２５．女子会！？
「わらわは……どうしたらいいんだろうか」
ようやく羞恥から回復したスレイアが顔を上げる。
まだほんのりと上気したままの赤らんだ頬がなんとも可憐で思わずドキッとしてしまう。
……今はスレイアの相談に乗ってるところなんだから落ち着こう。すーはー、すーはー。
「確かに、スレイア様とネネトの間には距離を感じるんですよね」
「それは──おぬしも同じだろう。ネネトとわらわへの対応が違うないか？」
ボクも？ そうかな。
──あー、理由がわかったぞ。
「敬語、かな」
「敬語？」
「スレイア様は高貴なるお方なので、皆が遠慮してしまうんですよ。だからつい敬語で話してしまうというか……」
「なんだ、そんなことか。だったら敬語を止めればよいではないか」
言われてる張本人がそれを言うかなぁ。
「だったらまずはボクから敬語を取るね。──いい、スレイア」
「っ！？」
顔を真っ赤にするスレイア。タメ口で話しかけられたこと無いのかな。
「おぬしは自分を……ボクと言うのか？ それは淑女としてはどうかと──」
「それだよ」
「ん？」
「その態度が相手に引け目を感じさせるんだよ。ほら、ネネトにもよくそう言ってるでしょう？」
「あ、あれは……ネネトが望んでおったのだ」
ネネトが本当にそんなこと望むのかなぁ。
「初めて会った時、ネネトは〝自分は田舎者なので礼儀も弁えてないから失礼があるかもしれない″と言っておってな。だったらわらわが教えてやろうと応えたのだ。だから──気がついたときには教えるようにしておる」
それだ。
「それがダメなんじゃないかな」
「ダメ……わらわがダメ出し……」
「友達になりたいんでしょ？ だったらもっと距離感を積めていかないと」
「ぐっ……だがネネトが望んだもので──」
「そんなのただの社交辞令じゃないか。友達ならむしろおおらかに見てあげるべきなんじゃないかな」
そもそも社交辞令を真に受けてマナーコーチしてしまうスレイアもどうかと思うけど……単純というか純粋というか。
今の話を聞いて思うに、正直マナーとかは二の次でいいんじゃないかな。それよりも大切なものがある。
「まずはマナーよりももっと仲良くなることが先じゃないかな。仮にネネトのマナーがイマイチだったとしても、指摘したり教えるよりもスレイアがフォローしてあげればいいと思うよ」
「フォロー？」
「うん。この前のパーティのときスレイアはネネトをフォローしてあげようとしてあげてたでしょ？ そんな感じだよ」
「ふむ……」
ボクの言葉に少し考え込むスレイア。
ふーむ、これは少しボクもお手伝いしたほうが良いかな。スレイアとネネトは側から見てても良い関係だと思う。その二人がもっと親密になってくれるとボクとしても嬉しいしね。
そうだ。親しくなるにはやっぱり──。
「良いことを思いついた」
「良いことだと！？ どんなことだっ！？」
「そんなに食いつかなくても……〝女子会″だよ」
以前グラウが言っていた。「あーオレ様も巨乳美女たちの女子会に乱入してぇ！」と。その時は何のことかと思っていたらグラウが差し出してきたエッチな雑誌に「女の子のコミュニケーション手段」と書かれていたのだ。恐るべし、エッチな雑誌の情報！
「女子会だと……？ それはお茶会と何が違うのだ？」
「んー、お茶会はなんとなく格式高い感じで、女子会はもっと砕けた感じかな。たとえばお茶会はドレスコードがあるけど女子会にはないし」
「ふむ……なるほど、それで何をするんだ？」
「何をするかはスレイアが考えて欲しいかな。みんなで相談したいこととかないの？」
「……ある。なるほど、わらわが相談したいことをカジュアルなスタイルで話し合うのが女子会なのだな」
ちょっと違う気がするけど……まぁいいか。とにかくやってみるしかない。
あとは秘密兵器を連れて来ようかな。やっぱり心をほぐすには身体をほぐす必要があるからね。
◆
翌日。日を改めてボクは準備を整えて再度パニウラディア公爵邸を訪れていた。
「あーっ！ エスメエルデ！」
「パンナコッタ」
「なんだこの人形は！？」
「ホムンゴーレムですよ。ローゼンバルトから借りてきました」
エスメエルデに思わず駆け寄るネネト。どうやら彼女はエスメエルデが気に入ってくれたようだ。
「これが超古代文明の叡智の結晶ホムンゴーレム……まるで生きているようだな。素晴らしい魔法工芸品だ」
「パンチェッタ」
「おい、こやつの右手が丸いボール状になったぞ！ これはなんだ？」
「……エスメエルデ、だから初対面の人にいきなりエステをしようとするのはやめなさい」
とはいえ今日はエスメエルデに頑張ってもらうつもりだ。
「スレイア、砕けた感じでね。いくよ？」
「う、うむ……」
エスメエルデに目を奪われて最初の目的を忘れつつあるスレイアに声をかけると、急に緊張した面持ちになって頷く。
……顔強張ってるけど大丈夫かな。
「ということで、スレイア。始めようか」
ボクがスレイアのことをあえて呼び捨てで呼ぶ。加えて敬語も使わずに話しかけたことに驚いたネネトが顔を上げる。
「そ、そうだな、ロゼンダ。ネネトも聴いて欲しい。実は──【グランファフニール護国団】の〝紋章″を決めようと思う」
「は、はい」
へー、スレイアが相談したいことって護国団の〝紋章″を作ることだったんだ。
「だからその、ネネトも気軽に意見を言って欲しい」
「そうそう、だからネネトももう敬語をやめちゃおうよ！」
ボクが気軽なトーンで言い放つと、スレイアもネネトも目を見開いてボクを見る。なんでスレイアまで驚いてるのさ。
「敬語を……」
「うむ。わらわもそれを望む。どう……だろうか」
恐る恐るネネトに尋ねるスレイアの表情はとても不安そう。
そんなスレイアの様子にネネトが表情を緩める。
「わかりまし──わかったよ、ローゼン。それに──スレイ」
「っ！？」
「だけど私、言葉遣いとかなってないからそのときは教えて欲しい……かな」
「お？ おお、わらわに任せておけ！ わらわがキッチリと指導を──」
慌ててボクはスレイアの脇を突く。
「なんじゃ！？」
「指導じゃないでしょ？ 指導じゃ」
「……そ、そうであった」
オホン、と軽く咳をすると改めてネネトに向き直るスレイア。
「気にすることはない。そのときはわらわが──フォローするでな」
そうそう、それで良いのよ。
まだまだ前途多難だけど、良い女子会になるといいな。
