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サメのぬいぐるみですね!

 俺と武藤晶は、連れ立ってプロデューサールームに戻った。特務戦隊棟は、まるで工事現場にあるような、プレハブ小屋の二階建て。夏は暑く冬はクッソ寒いこのプレハブ棟、特務戦隊の予算がいかに苦しいかを、雄弁に物語っているのだ。


 訓練棟の方に予算全部ぶっこんじゃったんだろうな。あっちは時代の最先端なのに、こっちは昭和くらいまで後退しちゃってんだもん。


「あ、准尉だ。おかー」


 カンカンと鉄の外階段を上り、カラカラと引き戸を開けると、アイスをくわえた高嶺がソファに寝転んでいた。パーテーションで区切られてはいるが、外から丸見えなこのソファのある所、実は応接室である。


「おかーじゃねえ、ちゃんと最後まで言えよ。てかここ、お前んちじゃねえんだぞ」


 これから武藤晶と大事な話をするというのに、こいつを見るとどうもやる気が削がれてしまう。緊張感がねえんだよ、緊張感が。


「むっ。何よ、准尉を待っててあげたのに。ほら」

「ん? 何これ?」

「お昼。准尉、食堂にいなかったから、まだかと思って。おにぎり握って持ってきた」

「あ、そうか、忘れてた」


 俺は高嶺が差し出した皿を受け取った。皿にはパリパリの海苔が巻かれたおにぎりが3つ、乗っている。ラップかけてあるの、なんかオカンのおにぎりぽい。


「あ、ありがと」


 なんか吃る。こういうの、照れ臭いんだよな。


「どういたしまして。でもさ、お昼を忘れるなんてことあるの? どこに行ってたら忘れるの?」

「それは……」


 答えようとしてまた吃る。こいつに言ってもいいものか? 『にこにこ煮込み』の存在を。


「高嶺。一緒に来て」

「お、おい、武藤准尉?」

「え? なんで武藤さん?」


 俺が迷っていると、武藤晶が高嶺の手を取った。そして、俺たちのデスクへと連れてゆく。


 プレハブ2階は俺たちのデスクがずらりと並ぶ、見た目普通のオフィスである。デスクは個別にパーテーションで仕切られたスペースだ。俺と武藤晶のデスクは隣同士で、一番端っこ。所謂ぺーぺーの位置にある。


 武藤晶は高嶺を自分の椅子に座らせると、がしっと両肩を掴んだ。そして、


「あのね、准尉から大切な話があるんだ。高嶺、君のこれからに関する、とても大切な話だよ。だから、ふざけずに、真面目に聞いて欲しいんだ」


 そう言って、頭を下げた。


「ええ? や、やめてよ、武藤さん。そんな風にお願いされたら、困っちゃう」


 高嶺が手をぷるぷる振った。


「准尉。僕は、当人も知るべきだと思うんだ。危険だって言うのなら、尚更。もし高嶺が何も知らないまま何かあったら、きっと恨まれるはずだから」

「武藤准尉……」


 こいつ、思った以上に真剣だ。本気と書いてマジと読む、だな。俺、そういうの苦手なんだが、そうも言ってはいられない、か。


「分かった。じゃあ、場所を変えよう。ここは人が多過ぎる」

「そうだね。ちょっとうるさいかな。あはは」


 プロデューサールームは、常に電話が鳴りっぱなしで活気に溢れた場所なのだ。わーわー叫んでいるやつもいる。て、叫んでんの山田やん。またナマハゲみたいになってるし。黙っていれば美人さんなのになあ。本当に残念なやつだよね。




「というわけだから、部屋から出てってくんない?」

「はあ!? お前、にゃにを言ってるんにゃ!?」


 誰もいない静かな場所を探した結果、俺たちは江吉良エリ絵の部屋にいた。


「仕方ないだろ。どこに盗聴器とかがあるのかも分からんし、外で話してるのも不自然で目立つし。第一寒いし」

「何を言ってるのかさっぱり分かんにゃいにゃ! 話なんかどこでも出来るにゃんか! そもそもお前、にゃんでエリ絵の部屋の鍵を持ってるにゃ!? そんで、にゃんでノックもせずに勝手に入ってくるんにゃあ!」

「鍵なんか、合鍵を作っといたに決まってるだろ? あと、いきなり開けたら着替えてたりするかもだし」

「完全に犯罪にゃ!!」


 江吉良エリ絵は混乱している。なにしろ、特務戦隊官舎の個室を充てがわれているのは、江吉良エリ絵と二瓶貴久だけだからな。どうせなら美少女の部屋に行くだろ常考。そして相変わらずのダサジャージだが、私服ってこれしか無いのかな? あと、サメのぬいぐるみ抱いてるの似合い過ぎ。分かってるなあ、こいつ。


「うわあー、デコ助かわいいー! サメ好きなの? ねえ、サメが好きなの?」

「ふぎゃああああ! ううううう、うるしゃいにゃあっ! 見るにゃ、見るにゃあああああ!!!!!」


 高嶺は江吉良エリ絵のオフ姿に萌え萌えだ。それでもデコ助呼ばわりかよ。


「うわあ、おっきいサメさんだね! それって、中に入れちゃうやつでしょ? お口から入れるんだよね? 見せて見せて!」


 武藤晶も江吉良エリ絵にやられたようだ。もう顔がだるんだるんににやけてる。この幼女、実は一尉なんですけどね。上官ですよ、知ってます?


「くきぃいいいぃ! お前もうるしゃい! 入らにゃいし見せにゃいにゃ! もー! 早く出て行くにゃああああ!!」


 江吉良エリ絵は泣き出した。まあなあ、ベッド周りはぬいぐるみだらけだし、机の上にはシルバニアファミリーのおうちとかたくさん置いてあるし、壁にはプリキュアのポスターが貼ってあるしで、完全に小学生の子ども部屋だもんなあ。こんなん見られたら、アグレッサーとしての威厳なんか完全崩壊しちゃうよね。そりゃ泣くわ。だがしかし。


「違う違う。出て行くのは、エリ絵ちゃん。ほら、お金あげるから、食堂でソフトクリーム買っといで? お釣りは貰っていいからね?」

「いらーんわっ! しょれより、きしゃまあ! エリ絵を子ども扱いしゅるなああああああ!!」

「きゃー! ぷんぷんしてるー! かわいー!」

「准尉、今のはちょっとエグいよ!」

「知ってる。でもさ、泣きながら怒ってたり困ってたりすると、なんかちょっとゾクゾクしない? もっと虐めたくなっちゃわない?」

「ドSだね、准尉!」

「うわああああん! もうやだお前らー!!!」

「あ、デコ助ー!」


 可愛さ余ってイジり過ぎたらしい。江吉良エリ絵は泣き叫びながら出て行った。音速で。あと、サメ抱いたままで。


「良し、江吉良エリ絵の排除に成功。これより状況を開始する」


 狙い通りだ。アグレッサーと言えど、所詮は幼女。部屋から出すのに腕力は要らんのだ。


「……鬼だね、准尉……」


 武藤晶が引いている。いやお前も相当だぞ。


「あー、デコ助、行っちゃったー……」


 高嶺は残念そうだ。お前もさあ、あんなに怒ってたやつ相手に、なんでそんなに態度変わるの? あれ、ほぼ殺し合いだったやん。性格がさっぱりしてるってレベルじゃねえぞ。ともかく。


「さて、じゃあ、始めようか」


 俺は江吉良エリ絵のベッドに潜り込んだ。

 うはー! いい匂いー!!

 





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