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30.もう一つの使命

 お互いの紹介とあいさつが済んだところで、いよいよ本題に入っていく。


「今後どうするのかの作戦を相談しよう。どのようにして〝黒い男″を探すか──」

「黒い男……?」


 やばっ、グラウには何の話もしてなかったよ。チラリとこちらを見てくるけどスルーする。


「あっ、スレイア。こ、公爵様はなにかおっしゃってたの?」

「父上は守りを増強すると言っていた。守備兵をこの一カ月増やそうと。ただどれだけの効果があるのか──」


 そうだ、ボクも父さんにも言っておかないと。優秀な父さんのことだ、もしかしたら良い腹案を持ってるかもしれないし。


「わらわが視た〝黒い男″は圧倒的な破壊の力を持っていた。危険なギフト持ちなのか他国の人間兵器なのか……」

「危険なギフト持ち……」

「すごく怖いよね、私たちに何かできることはあるのかな?」

「今から王都の人間たちを避難させるか──現実的ではないな。《 預言視(アルティア) 》はそもそもさほど信頼度のあるギフトではないからな」

「え? そうなの? そんなにすごい力なのに」

「うむ。なにせ《 預言視(アルティア) 》の見る予知は行動によって変わる・・・からな」

「ええ……」


 ネネトが信じられないといった反応を示すけど、スレイアの認識は正しい。《 預言視(アルティア) 》は未来を変えることができるがゆえに、逆に情報源として信用されていなかったりするのだ。スレイアは自分のギフトの特徴をよく理解してるなぁ。


「そう言うがネネトだって完全に信じているわけではないだろう?」

「それは……だってこんなに立派な王都が1日で壊滅するって言われてもすぐに信じられなかったというか……あ、でもスレイアが信じられないって意味じゃないよ?」

「わかっておる。だがわらわのゆ、友人であるおぬしでもそのような反応だ。ましてや王都民や国家を動かすとなると──父上は参考にはしてくれているだろうが、集団避難のように影響が大きい行動はまず無理だな」

「そんな……」

「やはり父上に警備を増やしてもらうくらいが限界であろうか……」


 ボクたちが色々と相談している間、ずっと静かに聞いていたグラウがボクに耳打ちしてくる。


「おいローゼン。あとで詳しく教えろよ」

「……わかったよ」


 その様子を見たスレイアが変な笑みを浮かべながら尋ねてくる。


「ところでグラウよ。ロゼンダとはずいぶん親しげであるが、おぬしとは一体どういう関係なのだ?」

「んー、お互いの裏の顔を知る間柄かな」


 グラウめっ、なんでそんな思わせぶりな言い方するかな。


「そうか、そうであったな」


 スレイアはスレイアで意味ありげに頷いてるし。彼女ずっとボクのことを「王家の闇に生きる一族」だと勘違いしたままなんだよなぁ。


「それにしては親しげだが、その──特別な関係にあるのか?」

「きゃっ!」


 それ聞いちゃうかな。ネネトも顔を赤くして聞き耳立ててるし。


「ああ、そうだな。オレ様たちは特別な関係に──」

「こら! 勝手なこと言わない! 二人ともボクたちは何の関係もないからね!」


 グラウの口を塞ぎながら慌てて訂正する。まったく、グラウに好きに語らせたら何言い出すか分からないや。もうずっと口を塞いでようかな。


「ま、まぁそこまで強く否定するならこれ以上は聞かんが……」

「ふふふっ」


 お願いだからこれ以上誤解を膨らませないで欲しい。



 ◆



 スレイアとネネトは一度公爵邸に戻ることになった。警備を強化する以外に良い手が浮かばなかったからだ。改めて公爵に警備強化をお願いするのだという。


 二人が帰ったあと、ボクはエスメエルデをグラウの部屋に置いたまま父さんに会いに行く──女体化したままで。

 だって24時間に一回しか使えないんだよ!? 今の状況だとスレイアたちとやり取りするためにも《女体化エンプレス》を解除できないし……ギフトの制約がボクに重くのしかかってくるよ、とほほ。


 妙に嬉しそうに「ついにドレス姿で会いに来てくれたか」とはしゃぐ父さんを無視してスレイアの予言の話をすると、父さんはドライにも「どうにもならないときには、グラウリス王子を対処する・・・・必要があるな」と言ってきた。


 そりゃ分かるけど……それってグラウを〝処分する″ってことだよね。父さんからするとグラウ一人の命よりも王都の人たちが大切なわけだからさ。

 もともとグラウに王位継承権が与えられなかった理由も、彼が庶子であるだけじゃなくて、最終手段として・・・・・・・グラウを亡きものにする・・・・・・・ことを考慮してのものなんじゃないかと推察している。


 そしてボクに与えられたもう一つの使命。

 それは──いざというときにボクの手で・・・・・グラウを処分する・・・・ことだと認識してる。スキルのライブラリアンとしてグラウを止めれない場合の、最後の責任の取り方。


 でもそんなの嫌だ、絶対に避けたい。

 たとえ暴走した時点でグラウの命が尽きることが確定しているのだとしても、そんなことは絶対にしたくない。だってボクは彼の──友達なんだから。



 暗い気持ちで父さんへの報告から戻ると、グラウがボクに詰め寄ってくる。


「なに暗い顔してるんだ」

「別に……なんでもないよ」

「お前、何か隠してるだろ?」


 ドキッ。

 やっぱりこういうところは勘がいいんだよなぁ。

 ……でももうこれ以上誤魔化せないよなぁ。グラウはもう気付いてるだろうし。


「グラウの予想通りだよ」

「……いつだ?」

「明後日。グラウの誕生日」


 ボクの言葉に、グラウの顔色が変わる。


「早いな。間違いないのか」

「うん、それを予知したのがスレイアなんだ」

「なぜそれをもっと早く言わない」

「だって……」

「まぁいい。どうすりゃいいんだ」

「そんなの分からないよ」


 本当はグラウが煩悩を拗らせなければ良いと思ってるんだけど──スレイアとネネトを紹介したものの、これで上手くいっているのかどうかは分からない。

 そもそもコミュニケーションは取れているけど、お互い警戒してるみたいな感じで恋だの愛だのに発展しそうな気配は全く無いし。

 確証がないまま明後日まで普通に過ごしていいものか──だめだ、判断材料が少なすぎる。


「ったく、なんなんだよ。過去のギフト発現例では女遊びが激し過ぎたのが問題だって言われてたからずっと我慢してたってのによ」


 その我慢が逆にダメだったのかもしれないんだけどね。


「じゃあ我慢やめるか」

「そ、それは危険だよ」


 過去の事例では女遊びが暴走の原因であることは確定してるんだから、むやみやたらと同じ轍を踏む必要はないわけだし。


「……スレイアが見た未来では、オレ様が王都を滅ぼしてるんだな」

「うん」


 ボクは握り拳を握る。


「わかった。王都を出よう」

「っ!?」


 それは──確かに予知を回避する分かりやすい手段だ。


「だってオレ様が王都を滅ぼす未来なんだろ? だったら王都から居なくなれば実現しないじゃないか」


 だけどそれは王都の壊滅が避けられるだけであって、グラウが暴走しないわけではない。つまり、グラウ一人を犠牲にするってことになる。


「オレ様はな、予知なんかに当てられるようなチンケな人生はまっぴらお断りだ」


 だけど迷い無くそう口にするグラウは、本当にカッコよく見えたんだ。


「そんな──」


 だったら……そんなことを言うんだったら──。


「だったら、ボクも一緒に行くよ!」


 グラウを一人でなんかで行かせたりしない。

 ボクはグラウの専任ライブラリアンであり、幼馴染であり──大切な友達なんだから。

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[一言] 道程の可能性も微レ存?
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