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19.もったいない

 ロゼンダとローゼンが親戚だということで誤魔化せたところで、一通りの検査が終わる。うん、特に問題はなさそうだね。


 そのあとは──今日は初回なのでギフトをコントロールするためのメンタルトレーニングのコツから伝授していく。


「ギフトを暴走させないためには、メンタルトレーニングが重要になってくる。まずはいつでも落ち着いてリラックスできるよう心がけることが大事だね」

「はい」


 とはいえ当たり前の話ばかりだから有り難みは無いんだよね。それでもネネトは真剣に聞いてくれる。本当に真面目で良い生徒だなぁ。グラウとは大違いだ。


「リラックスできたら次に大事なのは、ギフトと向き合うことだよ」

「ギフトと……向き合う……?」

「いつ、どこで、どのように、どうしたら発現するのか。ギフトと向き合いギフトを知ることが、その特性を理解し使える・・・ように・・・なる・・ための最短距離だよ」

「ギフトを……使う?」


 ん? そこで引っ掛かるんだ。


「私……ギフトを使うなんて考えたこともなかった……。これまではギフトを使わないようにすることばかり考えてきたから……」

「スキルと違ってギフトは思い通りに使えないことも多いからね。だけど、せっかく得られたギフトだから使わないと……ちょっともったいないかな」

「もったいない……私はなかなかそんな風に思えないかもしれません」


 ネネトの表情がみるみる曇っていく。あぁ、これはやっちゃったかな。


「ごめん、ちょっとボクの言い方が良くなかったね。別に無理して使えなくても良いかなってのもあると思うよ」


 改めて我が身を振り返ると、《 女体化エンプレス 》は別に使わなくても良いかなって思う。

 あーでも使わないまま放置した結果、人前で暴走していきなり女体化したりしたら困るよなぁ。うーん、悩ましい……。


「ローゼン?」


 あっ、教えなくちゃいけない立場のボクの方が悩んじゃってたよ。気を取り直して──。


「ネネトにとって、ギフトはどんな存在?」

「え? どんな存在……うーん……」


 少し逡巡したあと、言葉を選ぶようにネネトの口から漏れ出てきたのは──。


「呪い、ですかね」

「呪い……」

「私、この毒のギフトに苦しめられてきたんです」


 うーん、これは一度ちゃんとネネトの話を聞いた方が良さそうかな。ボクは姿勢を正して彼女の言葉に耳を傾ける。


「私が生まれ育ったティプルス領は、スリーピングローズを筆頭にさまざまな薬草や花を育てていました。だから私も幼い頃から両親や領民のお手伝いをして、一緒に草花を育てていたんです」

「素敵な環境だね」

「はい。ですが今から半年前に突然ギフトに目覚めて──状況は一変しました」


 ネネトの顔が暗く沈む。


「最初に発現したときは、目の前のコップの水が緑色に変わったんです。バモスカルナ毒という猛毒でした」


 バモスカルナ……たしか南の孤島にいる蛇が持つ猛毒だ。噛まれると血が止まらなくなり、死に至ることもある。

 一発目からそんなレア毒を精製したのか。すごいな、さすがは災害級ギフト。


「幸いにもすぐに異変に気づいたので誰にも被害は無かったですけど、誰かの飲み物や食べ物に毒を入れてしまったらと思うと怖くて……うちには幼い弟もいますから」

「確かに、それは心配だね」

「だからそれから私はずっと、家族とは離れて個室に篭ってたんです」

「ずっとって……半年間も?」

「はい」


 半年間も篭ってたなんて──やっぱりもったいない。

 もっと早く知ってたら、ボクが彼女を連れ出してギフトを研究できてたのに。


「ボクみたいなライブラリアンには相談しなかったの?」

「王都ならともかく、ディプルス領のような田舎にはライブラリアンなんていませんよ。あと父はその……私の今後の縁談に影響するんじゃないかと思って黙ってたみたいなんです。私なんかに良い縁談なんて来るわけがないのに……」


 そんなことはないと思うけどな。

 確かに毒のギフト持ちって言われたら忌避する人もいるかもしれないけど、むしろ強力なギフトを歓迎する人だっているわけだし。

 なによりネネトは素直だし可愛いらしいし……ってボクは何考えてるんだか。いけないいけない、ネネトの話を聞かないと。


「でも一向に収まる気配がなくて、困った父がとうとう寄親であるパニウラディア公爵様にご相談して──そうしたら公爵様がスキルのライブラリアンであるブロードフリード国務大臣タイランドルフ侯爵様のアポイントを取っていただいたのです。検査は一月ほど先になりますが、準備のために一足早く王都にやってきたのです」


 おお、ちゃんと父さんのアポイントが取れてたんだ。でももう不要かな。なにせボクが診ることになるわけだしね。


「それでスレイア様のところに来たんだね」

「はい、私のギフトの話を聞いたスレイ様がすぐに来るようにとおっしゃったのです。あの方は目下の私にも優しくて、ギフトへの偏見もなくて……なんでも『わらわが毒で死ぬ未来は見えてないから大丈夫だ』とおっしゃって、いつも側に置いてくださっているのです」


 スレイア、なんか男気に溢れてるな。


「私、あの方のお役に立ちたいんです。だけどギフトの制御は難しくて……この前のパーティでもトラブルを起こしてしまいましたし」

「ロゼンダから聞いてるよ、大変だったね」

「はい、ロゼンダのおかげでなんとか大きな問題にもならなくて助かりました。でも──私の代わりにロゼンダがアフロディアーネ様から目を付けられたりしなければ良いのですが」


 ボクがアフロディアーネに目を付けられる? どういうことだろう。

 あー勝手にワイン飲んじゃったからかな。あのときアフロディアーネはすごく驚いてたし……今度会うことがあったら謝ったほうがいいかな。


「そんなことがあったので、しばらくはまた大人しく篭ってようと思ったのです。そうしたらスレイ様がロゼンダに相談して──今日に至るわけです」


 スレイアはスレイアなりに何か手はないかと考えていたんだろう。おかげでボクはこうしてネネトとお近付きになれたわけだから、彼女には感謝しかない。


「でもさ、もったいないよね」

「え、何がですか?」


 薬物研究に役立つギフト持ちが半年間も引きこもってたことが……なーんてことを口にしたら、さっきの二の舞きなっちゃう。だから慌てて取り繕う。


「あ、いや。ネネトみたいに可愛いらしい・・・・・・子が引き篭もりなんて、もったいないなって」

「えっ!?」

「え? あれ!?」


 あれ!? ボク、なんかとんでもないことを口走っちゃった気がするぞ。

 ネネトは顔を下に向けちゃうし……。


「…………」

「あ、あの、今のはその……」


 どどどどうしよう、うまく言葉が出てこない。

 ああ、困ったな。こんな時に【 悪役令嬢モード 】が使えたら良かったのに。この微妙な空気、どうすればいいの!?


 ボクがドギマギしていると、ネネトが顔を上げてボクの方を見て──。


「あのー……ローゼン」

「は、はひっ!?」


 やばっ、声が裏返っちゃったよ。

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[一言] 天然誑しだ!
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