23.意外な遭遇
カフェの次は、服装屋に立ち寄ることになった。
おしゃれな雰囲気のお店で、お城とかではなく街中で着るような気軽な服がたくさん置いてある。
「……こんなところに寄りたかったの?」
「ああ、グランバルト・ピンクダイジェストによると流行ってるらしいからな」
あのエッチな本、そんな情報も載ってるだ。確かに店内は若い女の子かカップルばかりだったりする。
「おいロゼ、これなんか似合うんじゃないか?」
「……なんか露出多くない? 胸とか見えそうなんだけど」
「それがいいんじゃないか!」
「別に力説しなくてもいいから」
そもそも買う気ないし。
「は? お前せっかく女の子になれるのに外出しないのか?」
「しないよ、出かけるのにわざわざギフトなんて使わないし」
「バッカだなー」
「は? なんでそこまで言われなきゃいけない訳。そもそも女の子になって街に出ると良いことがあるの?」
「そりゃお前、女の子になってたら値引きしてもらえるかもしれないじゃないか」
……なんですと?
「お前いっつも金無いって言ってただろう? だったら女の子になって買いに来たら安く買えたりしてラッキーってならないか?」
「ぐぬぬ……」
「せっかくのギフトだってのに、スキル百科のライブラリアンたるお前が使わなくてどうするよ」
まさかグラウからぐうの音も出ない正論を言われるとは夢にも思わなかった。
そういえば《 女体化 》の調査検証もずっと後回しにしちゃってるなぁ。だってエグザミキサーが凄すぎてつい魔法薬作成ばっかりしちゃうんだよね……。
「そうすると、街に出るのに便利な普段着だって必要になるだろ?」
「だ、だったらさ、今ボクが持ってる男物の服でも代用できないかな?」
「この前俺の前でセクシーな姿を見せたばっかりだってのにか?」
そうだった。体格が変わるせいで服がブカブカになるんだった。
今着てる服も義母さんが送ってきた服の一つではあるんだけど、普段着的なものはこれしかなかったりする。
「で、でも、服を買うお金ももったいないし……」
「今回はオレのトレーニングに付き合わせた礼だ、オレが買ってやるよ。好きなやつをいくつか選びな?」
「……いいの?」
「ちっ! いいから上目遣いで見るな!」
なぜか顔を逸らすグラウ。珍しく優しいことしてるから照れてるのかな。
「ありがとう、助かるよ」
「そのかわりオレの選んだ服も買うからな。次出かける時は着てこいよ?」
「え!? また出かけるの?」
「誰が一回だけだと言った?」
うわー、こんな辱めをまた受けなきゃいけないのか。
だけどグラウの言っていた「女の子だと値引きされる」はものすごく興味ある。もし魔法薬の材料とかエスメエルデの動力源となる魔石が安く買えたりするとすごく助かるし。
「……エッチな服は着ないからね?」
「ちっ!」
だからなんなのそのチッ! ってのは。絶対着ないからね!
「まぁまぁ、素敵なカップルですこと。なんだかお似合いですね」
くぅー、店員にまで変なこと言われるし。
そもそもカップルではありませんから!
「ち、ちがいますから!」
「店員さん、今後発展する可能性を秘めてるってことで」
「あらー! だったら次回一割引になるクーポンを渡しますから、ぜひまたお二人で来てくださいね」
……本当に割引クーポン貰っちゃったよ。
悔しいけれどグラウの言い分がいよいよ正しいのかもしれない。
今度、こっそり女体化して街に出てみようかな。もちろん、一人で!
◆
買い物も終わり、いよいよお出かけも終わりという頃──。
街外れにある教会の近くを通っていると、一台の馬車が前に停まってるのが目につく。あの紋章は──。
「どうしたロゼ、あの馬車が気になるのか」
「うん。あの馬車にある紋章はザンブロッサ侯爵家じゃないかな」
目立たないように飾ってあるけど、どうやらザンブロッサ侯爵家に縁のある人が教会に来ているらしい。
「それが何か気になるのか?」
「いや、だってザンブロッサ侯爵令嬢アフロディアーネ様はグラウの婚約者候補だよ」
「いや、さすがに侯爵令嬢がこんなところに来ないだろ。普通行くなら王城内にある礼拝堂だろうし」
だよね。グラウの言う通り侯爵令嬢がわざわざ街の教会に行く理由なんてないし。
侯爵家に関係してる人が来てるだけなのかな。
「ちょっとあなた! 大人しく綺麗になりなさい!」
「やだよー、あっかんべー!」
大きな声とともに、教会から上半身裸の男の子が飛び出してきて、猛烈な勢いでボクの横をすり抜けていく。もしかして教会にいる孤児とかなのかな。だけど妙に小綺麗でさっぱりしている。
「こら、待ちなさ──あっ!?」
「うわっ!?」
今度は続けて飛び出してきた女の人とぶつかりそうになる。慌てて受け止めると、ふわりと良い匂いがした。
「大丈夫ですか?」
「あら、ごめんあそばせ。わたくしとしたことが──」
「あっ……」
「あなたは──ロゼンダ!?」
この特徴的な赤い髪は──もしかしてザンブロッサ侯爵令嬢アフロディアーネ?
「アフロディアーネ様? どうしてこんなところに……」
「ち、違いますわ! あたしは──ただのしがない街娘ですわ」
いや、どう見たってあなたはザンブロッサ侯爵令嬢アフロディアーネなんですが。
確かにパーティで会ったときと違ってお化粧もあまりしていない。だけど個人的にはケバケバしかったパーティのときよりも、今の方が自然で可愛らしいと思う。
「おい、知り合いか?」
ボクたちの異変に気づいたグラウが声をかけてくると、アフロディアーネが慌てて顔を逸らす。そのまま逃げるように馬車へと駆け込むと、凄い勢いで走り去ってしまった。
「……逃げなくていいのに」
もしかして街の教会で奉仕活動でもしてたのかな。だったら邪魔しちゃったかもしれないけど、別に隠さなくていいと思うんだけどね。
「誰だったんだ?」
「ザンブロッサ侯爵令嬢アフロディアーネ様だよ」
「ふーん……」
「興味なさそうだね、グラウの婚約者候補なのに」
「……ん? まぁお前の方がおっぱいが大きそうだったからな」
呆れた!
やっぱりスレイアたちに紹介するのやめようかな。




