13.新たなお誘い
ここから第三章になります!
「ちっ、なんで男に戻ってんだよ」
パーティの翌日、わざわざ報告に出向いたボクをグラウは舌打ちで歓待する。いくら幼馴染とはいえ失礼なやつだな。
「昨日は疲れてたから、帰ったらすぐにギフトを解除したんだよ。24時間経ってないからまだ使えないし」
結局ギフトの検証もろくに出来てない。まぁギフトは逃げたりしないから時間がある時にゆっくりとやれば良いんだけどさ。
「どうせなら女体化を解除しないまま来いよな」
「嫌だよ、なんでそんなことする必要あるのさ。そもそもなんかグラウの視線が気持ち悪いし」
「はぁーっ!? いやいやありえないし!! そもそもオレ様が気持ち悪いわけないだろっ!」
慌てて否定するところが実に怪しい。このスケベの前では極力【 女体化 】せずにいるようにしようと心に誓う。
「そんなことよりグラウ、約束の報酬は?」
「いやー、女体化してくれればサクッと渡すからさ。ちょっとここでまたギフトで……って、ちょっとローゼン、目が据わってるんだが」
「グラウ、君は約束を破るの?」
「い、いやいや冗談だからさ、そんな目で睨むなよ! ちゃんとメモリーカードは渡すから、さっさと報告のほう頼むぜ」
ボクはメモリーカードを受け取って一気に機嫌を直すと、手早く昨日の出来事を報告する。
今日はこのあと実家に寄る予定だから、エスメエルデを連れてきてないんだよね。あーはやく仕事を終わらせて、さっさとエスメエルデにカードを挿してアップデート作業に入りたいなぁ。
◆
「────という感じだったんだ」
ボクの報告を聞くと、グラウは妙に黙り込んでしまった。
どうしたんだろう。縁談候補のスレイアのお胸が残念だったことがショックだったのかな。
それともアフロディアーネのスタイルが良いと聞いて喜んでいるんだろうか。
「いや違うわ! 毒だろ!? しかもアルカイドルとか猛毒じゃねーか! 公爵令嬢クラスが参加するパーティで毒盛るなんてヤバすぎだろ!」
「あぁ、その件?」
「おいおい何落ち着いてるんだよ! 下手すりゃあ国家叛逆罪的な──」
「それは無いよ」
「は? なんで分かるのさ」
「だってあの毒は──〝ギフト″なんだもん」
ボクの言葉に、呆気に取られたような表情を浮かべるグラウ。
「なん……だと? なんでそんなこと分かるんだ?」
「アルカイドル系の毒は管理がすごく難しいんだ。持ち運ぶには専門の器材を使わないと無理だしね。だからあの場でワインに混入させるなんてことは不可能なんだよ」
それこそギフトでその場に毒を発生させない限りね。
「じゃあ……アフロディアーネがギフトで毒を盛ったのか?」
「なんでアフロディアーネなのさ。彼女は違うよ、そもそも毒を盛られていたことに気づいてなかったからね」
「む?」
彼女はなんの疑いもなくネネトにワインを渡そうとしていた。よもや毒入りだなんて夢にも思っていなかったことだろう。
だからこそボクは、彼女に毒が入っていることに気付かれないように対処する必要があったんだけどね。
「じゃあ一体、誰が毒を盛ったんだよ?」
「毒を盛ったって表現が良くないんだけど……ワインに毒を入れてしまった人という意味であれば──それはネネトだよ」
「はぁ!? ネネト!? スレイアじゃなくて、か!? 」
そこでなんでスレイアの名前が出てくるのかが分からないんだけど、毒のギフト持ちは間違いなくネネトだ。
「じゃあお前が友達になったネネトっていう男爵令嬢は、アフロディアーネに失礼な対応をされたから毒を盛ったっていうのか?」
「それも違うよ。あれはね、ギフトの暴走さ」
「なんだって!?」
「自分でもコントロールできずに発動しちゃったんだろうね。だからネネトは困惑してたんだよ」
あの時、ネネトはずっと困惑していた。
たぶんワインに毒を入れてしまったことに気づいて、だけど自分より上位のアフロディアーネが持つワインだったから対処できずにいて……。
「なるほどなぁ……毒のギフトか。スキルじゃないんだな?」
「スキルは暴走しないから違うよ。今回ネネトは毒をコントロールできていなかったからね」
「まあ自分の意思とは関係なく発現するのがギフトだからな」
努力や才能によって開花するスキルと違って、ギフトはその名の通り与えられたものだから、使用や制御が思い通りにいかないことが多い。
ボクの《 女体化 》だって、使用タイミングこそ自分で選べるけど、最初の発現時なんか意味不明なタイミングだったしね。
「きっとネネトは気が気でなかったと思うよ。勝手にギフトが発動しちゃってさ。下手に誰かが飲んでたら大事になってだだろうし」
「まぁ、その点お前がいて良かったな。【 毒のスペシャリスト 】であるローゼンがな」
「その言い方はやめてよね、ボクは【 薬物 】のスペシャリストなんだからさ」
ボクは【 薬物 】のライブラリアン。薬物研究が大好きな専門家で、様々な薬物を使った魔法薬を作ることがライフワークだ。
ゆえにボクは──研究のために、常時〝薬物を摂取″している。
その中には、アルカイドル系だけじゃないあらゆる毒物も含まれている。
だから、あの程度の量のアルカイドル系毒を摂取してもなんの影響も出ないんだよね。
「でもよ、なんでギフトを使ったのがパニウラディア公爵令嬢じゃなくて、その巨乳の子だって分かったんだ?」
「理由は目、かな。スレイアはどうもネネトが〝毒物関係″のギフトを持ってるのを知っていたようなんだ」
スレイアは明らかにワインに毒物が入っていることに気づいていた。
だからあのとき、ボクを気遣うような言葉をかけてきたんだ。
「そう、なのか?」
「うん。ネネトは『事情があって最近一人で王都に来た』って言ってた。それがたぶん〝ギフト覚醒″であって、どう対処して良いかわからなくで寄親のパニウラディア公爵家を頼ってきたんじゃないかなと」
それに、スレイアはいざとなったら自分が出て対処しようとしていた。タイミングを見計らっているときにボクがしゃしゃり出ていった感じだったからね。
でも、下手にアフロディアーネのワインをスレイアが取り上げたりしてたら別の意味で大事になっていた可能性もある。
そういう意味では〝捨て令嬢″であるロゼンダが出て行って良かったんじゃないかと思うんだよね。
「なるほどな、そういう事だったのか……やっと意味がわかったぞ」
「ん? なにが?」
「いや実はな、パニウラディア公爵令嬢から手紙を貰ってるんだ」
「は?」
どうしてスレイアがグラウに手紙を?
「内容の意味が分からなかったが……お前の話を聞いて得心したよ」
「ちょっと、読ませてくれない!?」
「ほらよ」
ボクはグラウに手渡された手紙を慌てて拡げる。
「どれどれ……グラウリス・バーラト・ファフニール・エル・グランバルト第三王子殿下、急なお手紙失礼する。
コーデリー伯爵夫人に伺ったところ、ギュルスタン子爵令嬢ロゼンダは殿下が招待したとお聞きした。
ついてはロゼンダ嬢を、3日後に我が館で開催されるお茶会に招待したいので、ぜひ声をかけて欲しい。ティプルス男爵令嬢ネネトールと共にお待ちしている。
パニウラディア公爵令嬢スレイア──ってこれは……」
「つまりこれは、お前をお茶会に招待したいってことみたいだな」
がーん。
一難去ってまた一難。
ボクに公爵令嬢からお茶会のお誘いが来てしまったんだ。




