スケルトンですね!
昨晩の会議は酷かった。阿鼻叫喚とはあれだろう。上からは、とりあえず処分保留とのお達しが来たので解散したが、俺たちどうなるんだろね? 俺が上なら、即解雇してるレベルの不祥事をしていると思うんだが、自衛隊って結構優しい世界なのかな?
というわけで、一応仕事は続行する。くよくよしてるより動いてた方が性に合ってるし、せっかくプロデューサーやらせてもらえてるわけだしな。
で、次のアーミーアイドルコンサートは、クリスマス。12月24日、日本有数のアトラクションパーク、富士急ハイランド野外コンサートである。
え、これ絶対寒いだろ。やれるのコレとか思ったが、そこは天下の自衛隊主催。雪が降ろうが槍が降ろうが、鍛え上げられた兵士による圧倒的な力技でどうとでもなるらしい。どうとでもするのは現場の自衛官なので、多分鍛え上げられていない俺も、何とかする羽目になるのだろう。雪かきとか。筋肉筋肉。やっぱり筋肉だな。
だが、それに向けて俺がすべき事は、当然筋トレではなく、高嶺のプロデュースだ。具体的には、高嶺への応援、とりわけ義援金を阻止していると思われる『にこにこ煮込み』対策をしなければなるまい。
「おーい、日下部」
というわけで、特務戦隊情報科の日下部みのり曹長を訪ねてみた。もう部屋のドアなんてノックせずに入っちゃう。起きていれば良し、寝ていたらなお良しだもんな。だって、タダでパンツ見られるんだぜ。無頓着系美少女って最高だな。
だが、そんな俺のウキウキテンションは、一瞬でマイナスまで突き抜けた。
「ノックくらいしてくれないか」
「え? あんた誰?」
そこにいたのは、ファンタジーRPGから抜け出してきたかのような、骨っぽい男だった。スケルトンだ。アンデッドですねこの男。
「私は情報科士長の尾田徹と申します。昨日付で、特務戦隊情報科に配属となりました。以後、よろしく」
「おだ、とおる? あ、俺は」
「准尉の事は聞き及んでおりますので、自己紹介は結構です」
「あ、そう? え、昨日付? 前任者は? 日下部みのり曹長はどうしたんだ?」
「それは私の知るところではありません」
「そうなの? へー……」
えー? あいつ、『にこにこ煮込み』はどうにも出来ないってとこまでしか話をしてくれてなかったのに。こっからが一番大事だったのに。どうすんだよコレ? てかどうして急に配置転換? ダメだ、頭が混乱している。落ち着け、俺。
「しかし、知るところじゃないって事は、引き継ぎもしていないのか?」
なんかこいつ取り付く島も無い感じだけど、とにかくなんか手がかりの一つでも手に入れないと。部屋の中も全然様子が変わってる。いかにもハッカーっぽいモニターだらけの部屋だったのに、今はデスクトップ一丁かよ。そのモニターに表示されてんのは普通にExcel。もうこれ味気ない事務室じゃんか。
「そうですね。私がここに来た時は、もう何も無い状態でしたので。ここはただの空き部屋でした」
「嘘だろ。特務戦隊情報科って、引き継ぎの一つも無くて平気なのか?」
「平気ではありません。私は何も分かりませんので。特務戦隊は最高機密の塊のような兵種ですし、かなり困っているところです。こんな事は、今までにありませんでした」
「だよな……」
これで俺はハッキリと確信した。これは、上から俺へのメッセージだ!
「……なるほど、全て忘れろ、か」
「准尉?」
しかし俺は現状維持で、馬渕司令からも特に何の指示も無い。俺がまだ何も聞いていなかったからだろう。日下部が俺に何かを伝える前だったから、こうしてまだのほほんとしていられるわけだ。それはどうやって日下部から聞き出したのか? 思わず嫌な想像をして、俺は慌てて頭を振った。
「……情報科では、実は稀にある事なのですが」
「ん? ひいっ」
スケルトン尾田が、おもむろに声を落とした。そして顔を近づけて来たので、つい悲鳴が出てしまった。お前の顔怖い。
「ひいって」
「すすすすまん。ちょっとビビった。それより、稀にある? 何の話?」
「それよりで終わりですか? 悲鳴を上げられるなんて、かなり傷つくんですが」
「ま、まあまあ。だからごめんて」
ちっちゃい事は気にすんな。スケルトンが理想のタイプって子もいるさ。なにしろ世界は広いんだからな。などと心の中で尾田徹を慰めつつ冷静さを取り戻す。そして冷静になったらスケルトン好きの子って猟奇的だよなーって思い直した。もし出会ったら皮を剥がれそうだよね。会わない方がいいかも。
「情報科の話ですよ。職務上、知らない方がいい事を知ってしまった同僚もおりまして、それが判明すると」
「は、判明すると?」
こいつ、普通に話してても怪談みたいになるのに、そんな事言われたらもっと怖いんですけど。顔だけでも怖いし、ホントに生きてる?
「消息不明に、なるんです」
「消息不明に、なるんですか」
怖ーっ!! 怖いわ!! せめてもっと明るく話せよ!! 「キャハッ☆ みんな、消息が不明になっちゃうんだぞっ☆」とか言えねえのかよ!! これはこれで怖いけども!!
「そこで、ですね。情報科に属する者は、仲間内にしか分からない、メッセージの残し方、というのがありまして」
「えっ!」
それを先に言えよ。怖いの消えたし。
「それが、おそらく」
スケルトンが机から取り出したブラックライトで壁の片隅を照らした。
「これは!」
ブラックライトで照らされた壁には、
『5E:7G』
という文字が浮かび上がっていた。
「……これは?」
が、俺には意味が分からない。なので、スケルトンに縋ってみたが。
「分かりません。おそらく、特務戦隊にしか分からない暗号になっているのだと推察は出来ますが」
「特務戦隊を知らない尾田士長には分からない、か」
てことは、これは俺が解かなくちゃならない暗号なのね。いや無理だろ。俺、自慢じゃないけど推理物とかで推理が当たった事なんて一度も無いぞ。
「オワタ」
しかし、これは日下部みのりが残してくれた大切な手がかりだ。彼女の行方や安否を知る為にも、そして高嶺のクリスマスコンサートを成功させる為にも、これは何とかするしかない。
「助けてえ、ドラえもーん!」
「いやここはコナンくんじゃないですか?」
俺は助けを求める相手すら間違えるほど窮しているのだと、スケルトンに教えられるのだった。更には、
「しかしこれ、おそらくは人物を表していると思います。ダイヤルキーのナンバーでもありませんし、パスワードの類でも無さそうな文字列です。僅かな暗号で膨大な情報を伝えるには、一旦中継が必要になりますから、まずはその人物を探せってことでしょう」
と、ヒントまで与えてくれた。おお、このスケルトン、NPCだったのか! ゲーム進行の道標役! このスケルトン、いいスケルトンやったんや!
「誰がスケルトンですか!」
「あ」
声に出てた。そして怒られた。ごめんて。
「と、とにかく、それなら的はかなり絞れる! ありがとう、スケ、いや尾田士長! で、どこの部隊の記号番号なんだこれ? 早く、早く教えてくろ!」
「くろって、どこの方言ですか? いやこんな記号、どこの部隊でも無いですよ。やっぱり特務戦隊に由来するものじゃないですか?」
「え、マジで? どこの部隊も使ってない?」
「無いです。情報将校である私が言うので、間違いはありません」
「しょんなぁ」
がっくりと項垂れる俺に、
「だからと言って、特務戦隊に手当り次第、誰彼構わず聞けば、この暗号が漏れる危険が高くなります。そうなれば、日下部曹長でしたか? の、覚悟もふいになる。それは覚えておいて欲しいです」
「スケ、いや、尾田士長……」
そう語るスケルトンの顔は、完全に魔物になっていた。なるほどそんな顔になっちゃうくらいの事なんだな。本当に怖かったので、俺はこの忠告をナイフでガリガリと肝に刻んだ。
「私がこれを准尉に伝えた事で、何がどうなるのか分かりません。もしかしたら、とんでもない裏切り行為をしているのかも知れません。しかし、情報を武器にしていた仲間が、逆にその武器に殺される。その無念、他人事とは思えないのです。願わくば、これが正しい事であると思わせてもらいたい。私が准尉に期待するのは、それのみです」
「ああ。分かった。ありがとう、尾田士長」
そう言いながら壁の暗号を消す作業に入った尾田徹を尻目に、俺は部屋を後にした。
てか今、殺されるって言った? え、日下部みのり、もう生きてないってこと?




