7.パーティ潜入
ここから第二章になります!
「ロゼンダ・フレイラ・ギュルスタン子爵令嬢」
名前を呼ばれてボクはパーティ会場へとゆっくりと入っていく。
そう、今のボクはアガスティ男爵ローゼンバルトじゃなくて、ギュルスタン子爵令嬢ロゼンダだ。
うーん、ドレスが慣れないなぁ。なんだか足がスースーするし落ち着かない。やっぱりズボンの方が良いと思うし、なにより女性用下着が……なんというか心許ないんだよねぇ。
目立ちたくはないから髪は三つ編みにして伊達メガネを掛けて、地味な娘になるように演出してみたけど……果たして上手くいってるのか、まったく自信がない。
それにしてもボクが本当にパーティに──しかも《 女体化 》を使って女性として参加することになるとはなぁ。
こうなってしまったのには深い、本当に深い事情があるんだけど……ここまで来てしまったからにはあとは度胸だ。
グラウからはエスメエルデの新しいメモリーカードが貰えるし、あと父さんからの追加報酬もある。
報酬を頂いてエスメエルデをカスタムしたり、魔法薬開発に没頭するためにも、今は我慢してパーティに参加するしかないのだ。
ボクは顔立ちを隠すためにかけたメガネをくいっと持ち上げると、最新の流行からは程遠い──シンプルで古風な白いドレスの裾を両手で軽く持ち上げ、視線を向けてくる人たちに軽く会釈をしたんだ。
◆
今回グラウの思いつきによってボクがパーティに参加することになったんだけど、なんと開催までに残された時間は僅か7日間。それまでに解決しなければならない大きな問題が三つもあったんだ。
まずは戸籍のこと。当然だけどパーティには貴族令嬢でないと参加できない。だけど貴族の戸籍なんてそう簡単に手に入るものじゃない。
次に、貴族令嬢としての礼儀やマナー。いくらボクが【 女性化 】のギフトを手に入れたからって、すぐに女性の──しかも貴族らしい立ち居振る舞いを身につけることは難しい。
最後にドレスやお化粧などの身の回りを整えること。女性用のドレスなんてあいにくボクは持ち合わせていない。持っていたら逆に変だよね。
普通だったら簡単に乗り越えられそうもないこれらの大問題。
だけど運命の悪戯か──いともあっさりと解決してしまったんだ。
戸籍については、グラウが手を回した。
〝ギュルスタン子爵″という爵位を用意して、パーティ参加に必要な招待券まで手に入れてしまったのだ。
まさかグラウが本当にここまでやるとは……もっとも男爵よりも上位の子爵の肩書きを用意するあたりに、彼の性格の悪さが垣間見えるんだけどさ。
おまけに父さんがなぜかノリノリで、グラウの悪ノリに同意して上手いこと調整し、ギュルスタン子爵家を本当に遠縁の寄子ということにしてしまったのだ。これで誰もロゼンダという令嬢が架空の人物だとは思わないだろう。
たった一回のパーティ潜入のためにここまでやるのは如何なものかと思ったんだけれど、父さんから追加報酬で〝ドラッケンマイスター社″の【 マイスターエグザミキサー 】を貰えることになったから、多少のことは大目に見ようと思う。
だってエグザミキサーだよ? 欲しかったけど余りのプレミアっぷりに泣く泣く断念したのに……人気殺到で入手困難なドラッケンマイスター社の新製品を目の前にぶら下げられたら、何だって言うこと聞いちゃうよね。
でもなんで父さんは追加報酬を用意してまで、ボクをパーティに参加させたかったんだろうか。父さんの立場上、グラウのお相手が心配なのかな?
まぁボク的には貰えるもん貰えるなら構わないんだけどね。深く考えるのはよそう、うんうん。
次に、貴族令嬢らしい立ち居振る舞いについては、ボクが獲得したギフト《 女体化 》で解決してしまった。
ギフトに覚醒した日の夜のこと──。
「はぁ……勢い余って変な約束しちゃったなぁ……」
ボクは冷静に戻って憂鬱な気分になっていた。だってたった7日間で女の子らしく振る舞えるようになるなんて無理すぎる。
「どうしよう……今さら断れないよね……」
「マスカルポーネ」
「エスメエルデ、慰めてくれてるの? ありがとう」
「ラクレット」
ボクがため息混じりの泣き言を呟いていると──突然、エスメエルデの両眼が青く光りだした。
「え!? なに!? どうしたの!?」
『マスター、ギフト《 女体化 》のオプションが解放されました。【 モード選択 】が可能になります』
「モード選択!? なにそれ!?」
『現状では【 ノーマルモード 】、【 アトラクシオン流淑女モード 】から選択できます』
こうして覚醒した女体化ギフトの新たな機能【 モード選択 】。
使ってみると実に有益な機能だった。
今回使用可能になった【アトラクシオン流淑女モード】を使うと、なんと──貴族令嬢としてなんのトレーニングも受けたことがないボクの身体が、勝手に礼儀正しい淑女の動きをするようになったのだ。
実はこれ、複数のスキルが混合されて機能する凄い能力なんだけど……実現していることがなんともアレなので勿体ないと思ってしまうのはボクだけだろうか。
でも今のボクにとってはすごく助かる機能なので、今回は大いに活用させてもらうことにする。だって付け焼き刃でカーテシーとかできると思えないんだもん。
ただちょっと欠点があって──超古代文明流というだけあって、マナーの格式がずいぶんと古いものだった。
だけどこの問題も、最後のドレスの問題と併せて解決してしまった。
ボクの《 女体化 》ギフトの話を父さんから聞いてしまった義母が、わざわざ古代文明流の作法にぴったりのドレスを用意してくれたのだ。
こうしてあらゆる問題を乗り越えてしまったボクは──わずか7日間という短期間で、貴族令嬢としてパーティにデビューすることになったんだ。
……それにしても、グラウといい父さんといい義母さんといい、何でみんな【 女体化 】ギフトを喜んでるんだろうか。あーまぁ義母は「娘が出来たみたいで嬉しいわ」って喜んでたから分からないでもないけど。うちは男兄弟ばかりだからね。
でもボクからするとなんの役に立つのか理解不能なギフトだ。むしろ女性の身体の神秘に色々と触れることになって、すごく気を遣ってばっかりだったよ。
特にトイレとか……お風呂とか……だってまともに見れないんだもん! 無理だよ無理! 無理むりムリ!
あーはやく仕事を終わらせて、女体化を解いてスッキリしたいな。