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「シャークアタック!」  作者: 蛙鮫
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「絶望と報復の牙」

なろう二作目となります。どうぞお楽しみください!


 ある日の昼下がり、この僕、白中目白しろなかめじろは廊下の隅でクラスメイト複数から暴行を受けていた。


 目の前にはリーダー格で金城祐一かねしろゆういちとその彼女の篠田明美しのだあけみと金城の取り巻きが二人いる。


「白中くうん。お金持っているよね。ほら上納金」


「もっ、持っていないよ。というか一週間前に渡したばかりじゃないか」


「えー固いこと言うなよ!」

 彼の重く体重の乗った右フックが僕の右ほほを貫いた。口の中に血の味を覚えながら、その場に倒れ込んだ。


「グフッ!」

 そこから暴力の嵐だ。無理やり立たされて、サンドバッグのように何度も拳を振るわれた。


 廊下を通り過ぎるクラスメイトも教師も見て見ぬ振りをしていた。


 当然だ。何しろこの金城の親は学園に莫大な融資を行なっている。故に誰も逆らえない。


 悔しいが、とても反撃する勇気も力もない。僕は今日もこうして、理不尽キワなりないリンチにあう。


 最初は普通に会話する程度だった。しかし、それがいつしか今のような事態に発展していた。


 なんでこんな事になったんだろう。僕はただ、学校の隅で静かに過ごせたらそれだけで良かったのに。


 そんな事を考えていると、目元に涙が溜まってきた


「やっ、やめようよー。幾ら何でも可愛そうだよー」

 クラスメイトの女子である篠田明美が言葉とは裏腹に口元を押さえて、笑っている。


「てかさ。お前、金持ちなのになんで、こいつから金取るの?」


「なんでって、そりゃ面白いからだろ? 俺は将来的に親父の後を継ぐんだから、今のうちに親父がやっている事の予行練習だよ」


「写真とろーぜ」

 明滅するフラッシュと僕を取り囲むように響く笑い声の中、僕は震える。侮蔑と嘲笑が過ぎ去るのを僕はただ、待っていた。



 放課後、僕は金城達に殴られた部分をさすりながら、家に向かっていた。正直、殴りっけしてやりたいが、僕にはそんな勇気はない。


 すると風に吹かれて、プリントが足に張り付いて来た。誰だよ。そのままにしたやつ。


 ため息をつきながら、足に張り付いたプリントを取った。修学旅行のパンフレットだった。そう言えば来週に修学旅行があるのを忘れていた。


 場所は沖縄。美しい海に囲まれた南の島でのんびりと過ごす。普段なら大喜びしているところだがあいにく、修学旅行という行事でなければね。


「ただいま」

 家に帰ると母さんがいた。机に突っ伏しており、肩を帰伏しながら眠っている。きっとパートを終えたのだろう。


 僕の家は母子家庭で母さんと僕の二人暮らしだ。母さんは僕のためにパートと内職を掛け持ちしている。


 僕自身もコンビニでアルバイトなどをして、家にお金を回している。ちなみに金城達にされている事に関しては母さんに伝えていない。


 日々、忙しい母さんに余計な手間と心配をかけさせたくない。自分の問題は自分でどうにかしないといけないから。


「お、目白。帰って来たんだね」


「ただいま。母さん」

「待っててね。すぐにご飯用意するから」

 そう言って母さんがゆっくりと立ち上がり、夕飯の準備を始めた。母さんとの食事だけが今のところ、僕の唯一の安らぎの時だ。


「学校はどう 楽しい?」


「まあまあかな。まあそれなりに元気でやっているよ」

 母さんに言葉を返した時、金城に暴行を受けた時の記憶が頭をよぎる。何とか母さんだけには心配をかけさせたくない。


 母とは食事はどことなく緊張感を孕んだまま、終えた。




 一週間後、待ちに待った修学旅行を迎えて僕は沖縄をいた。どこまでも続く青空と美しい海。僕は眼前の光景に魅了されていた。


「それではここからは自由行動だ。時間には戻ってくるように」

 先生の言葉を合図に生徒達が一斉に散り散りになり始めた。無理もない。この中には僕と同じで沖縄旅行が初めてだという人がいるのだ。


 僕も一人でのらりくらりと堪能していた。金城含むあの連中とまた別の方向に行っているらしいがどうにか遭遇しない事を願おう。


 何の気もなしに街から離れた森を散策していた。観光というなら街だけじゃなくこういう目立たないところにも目を向けたいものだ。


「何だ。ここ」


 静かな森を進む事を数分。目の前に小さな川があった。濁っておりそこは何も見えないが、何とも不思議な雰囲気を放っていた。


 その近くに石碑のようなものがあった。作られて相当、年月が経っているのかコケに覆われていた。掘られたようにいくつもの文字が刻まれている。


『ヒトクラウサメ。ココニネムル』

  読んでみると石碑にはそう刻まれていた。人を喰らうサメって事か。そんなおっかないやつが昔、この川にいたのか。


 僕は途端に恐ろしく感じて、その場を後にした。


 森を出た後、僕は近くにあったおみやげ屋さんで母さんへの土産物を物色していた。


 せっかくの沖縄だ。何かそれに馴染んだ物を買っていこう。悩みながら検討していると綺麗な貝殻のキーホルダーが目に映った。


「これにしよう」

 僕は手に取り、レジへと向かった。


 一人で沖縄旅行を楽しんで、母さんへのお土産も買った。これほど気分がいい日はいつぶりだろうか。


 お土産を眺めながら、そんなことを思っているとその幸福をぶち壊す存在が前から近づいて来た。


「あれえ? 白中くんじゃん!」


「あっれえ、一人で何やってるの? ボッチ?」

 金城と篠田。そしてあいつらの取り巻き二人が目の前に現れたのだ。


「金城くん」


「何だよ! これ!」

 すると取り巻きの一人が手に持っていたお土産を奪われた。


「えー? 貝殻? センスなさすぎ」

 篠田がゲラゲラと下品な笑い声をあげる。苛立ちを覚えながら、取り巻きに抵抗する。


「おとなしくしろ!」

 もう一人の取り巻きに強烈な鳩尾を受けた。僕はそのまま地面にしゃがみ込んだ。取り巻きが金城に土産を手渡した。


 すると金城が悪魔のような卑しい笑みを浮かべた。


「そんなに欲しけりゃとってこいよ!」

 金城が物凄い勢いでお土産を投げた。


「ナイスピッチング!」


「さすが祐一!」


「いやー、良い肩してるね!」

 金城達の声を尻目に僕は走り出した。あれは無くしたくないものだ。とても大事な母さんへのプレゼントなんだ。


 しばらく走ると昼間に行った川に着いた。あたりを散策しているとお土産を見つけることができた。


 しかし、その場所が川の水面だったのだ。最悪だ。何しろこの白中目白。大の金槌なのだ。


 買い直そうとも考えた。しかし、目的のものが目の前にあるのにのこのこ引き下がれない。


 いつもの僕なら考えもしない思考が頭をよぎった。僕は勢いよく川に飛び込んだ。


 冷たい川の水と肌に張り付く衣類に不快感を覚えながら、必死にお土産まで体を運んでいく。


「げほっ!」

 その途端、鼻と口から水が入り、とっさに咳き込んだ。目の前ではお土産がプカプカと浮いている。


「誰かあー! 助けて!」

 大声で助けを求めたが、反響するだけで応答は一切ない。その時、体温の低下と無茶に体を動かしたせいか、足がつった。


「助けっ! ごぼっ!」

 抵抗も虚しく、僕はそのまま水底に向かって沈んでいくのを感じた。


 やがて浮き上がる気力も体力も薄れて一人、大の字で沈んで行く。水面が離れるごとにどんどんと息が苦しくなる。


 口から吐き出した泡がぶくぶくと水面に向かっていく。それとともに意識が自分の意思に反して薄れていくのを感じた。くそっ、こんなところで死ぬのかよ。

 あんまりじゃないか。


 悔しい。奴らへの憎しみで全身の血液が沸騰しそうだ。そんな憎しみも虚しく僕の五感は途切れた。




 夢を見た。透明な色をしたサメが語りかけてくる。


「あっ、あんた! 何者だ! というか何で僕生きているんだ!?」


「落チ着ケ。ニンゲン。我ハ今、ソナタノ精神ニ語リカケテイル」

 精神に語りかけている。という事は実際に会話しているわけではないという事か。


「ソナタノ肉体ハ既ニ死ンダモ同然。シバラクスレバ確実ニ死ヌダロウ。シカシ、助カル方法ガ一ツダケアル」


「なっ、何だ! 教えてくれ!」

 僕は藁にもすがるような思いでサメに聞いた。


「我ト契約シロ。ソウスレバココカラデラル」


「どういう内容?」

 僕は不安さを隠せずに聞くと、サメが不気味に口角を上げた。


「我ノ姿ト成リ、ココカラ抜ケ出スノダ」

 僕がサメになる。そんな事が可能なのか? というかそれしかないのか?


「ソナタノ肉体ハ死ンダモ同然。唯一ノ救イハコレシカナイ」


「なんで他の生き物には取り憑かなかったんだ?」


「他ノ生物ハ弱イ。鯉モ亀モ海ニハイケヌ」

 なるほど、淡水のみに適応している生き物には乗り移れないという事か。


「あんた。ひょっとして昔、ここで死んだって言われているサメか?」


「ソノ通リ。我ハココデ死ニ、魂ノミガ残ッタ」

 勘違いかもしれないが、サメの声がどこか悲しそうに聞こえた。きっとここで死んだのが無念だったのだ。


 僕もその気持ちが痛いほど分かる。こんな形で死ぬなんて、あんまりだ。死んでも死に切れない。


 サメはここから出たい。僕も奴らに復讐したい。断る理由などどこにもなかった。


「わかった。契約しよう」

 絶対に許さない。僕をここから突き落としておきながら、のうのうと生きている。


 僕は契約を受諾する事を伝えると、サメがゆっくりと胸の中に吸い込まれるように入っていった。


お手に取っていただき、ありがとうございます!

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