美少年ですね!
「大変だ! サメに飲み込まれた人がいるぞ!」
それはあまりにも唐突だった。誰か外で意味不明な事を喚いているが、ここ山梨県なんだよね。海すら無いのに、どうやったらサメに食われるの? そういう特殊能力者なのかな? 自殺にしか使えそうにない能力だけども。
「はっ。え、サメ?」
武藤晶の刻が戻った。
「なんだよ、今、大事な話をしてんのに」
俺の硬直もなんとか解けた。必殺技も出してないのに硬直するとか、もしこれが格ゲーだったらとんだクソキャラだ。誰も使ってくれないぞ。
「うわあ、准尉、サメだって! 行こう行こう! 見に行こう!」
「あ、おい! 高嶺!」
高嶺は嬉々としてファンシー部屋から飛び出した。マッハなので俺たちにはとうてい止められるもんじゃない。
「しゃーない、行こう」
「うん。この話、途中でやめるわけにいかないもんね」
俺たちもやむ無く高嶺を追いかけた。いや無理。あいつ、窓から飛び降りてたわ。もう外の道を走ってる。強化人間て当たり前のようにショートカットしやがるな。もはや羨ましくすらある。
廊下の窓から見下ろすと、もう人だかりが出来ていた。その中心には、確かにサメらしきものが見止められる。俺たちはとりあえずそこに急行した。
「ホンマにサメに食われとるやんけ」
近くで見ると、それは間違いない事実だった。ただ、そのサメはぬいぐるみで、江吉良エリ絵が抱いていた物である。そのサメの口からは、金髪の美少年が顔だけ出していた。どうやら気絶しているようだ。
「あ。おい江吉良。これ、どうしたんだ?」
サメの横には当然江吉良エリ絵が立っていた。顔を真っ赤にした江吉良エリ絵は、俯いて震えている。どした?
「……貴様か。どうしたもこうしたも、駐屯地を彷徨いていたから捕まえたんにゃ。一般人にゃし、ほっとくわけにいかにゃいろ?」
江吉良エリ絵はむすっと膨れて不機嫌そうだ。周りの戦隊員やプロデューサーは、そんな江吉良エリ絵を見て、ひそひそと話していた。
「スパイってことか?」
「外人だよな?」
「でも、まだ子どもだろ?」
「それよりさ、不死身の江吉良なんだけど」
「すげえジャージ着てるなあ……。それに、なんか、あのサメを抱き締めて泣いてたみたいだったけど」
「捕まえる前な。俺も見た」
ははーん。不機嫌な理由はこれか。もはや晒し者みたいになってんな。誰にも見せた事の無かったプライベートなのに、いきなりフルオープンしちゃったわけだ。それでも泣かないとこ見ると、相当我慢してんだろ。こういう耐性は無いはずだし。
「はいはい、警備課には俺が報告したから、みんな解散。この外人の子が何なのかは、判明次第、共有してもらえるようならそうして欲しいって頼んどく。さあさあ、散った散った。みんな仕事に戻ってくれ」
見るに見かねたので、差し出がましいとは思ったが、俺が号令をかけてやった。誰か収めろっつーの。下っ端がこういう事やるの、ちょっと勇気がいるんだぞ。
「……ありがと」
「はいはい」
そんな俺の気持ちが伝わったのか、江吉良エリ絵は俺の袖をきゅっと摘んで少しだけ頭を下げた。さっきかなり虐めたし、まあ、これくらいはしないとな。
「それじゃ、後は宜しくにゃ!」
「あ、おい!」
そして江吉良エリ絵は高速で離脱した。お部屋に戻って他のぬいぐるみさんに慰めてもらうのかな? やだそれ見たい。
しかし、江吉良エリ絵が外に逃げたおかげで、この男の子を発見、拘束に成功しているんだから、結果オーライか。ここ官舎の裏庭だし、ちょっと目につきにくいとこだしな。
ダサジャージでサメ持ってたから人目につかないとこに逃げたらこいつがいた、ってとこだろう。で、拘束する物が無かったから、しょうがなくサメに突っ込んだわけかな。何が功を奏するか、分かんないもんだよねえ。
「あ。私、この子知ってるよ」
「うん? 高嶺の知り合いか?」
おいおい、高嶺大活躍やん。おにぎりくれたりして優しいし、暗号解読しちゃったりして賢いし。もしかして誰かが変装して成りすましてんじゃないだろうな?
「ファンの子。特務戦隊のコンサート会場には、必ずいる顔だから」
「へえ。て、お前、来てくれた人の顔なんて覚えてんの?」
「全員じゃないよ。でもこの子は特別目立つもん」
「ああ、なるほど」
金髪碧眼の美少年なら、そりゃ目立つか。ステージ上って、思ったよりみんなの顔が良く見えるし。強化人間は視力もかなりのもんだしな。
「遅くなりました、警備課です」
そこへ、警備課の隊員が2名、駆け足でやってきた。もうアーミーアイドルたちの非常識な機動力に慣れちゃってるから、なんか遅く感じるな。これでも十分早いんだけれども。
「ああ、ご苦労さん。んじゃ、よろしく。あ、サメは優しく扱って下さい。中身を引き渡したら、サメはこちらで預かります」
「了解。そいやっ!」
「おいいい!! 真っ二つになっとるやんけ!!」
そいやじゃねえよ! 最初っから破って引っ張りだす気マンマンじゃねぇか! 人の話聞いてねえだろこいつら!
「申し訳ございません! 破れてしまいましたが、どうぞお受け取り下さい! オラァッ!」
「なんで地面に叩きつけるんだよ!? 普通に渡せよ!! お前、サメになんか恨みでもあんのか!?」
「そうですね。強いて言えば、ジョーズという映画を観て、トラウマになりました」
「あれ確かに怖かったけれども! フィクションとリアルをごっちゃにすんなよ! ぬいぐるみだぞコレ!」
「ちっ、うるせえな」
「おいっ!」
ちょっとなんなんこいつら? 舌打ちまでしたんですけど!?
「とにかく、我々は急ぐので。それでは」
「こらあ! ちょ、待てよ!」
俺が止めるのも聞かず、警備隊員は男の子を抱えて駆け足で去って行った。無視かよ。俺、一応階級上なんだけど。
「よその人は、あんなもんだよ」
「高嶺?」
高嶺は引き裂かれたサメを拾い上げ、ぱっぱっと砂を払った。そして、そのサメを抱き締める高嶺の瞳には、悲しげな色が浮かんでいた。
「あはは。僕ら、この駐屯地では嫌われてるもんね。こういう嫌がらせって、割とあるんだ」
「武藤准尉」
武藤晶は苦笑いしている。なんだそれ? 割とあるで済ませられる事なのか? 俺、こういうのって許せないタチなんだが。
「あっそ。俺、ちょっと行ってくるわ」
「どこ行くの、准尉?」
高嶺が俺の腕に手を引っ張った。おい腕が抜けるだろ。手加減しろ手加減。
「江吉良んとこ。このサメ、返してやらなきゃな。それと高嶺、悪いがあの連行してったやつらの跡をつけて、行き先が分かったら俺に知らせろ。あの男の子も、一応取り調べとかすんじゃない? 俺も立ち会いたいからな」
という理由をこじつけて、やつらの仕事を邪魔してやる。ネットのクソレスバトルで培った俺の嫌がらせスキルを舐めんなよ。人の嫌がる事をすんのは得意だぜ。我ながら性格悪いなしかし。
「じゃあ、俺も行きますよ」
「え? 遠山?」
人払いして俺と高嶺と武藤晶しかいないと思っていたのに、いつの間にか遠山真也が立っていた。
「あの子、俺のファンなんです」
「そうなの?」
高嶺に確認すると、こくりと小さく頷いた。




