17.紹介します!
スレイアからの護国団への誘い。
どう答えようかと思った時、素晴らしいアイディアが脳裏に閃く。
そうだ──グラウをこの護国団に入れてしまうってのはどうだろうか。
予知した災厄の元凶を身内に引き入れるという、一聞すると暴挙のような考え。だけどメリットはいくつもある。
スレイアの申し出を受け入れることができるし、間近でグラウを監視できる。なにより女の子をグラウの近くに置くことができるじゃないか。
煩悩を拗らせてギフトを暴走させた未来を防ぐためには、やはり女の子を側に置くのが一番の解決策になるのではないか。エッチな本では抑えきれなかったみたいだし。
……なんだかスレイアを生贄に捧げるみたいで我ながらちょっとどうかなって思うけど、そこはほら、ボクが守れば良いわけだし。
だけどこの考えを進めるには、事前に色々な方面に調整だったり相談だったりが必要になる。ちょっとこの場では即答できないかな。
ふと気になって、ボクはずっと大人しく座ったままのネネトに尋ねてみる。
「ネネトも、スレイア様の趣旨には賛同してるの?」
「私はその、パニウラディア公爵家の寄子なので……」
「ネネトは王都に来たばかりだからな。なにせギフトに覚醒したのも比較的最近のことなのだ」
そこからはネネトの話になる。
「ネネトは突如《 禍毒 》のギフトに覚醒したんじゃが、あちらの家ではどうにも対処できなかったのだ。なにせコントロールができないのだからな」
「それで──うちの両親がパニウラディア公爵様にご相談したんです」
少し心が乱れると周囲に毒を撒き散らしてしまう《 禍毒 》はやっかいなギフトだ。ちゃんと専門家がついて対処する必要があると、スキル百科のライブラリアンであるボクならアドバイスするかな。
それほど危険なギフトだから、公爵に助けを求めたのは正解だと思う。
「その話を聞きつけたわらわがネネトを引き取った。なにせこれだけ強力なギフトを持つものはそうそういないからな。わらわのものにしたかったのだ」
確かにネネトのギフトは強力だから、ボクだってものにしたいくらいだよ。……あ、変な意味じゃないよ。魔法薬研究のお手伝いをして欲しいなーってね。
「もしあの黒い男と戦うことになった場合、ネネトのギフトはこちらの切り札となるだろう」
可哀想に、グラウの最期は毒殺になりそうだ。
「わらわには破滅を防ぐための力が必要だ。その中にはネネトが持つような強力な能力も含まれる」
「……」
「次はおぬしじゃ。王家の闇として生きるおぬしの力があれば、王都壊滅の危機も少しは遠のくだろう」
グラウを調教し直すほうが近道な気がするけどな。
ただボクは気になったことを尋ねる。
「でもネネトは、ギフトのコントールをできてないのではないですか?」
「うむ、そうなのだ。ネネトは全くコントロールできない」
「私……精神的に不安定になると勝手に発動してしまうのです。先日もアフロディアーネ様とのやりとりでその──緊張してしまって」
「なるほどねぇ……」
「王都の闇に生きるロゼンダよ、何か良い知恵はないか?」
別に闇に生きてないけど……良いアイディアはもちろんある。なにせボクはスキルのライブラリアンだからね。
だけど今この場で言うわけにはいかない。なにせスキルのライブラリアンは国内でボクとあと二人くらいしかいないのだから。下手なことを言うとボクの正体がバレかねない。
──あ、そうだ。いいことを思いついたぞ。
すごい、今日のボクはキレキレだ。
「知人にスキルやギフトに詳しい人がいます。よければその方を紹介しましょうか?」
「む、ネネトがギフトをコントロールできるように調教できる人に心当たりがあるのか?」
調教って……言い方よ。
「調教かどうかはわかりませんが、心当たりはあります」
「誰だ?」
「アガスティ男爵──ローゼンバルト・ヴァン・アガスティ=ライブラリアンです」
ここでボクが紹介したのは──ボク自身。
これならボクの正体がバレることなく正々堂々とネネトのギフトに近づくことができる。
あわよくば魔法薬用にレアな毒物や劇物を生成してもらえれば……うん、素晴らしいアイディアだ。
「ローゼンバルト……ああ、かの有名なブロードフリード侯爵家の【 人形狂い 】か!」
うわ、なにその嫌な呼び名。ボクってそんなふうに裏では呼ばれてたんだ……何だか凹む。
「スレイア様、その人形狂いというのは……」
「ああ、国務大臣を務めるブロードフリード侯爵のご子息でな。いつも女の子の人形を侍らせているからそう呼ばれておるのだ。確かスキルのライブラリアンであったかな」
「まぁ、人形を……」
くぅー、きっつ。
エスメエルデを連れて歩いているせいでそんなふうに見られてたんだ。
面と向かってボクの評価を聞かされるのは心が折れる。お願いだからそれ以上酷いことを言わないで欲しい。
「確かに、スキルのライブラリアンであればネネトのギフトをちゃんと見てもらえるかもしれんな」
「ええ、腕は間違いないと思いますよ」
自分で自分のことを褒める虚しさよ。
「しかしそんな……いつも人形を連れて回るような奴は大丈夫なのか?」
「ホムンゴーレムですよ、ホムンゴーレム!」
はっ、思わず声を荒げてしまった。
ボクはこほんと咳をすると、誤解を解くため説明する。
「彼が連れているホムンゴーレム『エスメエルデ』は、彼の仕事上の助手だと聞いています。決して人形を連れ回ることが趣味の人物ではありませんのでご安心を」
自分で自分の弁解をするこの地獄から、早く解放されたい……。
「まぁロゼンダがそこまで言うなら信用するか。どのみち現状では打てる手がなくて引きこもってばかりだからな。良かれと思って連れ出して、この前のパーティみたいになっても良くないし」
「すいませんスレイ様。いつもご迷惑ばかりかけて……」
「気にすることはない、これもわらわの務めだ」
よし、なんとか話がまとまってきたぞ。
あとは護国団入団の件だけど──。
「スレイア様、グランファフニール護国団の件は一度持ち帰って検討させていただいてもよろしいですか。少し考えたいことがあるので」
「うむ、おぬし一人では決めきれぬこともあるじゃろう。その点は理解しておるぞ」
護国団結成のきっかけとなった予知の災厄の元凶である〝グラウの煩悩″。これをどうにかして解決しないとね。
「ところでスレイア様、グランファフニール護国団にはいまメンバーは何人くらい集まってるのですか」
「おらん」
「は?」
「団員は、いまのところネネトだけだ」
ネネトがささやかに手を挙げる。
あ、他にはいないのね。
「もちろん団長はわらわだ」
「……」
「ひ、秘密ゆえに仲間は厳選しておるのだ! 決してわらわに知己が少ないわけではないぞ!?」
「ええ、わかってます」
「何がわかっておる!?」
「スレイア様に友達が少な……スレイア様が秘密を共有するに足る信頼できる相手を厳選していることを、です」
「うむ、わかってるならよろしい」
満足そうに頷くスレイアを見て、ボクははたと気づく。
あぁ、これってまだまだ『ロゼンダ』の出番がありそうだな。パーティの件で終わりだと思ってたのに。
とはいえ悪いことばかりじゃない。護国団の件は一旦棚上げするとしても、グラウのギフトの危険な兆候が事前に分かったし、解決策も思いついて──なによりネネトのギフトを公然と調べることができる。
ネネトのギフトは【 スキル百科 】と【 薬物 】のライブラリアンであるボクにとって、まるで宝石箱みたいなものだからね。すっごく楽しみだ。
あ……ということは、ボクはネネトと二人っきりになるってことか。
女の子と二人っきり──どうしよう、なんだか緊張してきたぞ。




