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特戦隊の一番長い日⑥

「話しておきたい事があるの」

「話?」


 神妙な面持ちの高嶺に、つい俺も襟を正して構えてしまう。何? こういう時、ろくな事を言われないんだよな。


「ちょっと待て。弐瓶一尉」

「少しなら平気だ。まだ待機がかかっている」

「はっ、ありがとうございます」


 いつ命令が下るかも分からない。時間はあまり無いだろう。


「長話は出来ないぞ」


 こういう空気が苦手ってのもあって、手短にするよう暗に伝えた。なんだろ怖い。


「うん、いい。私が言いたい事は、一つだけ」

「何だ?」


 俯いた高嶺が、小さな子どものように見える。まるで、お父さんに何か伝えたい時のような、ちょっともじもじして、何とか思い切る瞬間、のような。そんな高嶺が顔を上げた。


「今までありがとう、准尉。私、嬉しかったよ」

「うっ……!」


 ぱあっと花が開いたような高嶺の笑顔は、今まで俺が見てきたどんなアイドルたちよりも、凄く、とても、美しくて、そして、可愛かった。


 高嶺の今夜の装備は今までになく万端だ。最高のアーマースーツに追加装甲、ハイスラッシャーナイフに、スラスターブーツ。高嶺は嫌がったが、ゲルメタルヘルムで頭部の防護も怠りない。


 そんなごてごてな装備に固められた高嶺が、こんなにも、可愛い。だから、ドルオタの俺だから断言出来る。こいつの可愛さは、見た目じゃない。中身から溢れ出る魅力。すなわち、カリスマだ!


 なぜこいつを推す声が戦隊一多いのか? なぜ、まともにコンサートも討伐戦もやれない高嶺が、人気No.1なのか? 俺は、その謎が解けたような気がしていた。


 みんなが誰も知らない”自分だけの高嶺ハナ”を、持っているのかも知れない。そう思えた。


「あと、これ」

「あ、え? 何これ?」


 そして、俺の胸にぎゅっと押し付けられたのは、カラフルな包装紙でラッピングされた、小さな物体。ホントにナニコレ? カッターナイフの刃だけ入ってたりするのかな?


「開けても?」

「あ、うーん、あ、私が帰ってきてからにして。今は、やだ」

「お、おう? 分かった」


 海外だと問答無用で開けられるとこだが、ここは日本で俺は紳士なのでちゃんと許可を得てからだ。ふふ、良かったな高嶺。てかお前、今夜はなんでそんな可愛いん? 不意打ちやめろ。


「来た! 出撃だ! 高嶺!」

「はいっ!」

「あ」


 だが、高嶺はすぐに戦士へと立ち返り、弐瓶貴久の元へと駆けてゆく。その後ろ姿に、俺はなにか、今までに感じた事の無い気持ちを、抱いている。これは、なんと呼ぶ気持ちなのだろう? 俺は、知らない。


『今までありがとう』? これか? 『今まで』? そうか、これが俺の中で引っかかったんだ。これじゃあ、まるで、これでお別れみたいじゃねぇか!


「いよいよ、ですね」

「王子准尉」


 装甲車の向こうで、分厚い鋼鉄の扉が開いてゆく。その隙間から差し込む眩い光が、俺たちのいる夜を徐々に切り裂いてゆく。高嶺と大藪だけが、その光に飲み込まれる。そして、小さくなってゆく。


「それ、高嶺三曹から?」

「あ、ええ。なんでしょうね? カッターかな?」


 王子聖子が俺の持つ小さな包みに気がついた。


「うふふ、そんなわけないですよ。何かは分かりませんけど、きっと良いものが入っていると思います」

「そうですかね?」


 俺は基本疑り深い。し、女の子からプレゼントなんか貰った事だってない。だから、バレンタイン、クリスマス、誕生日、どれもこの世を呪うべき行事でしかない。みんな滅びろ。


「うふ。だって、ミクにも相談されてるんですから、私も」

「相談? 何の話ですか?」


 え、文脈が繋がってなくない? 今してるの、この袋の話だよ?


「そ・れ・で・す。ハナちゃんが准尉にお礼のプレゼントしたいって言ってるけど、何がいいかなって、ミクに相談されたんです。あの子たちは、そういうの、経験無いからって。ふふふふふっ」

「ええ?」


 文脈繋がってた。て、あ!


「じゃあ今日、あいつらが街に出てたのは!」

「きっと、それを買う為ですね」


 王子聖子がウインクした。おうい、プロデューサーはそんなあざといことせんでええんやで。照れるやろ。しかし。


「ふうん。あいつ、通りがかっただけって言ってたのに、じゃあ、あれは嘘ってことか」

「二人で買い物してたって言うと、何をって追求されると思ったのかも知れませんね。別に何でも適当に言えばいいのに。うふふふふ、子どもみたいですよね、うふふふふっ」


 妙な気持ちだ。また、知らない気持ちが胸一杯に広がってゆく。なんだよこれ、苦しいのか? でも、全然嫌じゃ、ない。


 いや、嬉しい。これ、喜んでいるだけだ。ただ、未だかつてなく、それが大き過ぎるから、何だか分からなくなっている。


「何で? 俺、何もしてないのに……」


 でも感謝される理由が思い当たらない。俺は何もしていない。された事ならあるけど。病院送りにされたりとか。


「私、分かります。准尉以外のプロデューサーは、みんな、分かると思います」

「俺以外は?」


 それは、と聞こうとした時、大扉が閉まる瞬間、高嶺が吼えた。


「待っててね、准尉! 私、頑張ってくるから!」


 拳を突き上げて扉の向こうに消えてゆく高嶺の後ろ姿は、微かに震えているように思えた。


「高嶺!」

「准尉!」

「下がれ准尉! 解除されていた高電圧が扉に流れる!」


 何か言い忘れた事がある。俺はそれを伝えたくて、扉に走る。だが、そんな俺は弐瓶貴久に羽交い締めにされ止められた。すぐにぶおんと低い音がして、扉が青白い光に包まれた。これに触れれば一瞬で消し炭だ。


「高嶺ーっ! 俺は、ここで待っている! だから、必ず、帰って来いっ! いいか、これは命令だーっ!!」


 らしくもなく、俺は扉に喚き散らした。こんなの、もうあいつらには届かないのに。ああ、なんてカッコ悪いんだろうなあ、俺は。もしかしたら、あれで最期だったのかも知れないのに、俺は、気の利いたこと一つ言えやしなかった。


「……待ちましょう、准尉。あの子たちなら、きっとやってくれますよ」


 王子聖子が、俺の背中に手を置いた。



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