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もう男だっていいですよね!

 情報科棟を後にした俺は、特務戦隊棟のプロデューサールームを目指していた。歩いて15分くらいだが、なにしろ山の中にある駐屯地なので高低差が結構きつく、軽いハイキング感覚だ。山はすっかり紅く色づいて、なんならかなり落葉している。晴天でも、ここはすでに冬に近い場所なのだ。


「ああ、空気が澄んでる。おかげでちょっと頭がすっきりしてきた」


 尾田徹士長から得た情報、俺には正直かなり重いものだ。人が一人、消息を絶つなんて、普通に生きていたらまず遭遇しない事態だし。ヤベーよこれ、早くなんとかしないと。日下部みのりが消されたのだとしたら、その責任の半分は俺にあるって事だもん。


 そんなの推しのコンサート会場にいたって絶対忘れられないだろ。俺はこれから無心でサイリウムセイバーを振れなくなるんだ。イヤだあ、イヤだああああああ。


「イヤだ、絶対イヤだ。そんな重い十字架を背負って生きてくのなんてイヤだああああ!」


 でもなぜだかあいつなら大丈夫だという確信がある。そうじゃなかったら、こんなふざけた事を言っていられないところだ。何の根拠も無いから、ただそう思う事で精神の均衡を保とうとしているとも取れるけど。


「何がそんなにイヤなんですか、准尉?」

「え? あ、武藤准尉」


 そんな俺の肩をぽんと叩いて微笑みかけてくれたのは、音無カコのプロデューサー、武藤晶だった。なんて眩しい笑顔なんだ。天使かな?


「あ、いや、ほら、クリスマスコンサートまでもう2ヶ月切ってますし。忙しくなるなーって」


 咄嗟に嘘をつくが、まあ半分本当だしな。てか今はあんまり誰とも話したくないんだが。あ、俺が道の真ん中で悶えていたせいか。じゃあ無視出来ないよねごめんよう。


「あはは。そうですね、ファンの方たちは推しの子の新曲披露を楽しみにしているはずですもんね。曲の選定、振り付けに歌の練習、告知のタイミングとか、悩ましい問題が目白押し……確かに忙しくなりますね」


 武藤晶は俺に同調して歩き出す。さくさくと落ち葉を踏む音すら軽やかで心地良いのは、この子だからだろうか? なんとも不思議な男の娘だ。好き。


「冬の野外コンサート、しかもこんな交通の便が悪いところなのに、チケットの予約分も一瞬で完売。我々は自衛隊であってイベントプロモーターじゃないんだけど、やるからには良いものを提供したいもんな」

「同感です。うちの音無も、ちょっと人気出てきましたからね。今度のコンサートで高嶺を超えちゃうかもですよ。あはは」

「お? それは挑戦状かな? ふふん、受けて立ちますよ。て、高嶺って投げ銭は安定の最下位ですが? 昨日の会議でも思ったけど、なんで皆あんなアホをライバル視してんの?」


 これ本当に疑問だわ。いくら人気投票やら再生数やらフォロワー数がでかくても、真の人気のバロメーターって、やっぱ現金だと思うんよ。ガチ勢の本気度が、その子の本当の力だろ。じゃないと、ドルオタの立場が無い。


 その点、高嶺の人気って、所詮はライトユーザー層にしか届いていないわけだから。投げ銭ゼロなら本気で応援してくれているファンもゼロだとしか思えない。だから、俺の中での高嶺は、依然特務戦隊最底辺って評価にしかならないんだ。


「ライバル視、ですか。なぜかって、夏の終わりにやった基地感謝祭でのコンサートも、高嶺だけは無観客でしたよね」

「あれ、今でも夢に出てくるよ。まさに悪夢」

「あはははは。でしょうね」

「いやあはははって。それがライバル視の理由になるの? なるわけないと思うんだが」

「なりますよ」

「はあ?」


 いつもほわほわと微笑んでいる武藤晶の目が、一瞬鋭い光を放った。


「自衛隊特務戦隊アーミーアイドルは、当然データ収集もしています。戦闘データと同じくらい、アイドル活動のデータも重視しているんです」

「お、おう?」


 せやな。どっちも特務戦隊には重要な両輪だし。俺もそのデータには一通り目を通してはいるけれども。


「そして、SNSでの評判や、動画サイト等での反応も収集し、それらを統計学的に分析した結果、コンサートでのセンター配置、ソロの出演順も決められます。これはかなり正確で、ファンのニーズに限りなく近いんです」

「ああ、なるほど……、あ、そう、か」


 ここまで聞いて、俺はようやく得心した。そして、今までの自分の言動を顧みて猛省した。


「だから、高嶺はあのコンサートでトリでした。なのに、無観客でした。これがいかに異常なことか、准尉なら分かるでしょ? あんなの、あり得ないんです。あんなの、特務戦隊アーミーアイドルの中で、納得出来た者なんていないんです!」

「武藤准尉……」


 武藤晶は、悔しそうに拳を握り締めた。どのプロデューサーも、皆、自分の担当アイドルがNo.1だと信じているからだ。それは、アイドルたちも同じ、か。だから喜多嶋ユリは、あんなに高嶺を敵視していたのだ。そして、遠山真也にも思うところがあったんだろう。なのに、俺は。


「ねえ、准尉。お願いですから、僕らを納得させてもらえませんか?」

「えっ?」

「多分、これはプロデューサー全員が思っています。高嶺はおかしい。本当なら、あの子がNo.1なんです。でも、不自然で強力な何かが働いていて、あんな結果しか残らない。こんなの、誰も納得出来るはずがないんです。山田ニ尉だって、多分そうだと思います」

「…………」


 義援金獲得額No.1は遠山真也だから、そのプロデューサーである山田純子もNo.1なんだと豪語しているわけだもんな。でも、それが偽物のNo.1なのかも知れないとしたら? それは、憤懣やる方ないことだろう。それは俺も想像出来た。


 でも山田だからなあ。結果が全てとか言いそうでもあるけど。待てよ。しかし、武藤晶は信じられる。この憤りは本物だ。なら!


「実は、その件で相談出来る人間を探していたとこなんだ。武藤准尉。お前、高嶺が義援金を得られない謎を解明し、尚且つそれを排除したいと、そんな気概は持ってるか?」


 俺は武藤晶の細い首に腕を回して引き寄せた。そして小声で囁いた。そしたら何かとてもいい匂いがしたので、うっかり耳を舐めそうになったが、なんとか耐える。さすがの俺も、こんな小うさぎみたいな子に、そんなイタズラは出来ないのだ。武藤晶って、一応は男だし。


「えっ! それじゃ、准尉? まさか!」

「ああ。手がかりは掴んだ。だが、俺だけでは解けそうにない謎なんだ。だから、力を貸してくれないか?」


 まだお尻は借りないから、と心の中で付け加える。まだとか言ってるのダメだろ俺。いつか借りる気マンマンかよ。


「もちろんだよ!」


 武藤晶がにぱっと笑った。快諾だ。なんて気持ちのいい男だろうか。いやエロい意味じゃなく。


「ありがとう。あと、これは誰にも言わないでくれ。警告しておくが、これはかなり危険な話なのかも知れないんだ」


 我ながら狡い。こんな事を承諾した後に言うんだもんな。だからちょっと嫌われちゃうかなと思ったが。


「じゃあさ」

「ん?」


 武藤晶が頬を赤らめもじもじした。なんで? あと、なんか気安くなってない?


「これは、准尉と僕だけのヒミツだねっ」


 なんて嬉しそうに言うので、俺の性癖はぶち壊された。


 もう男だっていいじゃない!














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