ロリコンですね!
緊急討伐戦が終わった翌日。俺は公共テレビ局のニュース番組に呼ばれていた。てか出演していた。
「では、特定危険外来生物が想定外の動きをした為、急遽東京ドームコンサートを放棄して、現場に戻ったと、そう言う事ですね?」
スタジオのスツールに座る俺の対面には、この局の看板女子アナがいて、こちらを射抜くように見つめている。実物はテレビで観るよりやはりキレイだ。芸能人ってだいたいみんなそうだから知ってたけども。
「は、はひっ。左様であります。その節はファンの方々、及び関係各所の方々には、大変なご迷惑をおかけしてしまい、誠に、誠にぃ、ももももも、申し訳ございまひぇんでひたあ!」
要は謝罪会見だ。状況説明と謝罪。これをしなければ、誰も納得してくれはしないのだ。でもコレ、なんで俺がやんなきゃなんねぇんだよお! 悪いのはどう考えても戦車隊なのにぃ!
「なるほど。では、ここで街の声を聞いて下さい。ぶふっ」
「へ? は、はひ」
女子アナは俺の誠心誠意渾身の謝罪を受けて、顔を逸した。そしてVTRに行こうとしている。おい笑ってるよなお前? テンパってる俺が、そんなにオモロイんかコラ?
『あー、そうですね、アーミーアイドルたちのパフォーマンスを楽しみにしていたので、ちょっと残念ではありました』
『でも、あの危ないのをやっつけに行ったんでしょ? それなら、しょうがないかなって』
お? 俺のスツールの前にある、シャレオツなテーブルに置かれているモニターには、街頭インタビューの映像が流れている。これ、お茶の間の皆様のテレビには、俺がちっちゃいウィンドウに表示されてるパターンのやつかな?
『今回は、あれでしょ? 観測班? の、予測ミスなんじゃない? 本当なら9日後にやる予定だったって』
『あー、それ、俺もネットで見たわ。アーミーアイドルたちって、ぶっちゃけそっちが本業だもんな。こんな不測の事態でもなんとかなって良かったとか思うけど、俺は』
『誰も殉職しなかったんでしょ? 良いことだと思う』
『そもそもさ、装備品の予算が下りないからアイドルやってるわけでしょ? このシステムも意味分からないんだけど、俺はアーミーアイドルたちを支援しますよ。みんな頑張って戦ってくれてんだから、誰も死なせたくないし。だから、コンサートには絶対行くし、物販でも爆買いしてます』
おお、おおお。なんて優しいんだ、皆さん。俺はもう、罵詈雑言の嵐を覚悟していたのに。世の中捨てたもんじゃない。日本最高! ありがとう日本!
放送画面下にリアルタイムで流れる視聴者コメントも、概ね同じ論調だ。ふおおおお、これならなんとか乗り切れそう。
「以上が街の声ですが」
という女子アナの仕切りを、
「うわー、みんな嬉しいこと言ってくれてて良かったねー、准尉! 私、頑張って良かったあ! ね、ミクちゃん!」
アホの高嶺が思い切り遮った。
「あ、あははは。そ、そうですねー、高嶺三曹」
「あれ? ミクちゃん? なんでそんなによそよそしいの?」
俺の横には自衛隊の制服をきっちり着込んだ高嶺ハナも座っている。ついでにガチガチに緊張した大藪ミクもいるのだが、今回の緊急討伐戦のヒーローなので俺と一緒に呼ばれている。王子聖子は「テテテテ、テレビに出るなんて無理無理無理無理無理ぃ!」などと、ジョジョのオラオララッシュばりに拒否したので連れてきていない。いや俺だって無理なんよ。こんな俺が全国のテレビに映るとか、もはやテロだし。
「お、おい高嶺。お前、普段通り過ぎるって。もっと自衛官らしくしろ」
「はー? 私、間違いなく自衛官なんですけどお? それも、とびきり強くて可愛いんですけどもお?」
「とびきりのアホってのも追加だけどな」
「にゃにおう!」
「はわあ、ハナちゃあん、これテレビに映ってる! 映ってるからあ!」
おういいい。これ全国放送だってばよ。頼むから自衛隊の恥を晒すなよお。偉い人たちだって観てるんだぞお。多分ワタナベくんも観てるはず。そしたら俺がいつも笑ってたワタナベくんに、逆に笑われちゃうだろお。
そしてミクちゃんはまたしても巻き込まれ。もはやそんな天命を背負っているとしか思えないな可哀想。
「うふふふ。皆さん、仲良しなんですね」
女子アナの笑顔がひくひくと引き攣っている。もはやフォローは諦めた顔ですね。そらそやな。こんなんワイも諦めるでホンマ。
「あ? なんかその言い方、バカにしてる? ちょっとカッチーンきちゃうんですけど」
「おうい! お前、アホなくせにそういうとこに敏感なのやめろって! もう黙れ! じゃないとまたおっぱい揉むぞコラぁ!」
「えー! それもうやめてよ! そりゃあね、私のおっぱいが魅力的なのは分かるよ? 我ながら素晴らしい形だし、適度なボリュームだと思うしぃ? でもね、アイドルなんだし、それはダメだと思うんだぁ」
「くねくねすんな! お前、実はまんざらでもないんじゃねぇだろうな!」
「え? おっぱい揉む? また?」
「あ」
しまった! ついうっかりいつものノリで! 女子アナの的確な突っ込みに、スタジオの空気がカッチーンと凍りついた。俺、カッチーンコンボ決めちゃったよお!
「CM! CM行けえ!」
でけえカメラの向こう側に座っていた偉そうな人がなんか叫んだけど、これ公営放送だからCMなんて無いんだよなあ。うっは、すげぇテンパってるのオモロ。女子アナが俺を笑った気持ち、今分かったわ。
「まさか准尉、上官という立場を利用して、アーミーアイドルに性的搾取をしているわけではありませんよね?」
おお、さすがはプロだ。ここでキッチリ追求するとは、毎日生放送という戦場にいるだけはある。対応力がハンパない!
「ありません」
俺はキッパリと否定した。いや選択肢無いからコレ。
「それを聞いて安心しました。では、今のは日常的な冗談の範疇と理解して宜しいでしょうか?」
「当然です。ジョークとしては下品ですが、これが効果絶大でして。私も本当は言いたくないんですけどね。ははははは」
選択肢ねえから。そうじゃなかったら大変な事になるやろ。まあ実はそうじゃないんだけど、全国放送で自白とか、速攻逮捕やろがい。
「なるほど。アーミーアイドルの強さの秘訣は、日頃からのそういったフランクな関係性が基になっているのかも知れませんね。緊張状態ばかりでは、パフォーマンスを100%発揮出来ない。これはスポーツ選手にも当てはまると聞きます。准尉も、そうしたメンタルケアを念頭に置いた指導をされているわけですね」
「その通りです」
良し、これはこれで乗り切れそうだ。この女子アナ、頭の回転速くて助かったあ。めっちゃ綺麗に纏めてくれるの、マジ有能。頭がいい人ってこれがあるから強いよね。ふーやれやれ。と、安心したのも束の間だ。
高嶺は、そんな欺瞞を許さなかった。




