廃棄となった」


「なぜ、それをおれに?」


「俺としても、巨人は邪魔だ。……機械なんぞ、すべてこの世から消え失せてしまえばいい」


最後に一瞬だけ口元をゆがませ、吐き捨てる。そこに含まれていたのは間違いなく怒りであり、嫌悪であった。


ユシュエルたちがやってきた方向に去っていくジュリウスを、ユシュエルは見つめる。


あの男はとにかく人形を――機械を嫌っている。もしかしたら、自分の今の実力は古代技術で底上げされているからだと、どこかで分かっているからかもしれない。


ラウルはそう言っていたが、ユシュエルには違うように思えた。


剣を交えた者同士の精神の交流、とでも言うべきだろうか。


剣によって生きる者は剣によって斃れるべきだと堅く信じている、そんな目だった。ジュリウスは戦場で死ぬことを渇望しているように感じられたのだ。


あのひきつるような笑いは、ユシュエルの強さを心から喜んでいた。そこに宿る機械への憎悪も本物だった。


先ほどの異音、そしてジュリウスの言葉。


生きられるならと望んで機械の身体にしたはずだ。それなのに人形を憎むのは、筋違いもいいところだと思っていた。


――もし、機械の身体を本当に当人が望んでいたらの話だが。


戦うことしか彼に残されていないのだとしたら。


ジュリウスの後ろ姿に、ユシュエルは帝国のいびつな闇と英傑の陰を見た気がした。


「帝国……噂もあながち間違いではないということか」


さりとて、今ここで帝国と英傑の関係について憶測を重ねていてもどうにもならない。まずは、やるべきことをやらなくては。


ユシュエルは頭を振って考えを追い払い、入口へと通ずるジュリウスが去っていった通路をあらためて見つめた。


出入り口を見張っている島の人間も、さすがに英傑に手を出すほど愚かではないだろう。ラウルから指示もそう出ているはずだ。


たとえ戦闘のさなかであったとしても、何もせずに去っていく皇子を見れば、帝国側の心もくじかれる。


これで完全に後方の憂いは消えた。ユシュエルは向き直り、反対側の、奥に続く通路へと足を踏み出す。


「あとは巨人だけだ」






黎明が正しい道にしるしをつけてくれていたおかげで、ユシュエルは迷うことなくラウルらを追うことができた。たとえしるしがなくとも、床に散らばったたくさんの空薬莢と横たわる帝国兵の遺体が道しるべとなってくれただろうが。


途方もない数の銃弾が行きかったことが確かめずとも分かる。おそらく弾倉1本分を撃ち尽くすのに数秒とかからなかったことだろう。


崩落の恐れがあるため両陣営とも重火器は使えない。となれば、弾幕の中でも黎明にとって恐れるものは少なく、切り開くのは容易かったはず。


進むほどに増えていく遺体の多くは心臓を貫かれ、綺麗に一撃で殺されていた。ほとんど苦しまなかったはずだ。砕かれた帝国側の人形もところどころに交ざっていた。


数名、残念ながら見知った男たちが息絶え、横たわっているのも分かったが、それでも想定していたよりは少ない。黎明が活躍していなければこの数は倍以上になっていただろう。すでに弾着の音は聞こえてこない。


黎明の強さは知っていたから負けるとは露ほども思っていなかったが、それでもユシュエルは確信を得て、先へと進む足を急いだ。


やがて、視界がとうとつに開ける。


そこは、さきほどジュリウスと戦った場所よりもさらに数段広く、高さもあった。この窟の主室と言って間違いないだろう。奥の壁際にはたくさんの仰々しい機械や配線が並び、辺りには硝煙のにおいがまだかすかに残ってもいた。


巨人はその場所にあった。


以前目にしたものとは異なる、完全な形をなしたままの人形がまるで磔刑たっけいのように壁に貼り付けられている。


巨人の足元には何かを調べているらしい黎明の後ろ姿も見えた。ここから見る限り、動きに問題はなく、故障している様子もない。その姿に、ユシュエルは心の底から安堵した。


またユシュエルが通ってきたのとは別の方向の横穴には、制圧し終えた島の男たちが入れ替わり立ち代わり、足を踏み入れている。共通しているのは、決意を込めて入っていき、出てくるときにはたいてその顔が悲しみや苦痛に歪んでいることだった。泣いている者もいた。


その男たちを慰めるように肩に手を置いてなにか囁いていたラウルが、顔を上げこちらに気づいた。ユシュエルだと分かると笑みを浮かべ、駆け寄ってくる。


「ユシュエル、無事でよかった!! ジュリウスはどうした!?」


「笑って帰っていった」


「は? それはいったい……?」


「それより、どういうことだ」


詳細を尋ねようとするラウルを遮り、巨人を見上げる。


ユシュエルは、帝国が巨人を島に運び込んだものと思っていた。この戦争に勝利するために。峡谷にしろ、ここにしろ、地中にあったのは電磁嵐からの干渉を避けるためだと。


だが、目の前の光景はどう見ても、発掘現場だった。巨人の左右には、囲うように梯子が伸び、それを横切るかたちに歩行用の板が渡され組まれていたであろう足場の名残があった。


今まで思いもしなかった考えがユシュエルの頭の中に浮かび上がってきた。


ユシュエルはラウルに視線を戻し、尋ねた。


「巨人は、この島に元々あったものなのか?」


その指摘にラウルは静かに頷いて肯定の意を示す。


「……そうだ。農業と漁業だけでは先が見えてる。俺たちは新たな資源を求めて採掘していた。ミリチウムかペリシチニウム鋼が出てきたら御の字くらいの軽い考えでな。……そうしたら、掘り当てたのさ、あの巨人たちを。最初は誰もがあれが何なのか分からなかった。だが、調べていくうちに巨人がどうやら古代技術の遺産らしいと分かった。大陸だけじゃなく、この島にも埋まっていたんだ」


言いながらおざなりな一瞥を巨人にむけたあと、


「みんな大喜びだ。古代技術と言えば、帝国と共和国の独占市場。そこに食い込めるんだからな。だが、ほどなくしてあの爆破事件が起こった。犯人なんて嘘っぱちだ。あれはただ、巨人を手に入れるための帝国の自作自演にすぎない。さすがに露骨な占領は躊躇われたんだろう。信じられるか? ただこの島に乗り込む切っ掛けのためだけに、自国の人間すら犠牲にしたんだ。そして共和国もまた、巨人の情報を掴み、手に入れようと乗り込んできた」


「それが、あんたたちの言う真実か?」


そういう台詞はもう何百遍と聞かされてきて聞き飽きたとでも言うように、ユシュエルの言葉にラウルは薄く笑った。


「“俺たちの”じゃない、ただの事実さ」

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