5.『女体化』
「未知のギフトが覚醒した結果、お前が女の子になっちまったってことなのか?」
「そう……なのかな」
改めてグラウに言われて、ボクはぎこちなく頷く。
「一体どんなギフトに覚醒したら女の身体になっちまうんだ? そいつはライブラリアンであるローゼンにも分からないものなのか?」
そ、そうだ。ギフトの内容を確認しないと。
グラウに言われてボクは我を取り戻すと、エスメエルデの手を掴む。
「エスメエルデ、ギフトの解析をお願い」
「ババンギダ」
頷くエスメエルデがサングラスを外すと、青く光る二つの可愛らしい瞳が現れる。
ホムンゴーレムとしての彼女の機能──《 スキル鑑定眼 》だ。
「【 世界図書館 】へアクセス。司書ローゼンバルトの権限により代行機構エスメエルデに命じる。未知のギフトを解析して!」
『【 スキル百科 】内を検索──解析が完了しました』
「解析結果を教えて」
なにせ肉体を女性に変化させるようなギフトだ。たぶん驚くような能力が付与されているに違いない。
ボクはごくりと唾を飲み込む。ところが──。
『現在マスターには複数の未知のスキルセットが確認されていますが、当該ギフトのデータベースとのアクセスパスが隠匿されており詳細は不明です』
エスメエルデの機能をもってしても詳細不明とは──もしかしてもの凄い能力を持ったギフトなのかな。
『現時点で判明しているのは【ギフト名】と【効果】のみです』
「わかったよ、じゃあそれを教えて?」
『ギフト名は──《 女体化 》』
え?
は?
えっ?
『その効果は──【 女体化 】となります』
「たったそれだけ?」
『はい、年齢は現在のマスターと同じ15歳にセットされています。遺伝子を複数のスキルで解析した上で、マスターが女性として生まれた場合になったであろう肉体を忠実に再現してあります』
通常、肉体を変化させる種類のスキルはかなり高度な部類に入る。それが複数組み込まれで実現しているのが──ただの女体化だけ!?
な……なんというギフトの無駄遣い。
なんという意味不明で迷惑なギフトなんだろうか。
超古代文明の人は、いったい何を思ってこんな無駄なギフトを作ったのかな。しかも高度な隠匿機能まで入れて。こんなのただの嫌がらせじゃないかな。
『ちなみに身長156センチメリル、体重42キルロ。スリーサイズは自主規制機構により隠匿となってます』
身長が10センチメリル以上も縮んでる。体重だってずいぶん減ってるよ。スリーサイズは……どうでもいいや。でもなんとなく胸が大きい気がする。これってどうなんだろう?
『同年齢の女性のデータと比較した場合、平均よりも良いスタイルであると評価されます』
「あ、ありがとうエスメエルデ」
「おいおいローゼン。ホムンゴーレムと二人だけで脳内会話してないで、オレ様にも分かるように説明してくれよ」
「あ、ごめん」
衝撃的なことが多すぎてグラウの存在をすっかり忘れてた。
グラウに向き直ると、ずるりと服がズレたので持ち上げ直す。あーもう服がダボダボだよ。すぐに肌が見えて……。
「ってグラウ、なんでボクの胸ばっかり見てるの?」
「はっ!? お、オレ様としたことがっ!? クソっ、何だこの気持ちは、すごく負けた気分だぜ……」
自分の頬を殴りつけるグラウの様子を眺めながら、ボクは一つの真実を悟る。
女性って、胸元ばかり見られてるとすぐに気付くんだなぁ。ボクも今度から気をつけよっと。
「よし、もう大丈夫だ。状況を説明しろ」
「まず──理由は不明だけど、どうやらボクはギフトに覚醒したみたいなんだ」
「なんか女の声のローゼンって斬新だな。なんかクるものがあるぜ」
「ボクの話、聞く気ある?」
ボクが睨みつけると、グラウは慌てて居住まいを正す。
「わ、悪い。続けてくれ」
「ボクが覚醒したギフト名は《 女体化 》。効果は──女体化だって」
「……見たまんまだな」
「う、うん」
「能力は、女体化以外にあるのか?」
「今のところは隠匿されていてそれ以上は分からないみたい。完全に未知のギフトだよ」
「お前でも、か。たしかローゼンは【 スキル百科 】と【 薬物 】のライブラリアンの資格持ちだろ?」
「うん」
ライブラリアンとは、この世界のどこかに存在するデータベース【 世界図書館 】──通称〝ライブラリー″にアクセスすることができるスキルの持ち主のことを指す特別な呼称だ。
ライブラリーには世界のあらゆる叡智が格納されていると言われていて、ライブラリーに触れるだけで当該する情報の知識や能力を得ることができる。
ボクの場合はライブラリーの中にある【 薬物 】と【 スキル百科 】の情報にアクセスできる司書の権限を持っている。
たとえばスキルについては、通常は当該スキルを持っている人しかその能力は分からない。
だけどボクは【 スキル百科 】にアクセスすることで、様々なスキル情報を知ることができるんだ。
もっとも、膨大な量のデータの中から当てはまるスキルを探し出すのにエスメエルデの力が必要不可欠なんだけどね。
「お前でも未知ってことは、とんでもない能力をまだ秘めている可能性があるってことになるのか?」
「うーん、どうだろう……変身系のスキルはいくつか存在が確認されてるんだ。例えば《 刺爪 》や《 舞髪 》といったものから、《 獣人化 》や《 狼変身 》といった血統系ギフトもあるけど、それらは身体を強化する効果ばかりが目立つものだからね。ただ女体化は身体強化と言えるかは微妙だし、もしかしたら未知の能力がついてきてるのかもしれないけど」
「おいおい、それもしかしてオレ様と同じ〝災厄級″ギフトになったりするのか?」
「それはどうかな」
現在確認されている〝災厄級″ギフトは、〝四大災厄ギフト″と呼ばれる四つのみ。もしボクの《 女体化 》ギフトがそうであれば5種類目ということになる。
だけど確認された効果が【 女体化 】だけだから、さすがに災厄級は無いんじゃないかと。世界を災厄に陥れるどころか、ボク一人がえらい目に遭っているだけだしね。とほほ……。
あーあ、しかし参ったなぁ……。さすがに父さんには報告しなきゃだけど、説明したらたぶん呆れられるだろうなぁ。
「なぁローゼン。ひとつ頼みがある」
「なに? 改まって」
「おっぱい、揉ませてくれないか?」
パチーン。
「いてっ!」
あーあ、反射的にグラウを叩いてしまったよ。
ったく。こっちは真剣に悩んでるってのに、この非常時に何を考えてるんだか……このスケベ王子めっ!




