28.タイムリミットは3日
ここから第五章になります!
ボクはパニウラディア公爵邸を飛び出すと、馬車を借りて大急ぎで後宮に向かっていた。
スレイアが見た予知夢によると──〝黒い翼の男″が王都グランファフニールを崩壊させるのは、今年の『建国祭』までの約一ヶ月の間。理由は建国祭の装飾に今年の年号が記載されてたから。
だけど、実際には一月も猶予はない。
だってグラウの誕生日は──〝明後日″なのだから!
今日も含めてあと〝3日″。それまでにどうにかしないとグラウの持つ〝災厄級″ギフト・ナンバー3《虚蝕餐鬼》が暴走してしまう。それだけは絶対に避けなければならない。
スレイアはこれから公爵に予知夢の報告をするそうだけど、ボクは同席をお断りしてグラウのもとへ向かう。もしかしたらもう兆候が出てるかもしれないし!
「あっ……しまった」
「カルボナーラ?」
「慌ててたから女体化したまま来ちゃったよ」
王城の入り口近くまで来て、ボクはミスに気づく。
一応グラウが嫌がらせのようにロゼンダでの入城許可を取っているんだけど、女性の姿のままで会うのはなんだかグラウの策に乗ったようで癪に触る。
とはいえ一度家に帰るのも時間のロスなので、どこか──元に戻って男物の服に着替えるのに適した場所を探す。
「あそこなら、いけるかな」
見つけたのは人気のない教会。たぶん朝の礼拝のために城内にある礼拝堂に出向いているんだろう。
慎重に周りを伺いながら中に入ると、予想通り人はいなかった。ただ妙に清潔感に溢れている。もしかして掃除したばっかりなのかな。
「まあいいや、ここで《女体化》を解除して──」
「──あなたは、ロゼンダ?」
ギフトを解除しようとしたとき、ふいに背後から聞き覚えのある声がする。
「えっ!? アフロディアーネ様!?」
「な、なぜここに!? もしかしてわたくしの後をつけてまして!?」
いや、つけてなんてないよ!
まさかこんな場所に人が──よりにもよって顔見知りのアフロディアーネが居るなんて思わないし!
「しかしアフロディアーネ様、そのお姿は──」
「はっ!?」
なぜかアフロディアーネは、前回街で遭遇した時と同じように質素な服にお化粧もせず、おまけにほっかむりまでしていた。まるで掃除中の信者みたいな格好をしている。
「な、なんでもありませんのよ! 別に変装も偽名で偽装もしていませんわよ!」
まだ何も言ってないのに……語るに落ちてる。ってか偽名まで使ってたんだ。
わざわざ変装して偽名まで使ってまでして、アフロディアーネはここで何をやってたんだろうか。
「さてはあなた、わたくしのことを探ってまして? ご、誤解があるようですけど、わたくしは別に市井になど遊びに行っていませんからね!」
「えーっとアフロディアーネ様? その、ボクは──」
そのとき、ガヤガヤと話し声と共に複数人が境界へと戻ってくる気配がした。朝の礼拝が終わって修道女たちが戻ってきたのだ。
「あら、ディアってば今日も綺麗にお掃除してくれたのね。ありがとう」
「あ、いや、その、あの……」
「おや、そこにいるのはディアのお友達かい? 今日はお友達も一緒に掃除してくれたのかな」
ディアってのは、たぶんアフロディアーネの偽名なんだろう。でも偽名でしていることが掃除って──本当になにやってるんだか。
「ななななんでもありませんわ! ほら、ロゼ! 一緒に帰りますわよ!」
「え? へ?」
アフロディアーネに何やら勝手に偽名を付けられた挙句、強引に腕を引かれてそのまま教会から連れ出されてしまう。あぁ、結局元に戻れなかったよ……。
そのまま引きずられるように教会の裏に向かうと、ボクはアフロディアーネに壁に押しつけられる。
「えーっと、アフロディアーネ様?」
「……今日や先日見たことは、あなたの心の内にしまっていてくださいますこと?」
「いいですけど、ボク少し急いでいるので──行ってもいいですか?」
もう元に戻ることは諦めた。アフロディアーネのことも気にはなるけど、それよりも早くグラウのところに向かいたい。
「何も言わないって約束しますの?」
「しますよ。しますから──顔が近いです」
「っ!?」
すっぴんに近いアフロディアーネは、やっぱりパーティのときの濃い化粧よりも素朴で可愛らしい顔をしている。絶対こっちの方がいいと思うんだけどな。
……ってそんなこと考えてる場合じゃなかった、早く行かなきゃ。アフロディアーネ、ごめんね。
ボクは少し力を入れるとアフロディアーネの手からすり抜ける。
「あっ」
「ちょっと今日は急いでいるので失礼させてください。ただ良かったら今度──理由を教えてもらってもいいですか? できれば……そう、一週間後くらいに」
そのときまで王都が崩壊していなければね。
「わ、わかりましたわ。その代わり絶対に他言無用でお願いしますわね」
「ええ、もちろん。それでは──あ、そうでした。この前ワインを勝手に飲んでごめんなさい。でもとっても美味しかったですよ」
「えっ? あ、その……ありがとう?」
それだけ言うとボクはアフロディアーネを振り切るようにして立ち去ったんだ。
想定外の彼女との遭遇で元に戻るタイミングを完全に失っちゃった。仕方ない、気は進まないけどこの格好のままグラウに会いに行こう。
◆
「グラウ!」
「おぅローゼン、わざわざ女体化してドレスまで着て来てくれるとはサービスがいいな」
あまりにも普段通りのグラウで、つい拍子抜けしてしまう。
すごい慌てて来たのに……こんなことなら元に戻ってから来ればよかったよ。
「んで、そんなに慌ててどうしたんだ? 新しいエロ本でも入荷してきたのか? ようエスメエルデ、相変わらずホムホムしてるな」
「ゴルゴンゾーラ」
「ねぇグラウ、体調はなんともない?」
「なんともって何がだ?」
ああ、やっぱりいつも通りのグラウだ。なんだかホッとして気が抜けてしまう。
「とりあえず隣の部屋を貸して。元に戻ってくるから」
「いやいやなんでよ! このままでいいじゃんか! せっかくドレス姿のローゼンが見れたっていうのに」
「それが嫌だから元に戻るんだよ!」
「だったらなんで女の体で来たんだよ!」
「慌ててたからだよ!」
「だから何に慌ててたんだ?」
「そりゃあ──」
あ、そういえばスレイアの予知のことは秘密にしてるんだった。下手に「お前は誕生日に童貞を拗らせてギフトを暴走させた」なーんて伝えるわけにもいかないし──。
「グラウの誕生日プレゼントをどうしようかと思って」
「はぁ? それが慌てる理由だってのか?」
「だ、だって明後日だし──まだプレゼントを決めてないし」
ウソじゃないよ。最近色々なことがありすぎて、グラウの誕生日プレゼントのことがすっかり抜け落ちてたのは事実だし──本人には言えないけど。
「その相談をしたくて……でもその前に検査をさせて」
「検査だぁ? ……まあいいけどよ。その前にちらっとスカートをたくし上げてくんないか──」
「ばかっ!」
「ぐふっ!」
ボクの右拳がグラウの鳩尾にめり込む。
ったく、やっぱり女体化した状態でグラウに会うのは危険だよ。




