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胸熱ですね!

 日下部みのりは、あのイレギュラーな討伐戦後に姿を消した。俺がその原因と推察しているのは、特務戦隊のホストコンピューターへの不正アクセスだ。彼女はそれによって、何か重大な秘密を知ったのではないだろうか。


 あの凄腕ハッカーの日下部みのりですら、バレなければおかしいと言っていた不正アクセス。結果的にそれを依頼した形になった俺にも、いよいよ危機が迫っている。今、この瞬間に!


「……はあ。やれやれ」


 どう答えたものか判断が出来ず黙っていると、山南陸将補が頭を振った。どうも俺に呆れたとかいう感じじゃないな? 何か、諦めた? 


「良いか? 今から話す事は、幕僚幹部級しか知らん極秘事項だ。そこを肝に銘じておけ」


 そして、山南陸将補は、いまだ目覚めない金髪の少年に、ちらりと視線を向けた。


「えっ? は、はっ」


 ええ? なんだなんだ? 俺、何を話されるんだ? え、ちょっと、まだ、心の準備が!


「実は、我々情報科も、日下部みのりを探している」

「えっ? えっ? ええっ!?」


 ほらあ、心の準備がいるやつやん! そんなん言われても、びっくりするしかないやつやん!


「悪いが、特務戦隊の管理官は、全員、見張りがついている。その任務を遂行しているのは、もちろん私の手勢だが」

「な! な、なぜ、そのような!」


 なんやてー! 見張りって、どこまで見られてんのお! 夜、一人で寂しさを慰めてるとこまで見られてんのお、もしかしてえ! こんな事、聞けないけどお!


「ああ、プライベートまでは監視していない。その点は安心してもらっていい」

「あ。そ、そうですか」


 山南陸将補、俺の反応で察したらしい。ふげええ、これはこれで恥ずかしいいいい。


「何故かと言われれば、それはもちろん必要があったからだ。様々な場でそれとなく耳にしていると思うが、特務戦隊は機密の塊だ、と。その機密を守るのも我々情報科の任務だが、さて、それは、どこから守る事を想定していると思うかね?」

「どこ、から? ……それは、やはり、敵……」

「では、敵とは?」

「え?」


 言われて気がついた。俺たちの敵は、超常外来生物たちだ。だが、やつらに情報戦なんて出来るのだろうか? 出来たとして、どうやって? やつらは特戦区に閉じ込められているし、電子機器だって何も持っていないはず。会話を始め、コミュニケーションを取れたという例も無い。


 じゃあ、それ以外の敵か? 他国、いや自国内ですら、特務戦隊の情報を欲しがる人間、あるいは組織がありそうだ。て、ことは。


「……例えば、他国の、エージェント……、さしずめ、米国、または、中国、など、でしょうか……? そして、それらに与する内部のスパイが、その尖兵だと思われます」


 これは、なかなか口にするのが憚られた。個人を疑うだけでも心が痛むのに、国ごとなんて相当キツい。ほら、俺って優しいからさ。


「うむ」


 山南陸将補は、鷹揚に頷いた。ほ。俺の答えに、ご満足いただけたようだ。と思ったら。


「それもある。しかし、それだけでは無い」

「は?」


 ええ? 他に何かある? そんなに敵がいっぱいいたのかよ、俺たちの特務戦隊。やだ怖い。


「いいか、心して聞け」

「ふひっ」


 山南陸将補がずいと顔を近づけたので、ついおかしな声が出た。うわあ、スケルトン尾田より顔が怖い。怖いのベクトルが違うだけでとにかく怖いぃ。


「10年前、ナパームで焼き払った樹海から、逃げ延びた超常外来生物がいたのだ」

「……はい?」


 ……え? あれ? ナパームって、あの、最初の討伐戦って呼ばれるやつだよね? あれで、実体化した超常外来生物は全部駆逐完了したから、残った巣を壁で封じて、それが今の特戦区なんだよね? 新聞でもテレビでも、ネットでだってそれに疑義を呈するような記事は見たこと無いよ? なのに?


「え、え? ええええええええええっっっ!!!」


 あまりの衝撃に、俺は叫び出していた。

 だってそうだろ! あの、ゴキブリよりもすばしっこくて、熊の何十倍もの膂力を持った超生物が、あの壁の外、街のどっかにいるんだぞ!! こんな怖ろしい話があるか!?


「やかましい!」

「あぎゃあ!」


 また頭突きされた! ごすんっていった! 目から火花出たぞコレ!


「落ち着いて聞かんか、馬鹿者が。話は、まだこれからなのだ」

「まだこれからでありますか!?」


 嘘だろ! 俺、もう帰りたい! 帰ってあったかい布団でぐっすり眠りたいんだよお! もう何も知りたくねえ! 鼓膜破って帰りてええええ!!


「今、貴様が身を持って体現したように、これが世間に公表されれば、我が国はパニックに陥るだろう。逃亡した超常外来生物どもが、どこに、何体いるのかも分からんのだ。つまり」

「こ、国民に、バレたら、もはや戦時下……、戒厳令レベルで、警戒態勢を、敷かなければならなく、なる?」


 続きを受けた俺の言葉に、山南陸将補は頷いた。


「言うまでもなく、これは我々自衛隊の大失態だ。従って、我々は、これを速やかに、かつ極秘裏に処理しなければならない」

「ご尤もであります」


 俺はおもちゃの犬張子のように首を上下に振りまくった。犬張子可愛いよね。


「それに、あのナパーム弾による広範囲爆撃作戦では、多数の尊い犠牲者が出ている。彼らの犠牲が、もし、無駄だった、などと言われるのは、私は、何としてでも! そうだ! 何としてでも、だ! どうしても、避けたいのだっ!」


 山南陸将補は、そう吠えると、机をだんと拳で叩いた。


「山南陸将補殿……」


 その姿は、俺の胸にかなりきた。日下部みのり。あいつも、そのナパーム作戦で、父親を失ったと言っていた。あれが無駄だったなんて言われたら、俺だって嫌だ。そんな事を言うやつが目の前にいたら、間違いなくぶん殴る。


「……日下部みのり曹長は、なぜ、失踪したのでありますか?」


 俺はてっきり、日下部みのりが自衛隊上層部の決定によって消されたのだと思っていた。しかし、山南陸将補の様子を見るに、どうもそれは俺の勘違いであるらしい。もう、そうとしか思えない。


「……分からん。特務戦隊のホストコンピューターにハッキングを仕掛けた後、すぐさまこの駐屯地から遁走している。それは、監視カメラの映像で確認出来た」

「タイミング的には、あのイレギュラーな討伐戦の直後、となりますが?」

「そうだ。彼女もあの討伐戦の作戦司令部に招集されたが、状況終了後、全く間を置かずに逃げている。特務戦隊ホストコンピューターに残ったハッキングの痕跡も、だいたいその時間になっている」


 なるほど。山南陸将補が、俺にこんな重大な秘密を打ち明けた理由が分かってきた。


「日下部みのりは、今、私に聞かせた事実を、ハッキングによって知ったのでありますね?」

「そうなるだろう」

「では、日下部みのり曹長の父親が、ナパームで命を落としていた事も、山南陸将補は」

「知っている。日下部ニ尉は……、いや、今は、三佐、か。彼は、私の、同期、だ」

「そう、でしたか……」


 そうか。だから、日下部みのりは、自衛隊に入れたのだ。ハッキングで自衛隊を脅して入ったと本人は思っているが、実は山南陸将補が便宜を図ったのではないだろうか? それは、山南陸将補の、精一杯の贖罪、だったのかも、知れない。


「あいつ、あのナパームで生き残った超常外来生物を、自分の手で殺したい、とか思っているのではないでしょうね……」


 そんな気がした。しかも、確信に近い。


「それは無茶で無謀な暴挙だ。しかも、国民全体を、日本全土を巻き込むかも知れない愚挙なのだ」


 山南陸将補もその結論に至った。だから、俺に暗号の事を聞いたのだろう。山南陸将補は、軍人としての、その立場からだけでなく、友として、友の子を守る為にも、俺に事実を打ち明けてくれたのだ。なんという胸熱。


 これに応えないなんて、男じゃないぜ!





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