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15.お茶会

 いやぁ、久しぶりに有意義な日々だったなぁ。

 この三日間、ボクはエグザミキサーとエスメエルデの新機能にどっぷりと浸かっていた。


 まずはエグザミキサー。

 これがもうすごいのなんの。これまで使ってたミキサーの三分の一くらいの時間であらゆる材料が粉々になるのだ。さすがは天下のドラッケンマイスター社。

 あとは同じドラッケンマイスター社の遠心分離機なんかも手に入ったらもうヤバいね、三日は徹夜で魔法薬マグメド研究しちゃうよ。

 ボクにもう一つの体があったら、間違いなくドラッケンマイスター社に就職してるね。


 一方で、グラウに貰ったメモリーカードによるエスメエルデの新機能は──ちょっと微妙だったかな。正直ボクの求めていたものとは違っていた。まぁ前の〝エステ機能″よりはマシかもしれないけど。

 でもホムンゴーレムのメモリーカードは挿してみないと機能が判明しないから毎回ドキドキするんだよね。


 楽しい時間はあっという間に過ぎていくもので、気がつくとお茶会の日がやってきてしまった。

 うーん、またもや《 女体化エンプレス 》の検証がほとんど出来なかったなぁ。今回のお仕事が終わったらちゃんと検証しなきゃだね。


「おおお、さすがは公爵家だ」


 馬車に揺られてやってきたパニウラディア公爵家は、ものすごく立派なお屋敷だった。

 大きな門。広い庭に噴水。さすがに王城ほど巨大ではないけど、実家の侯爵家よりも何回りも大きいところに格の違いを感じる。

 とはいえ、グラウと友人である時点で家柄とか格式とかに対する免疫は出来てるので、気にすることなく門の中へと入っていく。


 うちのエスメエルデと違って洗練されたメイドに案内されたのは、広い庭の一角。

 大きな日傘の下にテーブルとイスが置かれていて、優雅にお茶を飲みながらボクを待ち受けていたのは──。


「あっ! ロゼンダ!」


 勢いよく立ち上がったのは、この前仲良くなったネネトだ。オレンジ色の髪を揺らしながら嬉しそうに手を振ってくる。


「これネネト、淑女がすぐに立ち上がるでない」

「あ、はい。すいません……」


 彼女に指導したのが、今回ボクを呼び出した張本人であるパニウラディア公爵令嬢スレイアだ。

 陽の光の下で見てもたいそうな美人だなぁ。今は同性のはずなのに見つめられるだけでドキッとしてしまう。


「よく来たな、ギュルスタン子爵令嬢ロゼンダ」

「お茶会へのお招きありがとうございます、パニウラディア公爵令嬢スレイア様」

「うむ、これからはわらわのことを名で呼ぶことを認めよう。ゆえにわらわもそなたのことをロゼンダと呼ばせていただく。よいな?」


 こんな美女によいな? って聞かれて断れるわけもない。


「はい、スレイア様」


 ペコリと頭を下げると、スレイアがメイドに目で指示してボクに席を用意する。

 さっそく【 淑女モード 】を発動しておいてよかったよ。礼儀正しく着席する。


「ふむ、先日のパーティとは別人のようだな」

「え。あー……おほほほ」


 とりあえず笑ってごまかす。今回はまだ【 悪役令嬢モード 】は必要ないかな。



 ◆



 紅茶の良い香りがすっと鼻腔に拡がる。さすがはパニウラディア公爵家、良い茶葉を使ってるみたいだ。

 あまり知られてないけど、紅茶にも薬効がある。もっとも、薬と呼ぶには効果は薄いけどね。

 そんなことを考えながら注がれたお茶に口をつけていると、メイドを遠くに下げさせたスレイアが口火を切ってきた。


「──やはり無事だったのだな」

「良かった、私すごく心配してて……」


 ああ、あの場ではあんまり説明する時間が無かったから、心配してくれてたのか。悪いことをしたなぁ。


「ごめんねネネト。心配かけて」

「いいえ、ロゼンダが無事なら良かったです」

「さてロゼンダ。そなたには色々と聞きたいことがある。まずおぬしは──あのときあのワイングラスに毒が入っていたことに気づいていたな?」


 来た。まあ聞かれるとは思ってたけど。

 二人の目の前で堂々と飲んでしまったのにピンピンしている以上、こちら側の状況もある程度バレてる訳なので、誤魔化しすぎるのもよくない。とりあえずは頷いておく。


「ええ、気付いてました」

「あの毒を入れたのがネネトだということも?」

「薄々は」

「参考までに聞くが、お主はあれはどうやって混入したと考えておる?」

「あの毒は──ネネトのギフトによるものだと考えております」


 ピクリ、とネネトの肩が揺れる。

 ごめんね、別に責めるつもりはないんだ。


「……合格じゃ」


 ぱちぱち。スレイアが手を叩く。


「おぬしの察する通り、あの毒はネネトのギフトによって齎されたものだ。ネネトは──災害級ギフト《 禍毒(ベノム) 》のギフト保持者だ」


 やっぱりそうか。

 アルカイドル系の猛毒を、誰にもバレずに一瞬で精製するギフトなんて、スキルのライブラリアンであるボクでも《 禍毒(ベノム) 》くらいしか思いつかない。

 《 禍毒(ベノム) 》は過去に数人しか発現したことのない幻のギフトで、この世のあらゆる毒物を精製することができると云われている。

 その効果は一言で言うと激烈。簡単に街一つ滅ぼしかねない超強力なギフトだ。ゆえに、災厄カラミティ級に次ぐ災害級に位置付けられている。


「だがなぜ分かった? アルカイドル系毒はほぼ無味無臭だ。わらわでさえネネトの慌てた様子でやっと気づいたくらいなのに、なぜおぬしは迷いもなくそう判断したんだ?」


 ……さてなんて答えようか。

 あまり具体的に答えてしまうと、ボクの正体がバレかねない。なにせスキルのライブラリアンはこの国でも三人しかいないから、すぐに特定されてしまう。

 ボクの正体が〝ローゼン″だってバレると……ちょっとこの先この国で生きていく自信がない。


「おぬし──スキル持ちじゃな」

「はい」


 そこは素直に認めたほうがいいだろう。なにせあっさりと毒を飲んで平気な顔をしてるわけだからね。

 あの場ではワインを捨てるよりは角が立たないと思ったんだけど……こうして呼び出されている以上、もしかしたら失敗だったかもしれないな。


「どのようなスキルなのかは、教えてもらうことはできるか?」

「……」


 ここでボクは黙り込む。

 所有するスキルを公開するか否かは、人に強制されるものではないというのがこの国の常識だ。

 もちろん良いスキルであれば良い就職を目指すために率先して公開するものだけど、中にはペナルティとしか思えないようなスキルもあるしね。例えばネネトみたいに。


「うむ、言わずともよい。わらわには分かっておる。おぬし──《 毒物検知 》や《 毒無効化 》のスキル持ちじゃな?」

「……え」

「わらわが察するに、おぬしは王家の毒見役の家系なのじゃろう」


 んー、なんだか変な風向きになってきたぞ。


「しかもグラウリス王子の推薦で参加していたことから、王家から秘密裏の毒見役としてあのパーティに送り込まれておったのじゃな。いや、言わずとも分かっておる。コーデリー侯爵夫人におぬしのことを聞いた時も、意味深に微笑んでおったしな。万事に抜かりない夫人のことだ、裏から手を回して万が一の事態に備えておったんじゃろう」


 いや、コーデリー夫人が意味深なのは違う意味な気がするけど……ここはあえて否定もせずに黙っておく。


「ああ、別に無理して口にすることはないぞ。おぬしにも立場があるであろうからな。じゃが公爵家の娘であるわらわには全て分かっておることは、肝に銘じておくと良い」


 優美な仕草でティーカップをテーブルに置くスレイア。

 ……まぁ都合よく勘違いしてくれてるなら、あえて否定する必要はないかな。コーデリー夫人を見習って意味深に微笑んでおくこととする。


「なかなか肝に据わっておるな。これだけ言い当てても動じぬとは、さすがは王家の闇に生きる一族ということか」

「は、はぁ……」

「ああ、心配は無用じゃ。おぬしの正体は決して他に言わぬと約束しよう。──パニウラディア公爵家の名にかけて、な」


 ドヤ顔で宣言してくれるスレイア。

 もしかして彼女はちょっとポンコツだったりするのかな。美人な佇まいから勝手に有能な人だと思ってたけど、ちょっと見方を改めたほうがいいかもしれない。


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― 新着の感想 ―
[一言] スレイア様、淑女ならちゃんと人の話は聞かないと……
[一言] スレイアさん、ちょっと惜しかったですね。
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