表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/41

〜新しい夢〜

 ボクたちが【死蛇熱】の再流行を阻止してから、一月が経過した。


 あの日、不眠不休の対処のあと倒れたボクは、丸一日以上眠ってしまい……起きたボクたちを待っていたのは──一ボクたちのことを【グランバルドの四聖女】と呼ぶ人々の大歓声だった。


【救国の聖女】スレイア

【製薬の聖女】ネネトール

【浄化の聖女】アフロディアーネ

 そして……【病克の聖女】ロゼンダ


 10年前に王都を壊滅寸前まで陥れた伝説の疫病【死蛇熱】。その特効薬と治療法と、人々を治癒する情熱を持って対処したスレイアを筆頭としたグランファフニール護国団のメンバーは、結果として──王国内で英雄として崇められることになった。

 他にも【守護の黒騎士】グラウリス王子や【聖女の勇者】フロイドなんて呼ばれて、英雄として称えられるようになっていたそうな。


 それからは大変だった。

 スレイアは王宮に呼び出されるし、ボクは父さんたちに全ての事情を説明することになるし。

 王家主催の病魔退散祝いの祝賀パーティーに新しいドレスで参加させられたり、そこでどこかの高位貴族の令息にいきなりプロポーズされて断ったり……。

 あとは病のライブラリーを使って元気になったアクリュース義母さんと一緒に食事会をしたりしたな。


 そういえば、肝心なボクの正体については──なぜかスレイアは全く気づいてなかった。


「ロゼンダもライブラリアンだったんだろう。そんなこと隠さなくてもいいのにな」


 などと言って、まったく理解している様子のないスレイア。もしかしてワザととぼけてたりするのかな。

 でもたとえわざとであったとしても、ボクはありがたくスレイアの好意・・を受け取ることにして、結局今でも正体をバラしていない。というかバラしようがなくなってしまったのだけど。

 というのも、ボクは──あの日からなぜか《女体化エンプレス》が解除できなくなってしまっていたのだ!


 無理が祟ったのか、それとも別の要因か。とにかく解除できない。男に戻れないのだ。

 これには本当に困った、問題だらけだ。

 とはいえもし今回の無理が原因だとしたら、しばらくしたらまた元に戻れるだろうとたかを括ってたりもする。だから困ってはいたものの、深刻には考えないようにしていたんだ。


 それに、もしかしたらこれは良い機会かもしれない。

 そもそもローゼンバルトとしてのボクは高位貴族の庶子でしかなく、一代限りの男爵でしかないからこの王国にたいしたしがらみもない。

 もちろん義母さんや兄さんたちは大切だけど、ボクをこの地に縛り付けていたものは、母さんの仇である【死蛇熱】の存在が大きかった。

 だけど──。


「ボクはもう目的を果たしたからね」


 もともとボクは、母さんの仇である【死蛇熱】に打ち勝つための魔法薬マグメドの開発こそが夢であり目指すべき道であり目標であった。

 だけど今回こうして病のライブラリアンとなり、【死蛇熱】を封じることに成功した結果──ボクの目的は完全に達成されたのだ。


 既に父さんには病のライブラリーへのアクセスパスは共有してあるから、今後危険な病が発生したとしても問題なく対処できるだろう。

 ボクをこの地に縛り付けるものはもう、完全に無くなっていた。


 だから今度は、ボクは自分の中で生じた新たな夢のために生きて行こうと思う。


 ボクの新しい夢。それは──ライブラリーを守ること。

 超古代文明アトラクシオンの叡智は、今や滅びの運命の中にある。先日の【病】のライブラリーとの邂逅で、ボクはそれらライブラリーを見つけて管理し、守っていきたいっていう思いが新たに生まれていたんだ。


「だからボクは、冒険者になる」


 世界中に広がるダンジョン。

 その奥に、さまざまな未知のライブラリーが存在しているのではないか。


 ボクはこの仮説を証明するため、冒険者となってダンジョンを攻略していくことを決めたんだ。

 お供は──エスメエルデのみ。


 そして今日、ボクは誰にも別れを告げずに旅立つことにする。

 三度目の夜の家出は──本当の別れだ。

 父さんや義母さん、兄さんたちには手紙を残した。


 スレイアやネネト、アフロディアーネたちも【聖女】として新たな人生を歩み始めたところだ。

 たしかスレイアは第一王子との縁談が裏で進んでいて、将来はこの国の王妃となる道が開けている。彼女ならこの国を素晴らしい方向に導くはずだ。

 アフロディアーネは本当に聖女となるそうだ。これからは教会に所属して、各地を浄化行脚していくらしい。帰ってきたら山ほどの縁談が待っているに違いない。でも実はキャスアイズ兄さんとちょっといい感じになっているのをボクは知っている。

 ネネトは一度故郷に帰ると言っていた。故郷でさまざまな薬物の生成の腕を磨いて、将来はあらゆる病を癒す万能薬エリクサーを作りたいそうだ。

 ……きっと彼女たちなら、たとえ道が違っても上手くやっていくことだろう。


 あとグラウは……グラウは──。


「おいおい、このオレ様を置いていく気かよ?」


 後ろから、ボクを呼ぶ声。やっぱりバレてたか。


「……置いていくも何も、君は王子じゃないか」

「王位継承権はないけどな」

「それでも第三王子で、【守護の黒騎士】様じゃないか。騎士団にも、縁談相手としても引く手数多でしょ」

「そういうお前だって【病克の聖女】じゃないか」


 ……まぁそうなんだけどね。聖女なんて呼ばれてもちっとも嬉しくないけど。


「オレ様も、お前と同じように家を出てきたんだ」

「は?」

「オレ様──いやオレも、お前と同じ、一介の冒険者さ!」


 しれっとこの王子様は何を言ってるのか。


「そんなこと出来るの? そもそも国王陛下や父さんがよく許したね」

「お前のそばにいることが前提だよ」


 だよねぇ。なぜかボクといると《虚蝕餐鬼(グラトーラ)》が制御できるみたいだしね。

「だからオレも、一緒に行くぞ」

「……ほんっとバカじゃないの」

「お前だって似たようなもんだろ? それに女の子を一人で放り出すってのはオレの矜持に合わねぇしな」

「女の子じゃないし! それに、これからはもう王子様じゃなくなるんだよ? ただの平民の一冒険者ってことになるよ?」

「問題ないな。むしろオレは自由になれることにワクワクしてるんだ」


 グラウはとびっきりの笑顔で微笑む。

 きっと普通の女の子だったらイチコロの笑顔だろう。だけどボクは──。


「ほんとうに、一緒に?」

「しつこいなぁ、一緒に行くって言ってるだろ!」

「ああ、分かったよ。でも……変なことはさせないからねっ!?」

「はんっ。ローゼン、いずれお前の方からヒーヒー言わせてやるよ!」

「なにそれっ!? 絶対言わないしっ!」


 ボクはグラウの背を叩きながら笑う。


「そうだ、ボクはもうローゼンじゃないよ。今の名前は捨てようと思うんだ」

「ん? 男に戻れないからローゼンバルトって名は捨てて本格的にロゼンダになるのか?」

「違うしっ! ボクはこれからはロゼって名乗ろうと思う」


 ロゼなら男でも女でも問題ない感じだしね。

 女体化するたびに名前を変えるのも混乱しちゃうし。


「そうか、じゃあオレも名前を変えるかな。グラウ改め──グランで!」

「ははっ、じゃあよろしくねグラン」

「おうよ、ロゼ!」

「パンナコッタ!」


 まずはどこへ行こうか。ネネトがいるティプルス領にでも顔を出すか、それとも──。


「せっかくだから王国を出ようぜ! オレは広い世界を知りたい」

「それ、いいかもね!」


 ああ、ネネトに会うのは当分先になっちゃうかな。

 でもそれまでには男に戻って──。


「そう簡単に戻さねぇぞ?」

「ん? グラン何か言った?」

「いや、なんにも。そうと決まればオレのギフトで飛んでいこうぜ!」

「いいけど、お姫様抱っこは嫌だからね!」


 さぁこれから、ローゼンバルト改めロゼと、グラウリス改めグランの新たな冒険譚の始まりだっ!


 ボクたちは、二人と1ホムンゴーレムで冒険者としての第一歩を、たった今から踏み出す──。




 〜おしまい〜



 

このお話に最後までお付き合い頂きありがとうございました! これにて完結です、本当に感謝しています!


そして、最後に。

もし良かったら……感想やブックマーク、評価などを頂けると、とっても嬉しいです(o^^o)


また(近いうちに?)別のお話でお会いできることを、楽しみにしています!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] やっぱりすきです じかい、たのしみにしてます
[一言] 面白かったです。 良い物語をありがとうございました。
[一言] > そう簡単に戻さねぇぞ? あ(察し
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ