22.デート!?
グラウとお忍び外出する日──。
仕方なく《 女体化 》ギフトを使ったボクは、お忍びの際にいつもグラウと待ち合わせている、グランファフニールの大通り近くにある初代グランバルト国王の石像近くで待っていた。
今日はグラウからの強い要望でわざわざスカートを履かされている。断ってヘソを曲げられても困るので受け入れはしたけど、スカートのこのヒラヒラが心許なくて……思わず内股になってしまう。
なんとなく行き交う人たちがボクの方に視線を向けてる気がするんだけど……自意識過剰かな?
それにしてもグラウのやつ遅いなぁ。約束の時間はとっくに過ぎている。早くこの場から立ち去りたいのに……。
そもそも今回の〝外出″は、グラウをスレイアたちと引き合わせるための予行練習だとボクは考えている。
グラウの護国団勧誘の件は、スレイアには事前に手紙でロゼンダの護国団加入と併せてお願いしてある。一応許可は貰ったんだけど、別途スレイアから事情説明の呼び出しを受けてしまった。あぁ……そっちはそっちで気が重いや。
「お嬢ちゃん、どうしたんだい一人で暗い顔をして」
「っ!?」
うわー。ぼーっとしてたら知らない男の人から声をかけられちゃったよ。
「良かったら気晴らしに美味しいものでも食べに行かないかい?」
「あ、あの、いや、その……」
「スイーツの美味しい店を知ってよ。女の子にも大人気のお店なんだ。だから──」
断ろうにも、思ったように言葉が出てこない。どうしよう、このままだと強引に連れていかれちゃいそうだよ。
返答に戸惑うボクの肩が、不意に──力強く引き寄せられる。
「よっ、待ったか?」
「え?」
ボクの肩に手を回してきたのは、背の高いイケメン──グラウだ。
今日は変装をしているので髪型はオールバックにしてるしメガネも掛けてるけど、バリバリのイケメンオーラを発している。
「オレの知り合いに何か用?」
「あ、いや、彼氏と待ち合わせだったんだね。知らなかったよ、サヨナラー!」
ナンパしてした男はグラウを前にしてさっさと逃げていく。
「なにナンパされてんだよ。油断し過ぎじゃないのか?」
「グラウが遅れたせいだろう!?」
「シーっ」
グラウがいきなり人差し指を口元に寄せてくる。
「っ!?」
「今日のオレ様……いやオレはグラウじゃない、グランと呼べ。お前はロゼな」
ああ、お忍び用の仮名ね。
びっくりした、変な行動をいきなり取らないで欲しい。
「分かったよ……グラン」
「じゃあ行こうかロゼ。せっかくのデートなんだから、腕を組めよな」
「はぁ!? お忍びの外出でしょ!?」
「オレはデートだって言ったよな? それともやっぱヤメにするか? だったら──」
「わかったよ! やるよ、やればいいんでしょ!」
くっそー、やっぱりグラウだ。ボクの嫌がることばかりやってくる。
仕方なく──本当に仕方なく、ボクはグラウの腕に手を絡める。
「……これでいいのかな」
「もっとギューっとやるもんじゃないのか?」
なんでボクが、と思いながらもとりあえず力を込めてみる。
「どう?」
「おう、いいんじゃないか。おっぱいの感触が最高で──」
どこっ。
「うぐっ!? い、いきなりみぞおちを殴るなよっ!?」
「バカなことやってないで、さっさと行くよ!」
はーっ。グラウのバカ行動に付き合ってると、こっちが疲れちゃうや。
◆
今日の外出先は、グラウが希望した場所──カフェだ。
「こんなところに来たかったの?」
「デートといえばカフェ、これ鉄板だろ。っていうかさ、せっかくのデートなんだからもうちょっと態度や口調をどうにかしてくれよな」
ったく、文句が多いなぁ。
仕方ない、【 淑女モード 】を発動させて──。
「おっ!? 急に仕草が変わったな」
続けて【 悪役令嬢モード 】を発動させる。
「何を言ってるんですの? そもそも殿方からデートを誘ったのであれば、しっかりエスコートするのではなくて?」
「うぇっ!?」
「紳士であられるのであれば、口だけではなく行動で示してくださいませ」
「ぐぬぬ……」
いいぞー、あのグラウを言い負かしてるじゃないか。さすがは悪役令嬢モード、頼りになるなぁ。
「それが前にロゼが言ってたギフトのモードってやつか……」
「お望みでしたらワタクシ……いつでもお相手しますわ。ただしワタクシ、いろいろと小煩くてよ」
「いや、なんか萎えるからそのモードやめてくれないかな」
意外なグラウの弱点発見。
今度から何かあったら悪役令嬢モードで対応しよう。
「……なんか久しぶりだな、こうして街に降りてくるのも」
一息ついたところで、グラウが穏やかな目で外の景色を眺めている。ボクとしてもここ最近は怒涛の勢いだったので、確かに落ち着くのも久しぶりな気がする。
しかし、他の客や通行人たちがチラチラとこちらを見てくるなぁ。やっぱりグラウがイケメンだからかな。
「なぁロゼ、このケーキ美味いぞ。食べてみるか?」
「ん、ありがと。……でもなんでフォークを差し出してくるの?」
「デートだと『あーん』が基本だろ?」
「……」
ボクは無言で自分のフォークをグラウのケーキに突き立てると、半分近くを削ぎ取って自分の口の中に放り込む。
「むぐむぐ、うん。おいひいね」
「あっ! てめ、ほとんど取りやがったな!」
「ケーキに薬効を入れるのもアリだよね。新しいタイプの魔法薬だ」
「惚れ薬でも入れたら売れるんじゃねーか」
「ああ、確かに。グランは商才あるね」
「惚れ薬なんて本当にあるのかよっ!?」
言いながらグラウが手を伸ばしてくる。
「……ほっぺたにクリーム付いてたぞ」
「あ、ありがと。でも無言で取るんじゃなくて口で教えてくれないかな」
「別にいいじゃねーか」
「良くないよ」
「なんで良くないんだ?」
なんでって、そりゃあ周りの目が気になるし……。
「そもそもボクが男のままだったらこんなことする?」
「絶対しない」
「じゃあなんでするのさ」
「言っだだろう、今日はデートだって」
指についたクリームを舐めながら、いたずらっ子のような笑みを浮かべるグラウ。イケメンゆえに様になってるのが余計憎たらしい。
「はぁ……ボクが嫌がることばっかりして……」
「くくく。いやぁ今回のデートは実に楽しいな」
なんか今日のグラウは変だ。
こっちまで調子狂っちゃうよ。




