If you want to be happy, be.
インターネットは日本という島国に限っては私の承認欲求を満足させるのには十分な場所であった。
ある程度声が良くて、ある程度喋りができれば色々な人たちがちやほやしてくれる。あまつさえ、お金までくれる人がいる。まるでそれを自分自身で嘲っているように聞こえるかもしれないけれど、私はそれでよかった。リアルは充実していなくても、ネットの中では「アイドル」でいられた。それがどれだけ幸せな事か、私は理解しているつもりだった。
私は私の事を、ネットの中だけでも応援してくれたり、好きでいてくれる人たちが大好きだった。現実は、痛くて辛くて、良い事なんてものはそうそうない。ネットにいられれば私はずっと、幸せでいられる。好きな事だけをして生きていられる。一生困らないくらいにはこの世界でお金を貯めて、その後は慎ましく生きる。そのはずだった。
ホールの照明は眩しすぎて目の前にいる群衆の顔は先頭列ですら鮮明でない。まあ、たとえ照明がなかったとしても多すぎる人の一人一人を認識する事なんてできたものじゃない。ライブチャットに流れる文字と、PN、アイコンを記憶の中で一致させるのは意外と容易いものなのに、人の顔とはこうもテンプレートにテンプレートをはっ着けたような個性のないものに仕上がるのだろう。遠目からじゃ何が何だかわかりやしない。わかる必要は――ない、のだけど。
大きすぎる歓声はもはや凶器であり、私の五感はもはや二つも潰れてしまった。ああ――頭がくらくらする。決して昨日、新作のゲームを夜中までやり込んだとか、撮り溜めたアニメを消化したとか、そういう事ではない。それならば幾分慣れたものだというのに。
ふと、視界に二つの影が落ちる。
優しく私の手を握り、鳴り響く歓声の中ですら鮮明に聞こえる玲瓏な声で、二つの声は言った。
「――情けないのね、ヨルハ。私の人形として相応しく踊りなさいよ?でなければ今夜は寝かさないわ」
「――大丈夫。ヨルハがどれだけ失敗しても私が守ってあげるから。だから一緒に頑張ろう?」
ああ――嗚呼――。
私をリアルに。虚実を現実に落とす声がする。なんだって私は、ネットのアイドルが現実に降りてきてしまったのか。出来損ないの私はこの悪魔と天使のような二人に笑顔でこう、言うしかない。
「無理そう」
――と。
はじめまして、紫雲院と申します。
AI Doleを読んでいただき、誠にありがとうございます。
連載などを始めてみて、最初に言うことではないのですけども。わたくし、筆が遅いんですよ。
話を纏めるのが遅い!(パァンッ)
お前はとにかく話を纏めるのが遅い!判断も遅い!
ということなので、もし手にとって(?)気になる、気に入る、などしてくれたかたは気長にお待ちいただけると幸いです。頑張って書くぞ!
紫雲院でした。